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第30話・目覚め

 俺に抱きついたまま眠ったリムを部屋のベッドで寝かせようとおもったのだが、ここで一つの問題が起きた。


 リムが俺の服から手を離してくれない。やんわりとリムの手を開かせても、またすぐに掴んでしまう。


 無理矢理離して掴まれない距離を取ると、うなされるように手を動かして俺を必死に探す。


 リムが俺を離さないのは、俺に遠くに行って欲しくないからだろう。


 仕方ないから、俺も一緒にベッドへ入ることにした。アリシアによる俺のロリコン疑惑が深まっていきそうだが、仕方ない。


 リムとともにベッドに入ると、子供特有の体温の高さゆえか俺まで眠くなってきた。


 ダンジョンマスターとなり睡眠は必要なくなった俺だが、別に眠れないわけではない。


 実際に習慣として毎日5時間ほどは睡眠時間を取っている。眠らなくとも大丈夫なのは分かっているが、眠らないとどうにも気分が悪く最低限の睡魔はとっている。


 肉体的には必要ないはずなので、精神的な問題だろう。


 今感じる眠気も払うのは容易いが、どうせリムが起きるまでこのままいなければいけないのだから眠ってしまっても問題ないだろう。


 リムの温かさを感じながら俺は意識を手放した。



 ☆ ☆ ☆ ☆



 しばらくして、目が覚めた。体感では4時間ほど寝ただろうか。


 横向きに寝ている体勢だが、お腹のあたりが温かい。毛布の中にいるようで見えないが、その正体は予想がついている。


 十中八九リムだろう。一緒に寝たのだから当たり前だ。


 それはいいのだが、不思議なのは背中も温かいことだ。2つの柔らかいふくらみが押し当てられている。リムも子供特有の柔らかさを感じるが、それとは違う柔らかさだ。


 その2つの双丘を押し当てている犯人に目途は立っている。見なくともわかる、アリシアだ。それ以外にいない。


 なぜ、アリシアが一緒に寝ているのか。彼女はリムを抱えて2階へと上がる俺を笑顔で送ってくれたはずだ。


 俺が眠りにつくまではいなかった筈だから、その後に入ってきたわけだ。


 リムに抱きつかれるのは別に良いが、アリシアは訳が違う。俺は奥手な方だが、胸を押し当てられ続けて正気でいられる自信はない。かといってリムが一緒に寝ている状況で寝ているアリシア相手に()()わけにもいかない。


 状況を打破するためになんとか逃げ出そうとしたが、リムは俺の服を掴んだまま眠っている。それどころかアリシアまで俺の服を掴んでいた。


 リムのこともあり、振り払うわけにもいかない。結局、俺は2人のどちらかが起きるまでこの状態のままでいることになる。


 果たして俺は我慢し続けることはできるのか。頑張れ、俺の理性!



 先に起きたのは、アリシアだった。


「ん、ん〜」


 艶めかしい声を上げて、目を覚ました。上半身を起こして体を伸ばした。


「あ、カナデさん、おはようございます」


「おはようじゃねぇよ。なんでお前も一緒に寝てるんだ?」


「え、それは…カナデさんと一緒に寝たかったから…」


「寝たかったって、なんで今になって」


「だって、その子はずるいじゃないですか!カナデさんに抱きついて、挙げ句の果てには一緒に寝ようとしてるんですよ」


「ずるいって。リムはまだ子供だ。大人と一緒に寝たって別におかしくはないだろ」


「確かにその子は()()子供かも知れません。けど、後数年もすれば美人な女の子になります。今のままじゃカナデさんを取られちゃいます!」


「取られるって…」


「とにかく私はその子に負けるわけにはいかないんですよ!」


 アリシアはビシッ!と毛布の中のリムを指さして主張した。アリシアは起きたばかりで頭が回っていないのか、俺への気持ちが駄々漏れだ。冷静になった後で悶える羽目になるだろう。


