第54話・外壁門前の騒動
王都の外壁門前、アリシアを光源として虫のように引き寄せられ集まった者たちの所為でちょっとした騒ぎになっていた。
その後、騎士の登場でうるさい輩は静かになったものの、その騎士がなんともきな臭い。
一応騎士の格好をしてはいるが、仄かに酒の匂いを漂わせる中年の男でアリシアを凝視してニヤリと笑う表情はなんとも気持ちが悪い。
「君たち、何を騒いでいるのかね。事情を聞かせてもらう。こっちに来なさい」
一見真面目に仕事をしようとしているように思えるが、全くもってそうでは無い。話を聞くならここでも良いし、鼻の下を伸ばしながらアリシアの腕をつかむ必要もない。
アリシアは腕を掴まれた瞬間俺でも寒気がするほどの殺気を放ったが、この騎士はそれに全く気がつかない。これ程の殺気に気がつかないとは国民を守る騎士として如何なものか。
俺は苛立ちながら騎士の腕を掴み、睨むようにして騎士と目線を合わせる。
「離せよ。俺たちは何もして無い」
「ああ?なんだ貴様は。部外者は引っ込んでいろ」
「部外者じゃない。そいつの連れだ」
俺が騎士の腕を掴む力を少しずつ強めていくと、騎士は顔を引きつらせて渋々アリシアから手を離す。
騎士は顔をしかめながら俺に掴まれた箇所を摩っていたが、突如何かを思いついたようにニヤリと笑う。
「騎士に暴力を振るうとは罰金では済まんぞ。本来なら監獄行きだが、それなりの誠意を見せれば見逃してやらんでもないぞ」
騎士は下衆な笑みを浮かべながらアリシアを凝視する。要するに俺を助けたければアリシアにそうしろということだろう。
下等な人間如きが…ぶっ殺してやろうか。俺の我慢の限界が近づき、腰に下げた刀の柄に手をかけて僅かに鞘から刀身を抜く。
「貴方は何をしているのですか?」
俺が今にも刀を抜きはなちそうになっていた瞬間、突然第三者が介入して来た。一体誰かと思い声がした先を見ると、そこにはどこか見覚えのある女性が立っていた。
服装は簡素なもので休日の町娘といった感じだが、白銀の剣を帯剣しておりなんだかちぐはぐだ。
中年の騎士はその女性を見ると顔を真っ青にして、ガタガタと震え始めた。
「イ、イレーネき、騎士副団長。な、何故ここに…」
イレーネ騎士副団長…?そうだ、思い出した。この女、ルルイエにいたあの女騎士か。服装が違うため気がつかなかった。
「何故って私は今日は休日ですから持ち場にいる必要はありません。私用についでについ先日左遷された貴方の様子を見に来たのですが、来て正解だったようですね」
女騎士は含みのある笑みを浮かべて話しかけ、騎士はその笑みを見て更に顔色を悪くする。
「ち、違うのです。この者たちが騒ぎを起こし、挙げ句の果てには騎士である私に暴力振るったため、それに対する罰を与えようと」
「貴方は馬鹿ですか。私がこの騒ぎの一部始終を見ていないとでも?」
この言葉を聞いた瞬間に騎士の顔色はこれ以上なく悪化する。
「職務怠慢で貴方をここに配属しましたが、貴方には門の見回りすらできないようですね。残念ながら騎士見習いからやり直していただきます」
「そ、そんな…」
「当たり前でしょう。貴方は騎士の何たるかが分かっていない。元々コネを使って騎士になった貴方は遠からずこうなっていたでしょう」
「……くっ、このっ」
騎士は顔を青ざめていた状態から一変し、途端に剣を抜き振りかざす。
しかし、女騎士は冷静に足払いをして騎士の体勢を崩し、そのまま頭と手を抑えて簡単に制圧した。
「貴方は騎士が抜剣することの意味が理解できていないようですね。貴方のような輩には騎士見習いすら不相応です。一から…いえ、牢屋の中からやり直すことですね」
門とはまだ距離があるが、騒ぎが大きくなりすぎたのか門兵たちが駆けつけて来た。
「君たち何を…はっ、これはイレーネ騎士副団長!」
女騎士の正体に気づいた門兵が咄嗟に敬礼の構えを取る。
「礼は不要です。直ちにこの不届きものを連行してください。職権の乱用及び不正状況での抜剣です」
「はい、畏まりました」
門兵は女騎士と中年騎士を交互に見た後に、何が起こったのか納得したように即座に騎士を取り押さえた。
門兵が騎士を連行すると女騎士は衣服の汚れを払い、俺たちに頭を下げる。
「申し訳ありません。このような不祥事、二度と起こらぬように気をつけますのでお許しください」
「やめてくれ。騎士副団長なんかに頭を下げられたら、俺たちの方が気がひける」
「いえいえ、見たところかなりの業物をお待ちのご様子。名の知れた剣士なのでしょう?」
僅かに見せた刀身からこの妖刀の価値が分かるのか。先ほどの身のこなしといい騎士副団長の名は伊達ではないといことか。
「いや、これは貰い物でな。俺自身剣に関してははからっきしさ」
「そうなのですか。それでも非があるのは私の方ですから謝らせてください。奥さんにも不快な思いをさせてしまいましたし、お子さんも怖がらせてしまったかもしれません」
奥さんにお子さんか、確かに男女の大人2人に幼い子供が一緒なら家族と思うのが当然かも知れないが、それにしては子供が育ちすぎだと思うがな。
「お姉ちゃん、さっきカッコよかったよ」
リムが励ますためか正直に言ったのかは分からないが、女騎士を讃える。
「ありがとう。王都内にいる騎士はちゃんとしているはずだから安心してね」
「うん。初めて来たからすっごい楽しみなの」
「そう、商店街には色々なものが売っているからお父さんたちにおねだりしてみると良いよ。そっちのお姉さんもね」
「うん」
「は、はい」
元気よく返事をするリムとは違い、ルセアは外套を深く被り顔を見られぬように隠れるように俯く。
「では、私も後処理がありますのでこれで失礼します。王都で楽しんでいってください」
女騎士が去るとルセアはほっと息を吐く。
「危なかったです。イレーネさんとは面識があったので、肌色を誤魔化しても意味がないですから」
失踪した冒険者が生きていると明かされるのは危ないということか。何にしろ、あの女が王都にいるということは頭に入れておかなければいけないな。
その後、俺たちはズレた列に並び直す。先ほどの騒ぎのせいか流石に再びアリシアに群がる連中はいなかった。
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