第28話・眠り姫
「あの…。ここ…どこなの?」
エルフの幼女が壁を伝いながら2階から顔を出した。どうやら思っていたよりも早く起きたようだ。
「おっ、目が覚めたのか。体調はどうだ?」
「え、ええと、ちょっとふらふらするけど、元気だよ」
「そうか、そりゃよかった」
治療の甲斐あって多少ふらつきはしているが、特に具合の悪そうなところは見受けられない。
「おにいちゃんたち、だあれ?」
「俺はカナデ、隣の彼女がアリシアだ。俺が君をここに連れてくるように頼んだんだ」
「わたしを、ここに…」
エルフの少女は急に怯えだして、震えた声で言った。
「おにいちゃんも…わたしに…ひどいこと…するの?」
おそらくレプテンの豪邸の地下室でされていたことを思い出したのだろう。
「いや、そんなことはしないよ」
「…ほんとう?」
幼女はびくびくして、怯えていた。
「ああ、君にひどいことはしないよ。約束する。そうだな、落ち着くためにもまずは温泉にでも浸かってくるといい。その後、ご飯にしよう」
「ご飯をもらえるの?」
幼女ご飯という言葉に反応して、身を乗り出した。
「あげるから、まずは汚れを落としてくることだ。アリシア、ついて行ってやれ。同性のお前の方が安心できるだろう」
「分かりました。じゃあ、行きましょうか」
アリシアがまだ怯えている幼女を連れて温泉へと向かった。幼女は辺りをキョロキョロ見渡して落ち着きがない。
温泉に入ることで少しでも和らげばいいのだが。
女性たちが温泉に浸かっている間に、俺は食べ物を用意する。
俺とアリシアは本来食事の必要はないが、一種の娯楽として食事をすることはよくある。
アリシアにはいつも通りケーキを出しておき、俺は以前狩った魔物の干し肉を用意する。
エルフの少女には消化のしやすいものが良いため、おかゆとかでいいだろう。
スプーンやフォークも用意して一階のリビングにあるテーブルに置く。いつもはアリシアと俺しかいないため椅子も1つ増やしておく。
食事の準備が終わるころに、女性陣が温泉から上がってきた。
「カナデさん、見てください。きれいになりましたよ」
エルフの少女は連れてきたときには薄汚れていたが、今はすっかりきれいになっていた。まだ幼いが、造形は整っており5年も経てば絶世の美女になるだろう。
痛んでいた髪も多少はきれいになり、濡れた銀髪が美しく映える。もともと魔物であるアリシアほどではないが肌も白く、いまは温泉から上がったせいか僅かに朱が差している。
「きれいですよね、この髪。今は手入れ不足や栄養不足なんかのせいで艶がないですが、ちゃんと手入れすれば凄いことになりそうです。女として少し羨ましいです」
「そうだな、あまり気にしていなかったが、よく見ればかなりの美人さんだしな」
「えっ、カナデさん、やっぱりそういう趣味が…」
「違うってば、そういう意味で言ったんじゃねえよ」
「ほんとですか~?」
「本当だ、俺は小児性愛者じゃない」
俺とアリシアのふざけた会話に、エルフの少女は俺を見たりアリシアを見たりとおろおろしている。
「もういいだろ、この話は。さっさと飯にするぞ」
「まだ話は終わってないんですが…まあ、いいでしょう。カナデさん、私はケーキですよ」
「分かってる、もう準備してるよ。良い加減に飽きないのか」
「飽きるなんてあり得ないです!この至高の味がカナデさんにはわからないのですか」
凄いなこいつは、美味しいのはわかるが流石に毎日10個以上食べれば飽きると思うのだが。
「あの〜カナデさん?聞いてますか」
まずい、アリシアはケーキの話をし出すとなかなか止まらない。この前は2時間近くケーキの良さを語られた。
アリシアに付き合っていては拉致があかない。アリシアを無視してエルフの幼女へと向き直る。
「君のご飯も用意してあるんだ。一緒に食べようか」
幼女の前でしゃがみ、目線を合わせて言った。
「何を食べさせてくれるの?」
幼女はまだ怯えている様子だが、先ほどよりはマシになった気がする。
「君は胃腸が弱ってそうだから、このおかゆだよ」
俺はテーブルの上にあるおかゆを指さした。
「全部食べていいの?」
「ああ、いいぞ。ほら、椅子に座って食べよう」
エルフの少女を椅子に座らせ、目の前におかゆを差し出した。喉を鳴らす少女にスプーンを渡し、食べるように促す。
すると、少女は一瞬ためらったが一口食べると、それから掻き込むようにして食べ始めた。
干し肉をかじる俺と、俺に無視されて仕方なくケーキを食べているアリシアはその光景をほほえましく見ていた。
やがて、少女はすべて食べきってしまうと少し残念そうな表情をしていた。
「おかわりもあげたいけど、胃が小さくなっているときには食べすぎるのは良くないからね。その代わりというわけじゃないけど、これをあげるよ」
俺はシュークリームを生み出して彼女の前へと置いた。
「これ、なあに?」
「甘いお菓子だよ。まだ物足りないかもしれないけど、これで我慢して」
お菓子だと説明したが少女は食べようとはしない。初めて見る食べ物を警戒しているようだ。
俺はシュークリームをもう1つ生み出して、自分で食べた。俺が食べている様子を見て、少女も恐る恐る1口かじった。
「あま~い。おいしい!」
1口食べて、美味しいものだと理解してかぶりついて食べ始めた。すぐに食べ終えて満足そうな顔をしている。
急いで食べたせいか、口の周りにクリームをつけている。俺は少女の口を布で拭ってあげた。傍から見ればほほえましい光景だったのだが、それに一石投じるものがいた。
「カナデさん、今の食べ物なんですか!」
アリシアは机をバンッと両手で叩き、その視線はシュークリームに釘付けだ。
しまった、地球のお菓子に夢中なアリシアが、新しく見るお菓子を見逃すはずはない。
「はぁ、シュークリームだよ。食べたいのか?」
「はい!食べたいです」
俺がため息をつきながら、尋ねるとアリシアは即答した。
アリシアの要望に応えて、シュークリームを出しながら少女に聞いた。
「俺たちがだれなのか、そして君がここに来た経緯を説明するよ」
少女は一瞬、驚いた顔になったが覚悟を決めたように真剣な顔になった。
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