 俺は朴念仁ではないつもりなので、ここまで正直に言われればアリシアが俺をどう思っているのか大体予想はつく。


 しかし、その気持ちを伝えられるのは今では嫌だ。もっとそれにふさわしい状況でないと。


「分かった、分かった。それ以上は俺やお前自身のためにも言うな」


「うっ、…分かりました」


 アリシアは俺の言葉を聞いて多少は冷静になったのか、気まずそうな声をあげた。しゃべらなくなりはしたが、俺をつかむ手は離さない。


「リムが起きるまでだぞ」


「はい」


 アリシアの恥ずかしそうな返事が聞こえる。リムを構い過ぎてアリシアを悲しませないようにしないとな。彼女も大事な家族だからな。


 アリシアが起きてから10分ほどしてから、リムが目覚めたようで俺のお腹の位置でもぞもぞと動き出した。やがて毛布からひょこっと顔を出した。


「ん、おにいちゃん、おはよ」


「ああ、おはよう。よく眠れたか?」


「うん、こんなにぐっすり眠れたの、すごい久しぶり」


「そりゃ良かった。これからはリムが毎日ぐっすり眠れるようにしないとな」


「うん!」


 リムの頭を撫でながら、新しい家族の幸せを願った。すると、後ろから背中をつねられた。


 つい忘れていたが、アリシアも寝ているのだった。もしかしたら、今の会話に嫉妬したのかもしれない。


「ア、アリシアもおはよう」


「はい、おはようございます。昨日会ったばかりなのに、ずいぶん仲がよろしいですね」


 やっぱり嫉妬していた。言葉に棘がある。アリシアを何とか宥めなければいけない。何を言えばいいのか考えていると、リムが体を起こした。どうやらアリシアの存在に気付いたようだ。


「おねえちゃんも一緒に寝てたんだね。おねえちゃんもおにいちゃんと仲良しなんだね」


「ええ、そうですよ。私はカナデさんとずっと一緒に暮らしてますからね」


 リムの言葉にアリシアは自慢するように答えた。


「じゃあ、今度も3人で一緒に寝ようね」


「「えっ」」


 リムの意外な発言に俺とアリシアは驚いた。


「わたしがぐっすり眠れたのは、おにいちゃんがいたから。おにいちゃんが眠れたのはおねえちゃんがいたからでしょ。だから、次もみんなで寝るの」


 おれは何も言い返せなかった。リムはともかくとしてアリシアに抱き着かれて眠るのは俺の理性を容赦なく削ってくる。


 しかし、まさか俺が眠れたのは、アリシアのおかげじゃないなんて言えない。そんなことを言えば、アリシアは確実に傷つく。それはだけはできない。


 そうなると、この提案を断れるのはアリシアだけだ。俺はアリシアがこの提案を断ることを願った。


「ま、まあ、私も一緒であるなら良いでしょう」


 アリシアは上機嫌で言った。リムはアリシアの答えを聞いて満足そうにうなずいた。


「じゃあ、これから眠るときはみんな一緒だね」


 リムは満面の笑みで俺に死刑宣告を下した。アリシアやリムと眠ることが嫌な訳ではない。しかし、俺の中の野獣が暴走する可能性があるためできれば避けたかった。


 2人が寝ている間に俺が野獣となってアリシアを襲ってしまったら、かなりまずい。アリシアには睡眠中に襲われるという悲惨な経験をさせるわけにはいかない。リムに対しても、幼い子供の前でそういうことをするのは教育的にも良くない。


 結局のところ、俺の理性にかかっているわけだ。果たしていつまでもつだろうか。


 俺の苦悩をよそに、アリシアは悪魔の提案をしたリムと友好を深めていた。


「これから、私たちは家族です。リムちゃんといいましたね、困ったことがあれば言ってくださいね」


「あ、はい。よろしくお願いします」


 アリシアの豹変にリムも少し戸惑っているようだ。とはいえ、仲が悪いよりはいいか。


「2人とも、そろそろ起きてご飯にしよう」


「はーい」


「はい」


 2人の返事を聞いて家族だな…と感じた。


最新話の終わりから感想、評価をつけることができます。


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