第16話・百足竜
それは全長20メートル近くはある百足だった。本来の百足よりも足の本数が少なく太い。体は黒い鱗のような外骨格を纏っていた。大きな顎をもっており、人なんか容易く切断できるだろう。
「でけぇな、こいつがダンジョンマスターか?」
俺は確認のためにこの百足に鑑定を使用した。
【種族】 百足竜
【ランク】 A
【LV】 18
【HP】 100
【MP】 110
【力】 90
【魔力】 100
【防御】 120
【俊敏】 90
【治癒】 20
【スキル】
『硬化Lv3』『噛み付きLv2』
『麻痺毒Lv2』『突進Lv2』
『咆哮Lv2』『龍の息吹Lv1』
【称号】
『蟲竜』
【種族】 百足竜 ランクA
Aランク下位の虫族魔物。虫族に属しながら龍族にも属する魔物。巨体を生かした突進や踏み付けを得意とする。虫族と龍族両方のスキルを使える。
百足だが一応竜でもあるわけか。確かにそういわれれば、竜に見えなくもない。ベルゼブブと同じで虫族以外の種族に属しているな。それにしても、仮にもAランクだが能力値が低くスキルも育っていない。
いくらAランクでもLVが低ければ大して強くないというわけか。ダンジョンの魔物たちは総じてある程度育っていたからな。
それと称号にダンジョンマスターがない。この部屋から次の階層へと進む道も見当たらないし、やはりこのダンジョンは死んでいてその亡骸をこいつが住処にしたのだろう。
とはいっても、いきなりAランクの虫族魔物に会えるとはついてる。早速味方にしてダンジョンに連れて行こう。
百足竜は触覚を動かしながらこちらの様子をうかがっている。俺は眷属支配のスキルを意識しながら百足竜へと命令する。
「俺は蟲王だ。お前も俺の眷属の1人、俺に仕えることを許そう」
百足竜は一瞬体を震わせると、即座に天井から降りてきた。俺の目に前でうずくまり身を伏せた。
「よし、Aランクの魔物も仲間になったし、いったんダンジョンに帰るか」
「そうですね、しかしいきなりAランクとは運がいいですね」
「ああ、LVは低いが育てればかなり使えるだろう」
「今回はこれで終わりにしますか?」
「そうだな、こいつもダンジョンに連れ帰らなきゃいけないしな」
俺は百足竜を指さしてアリシアに答えた。
「その子はダンジョンマスターじゃなかったんですか?」
「ああ、お前の言う通りこのダンジョンは死んでるよ」
「ずいぶん浅いダンジョンでしたね。もしかしたら、その子が成りたてのダンジョンマスターを殺しちゃったのかもしれません」
「なるほどな」
ダンジョンマスターはダンジョンコアに触れた魔物が成る者だ。ダンジョンマスターになることで人間と同等近くまでの知力を得る。
しかし、得るのは知力といくつかのスキルだけだ。戦闘能力は大きく変わることはない。そもそもの自力が弱ければ、ダンジョンマスターとはいえ直接闘うと簡単に殺される。
所詮ダンジョンマスターも一魔物にすぎないわけだ。本来ダンジョンマスターは強くある理由はあまりない。
基本的にダンジョンマスターはそのダンジョンの最深部に居座る。故にダンジョンマスターが直接闘うことになるのはダンジョンをほぼ攻略され、最深部に来た時だけだ。
ダンジョンを最深部まで攻略した侵入者に多少強い程度では到底敵わない。ダンジョンマスターはダンジョンなくして生きられないため、逃げるという選択肢もない。
そのため、ダンジョンマスターは基本的に弱くとも良いのだ。とはいえ、例外である時はある。
それはダンジョンができたばかりの時だ。ダンジョンが1,2階層しかない場合はすぐに侵入者がダンジョンマスターの元へと辿り着いてしまう。
その場合には侵入者を撃退するために強いほうが良い。
このダンジョンは1階層しか無くこの百足竜の侵入を防げなかった可能性が高い。ダンジョンコアも見当たらないあたり、百足竜がダンジョンマスターと共に壊してしまったのかもしれない。
ダンジョンマスターを殺したものがダンジョンコアに触れてしまい、次のダンジョンマスターになってしまうことがあるらしい。しかし、壊されてしまえばそうはいかない。
ダンジョンコアは腐食や劣化はしないが、物理的な衝撃には強くない。そのため、破壊されてしまうことも少なくないようだ。
このダンジョンもその事例の1つだったようだ。
このダンジョンには特に何もなかったため、百足竜を連れて俺のダンジョンへと戻ることにした。
帰り道にまた厄死蝶が反応した。その目線が差す先には赤黒い毛を生やした熊の魔物がいた。先ほどのホーンラビットとは違い、初めて見る魔物なので鑑定で種族だけ確認する。
【種族】ブラッドベアー ランクD
Dランク中位の獣族魔物。Cランクにも匹敵する力と耐久力を活かした白兵戦が得意。その反面、動きは鈍重で魔法も使うことができない。
ホーンラビットよりは強そうだが、それでも所詮Dランクだ。こちらはBランクが一体、Aランクが3体いる。負ける道理はない。
耐久力が高いなら、百足竜の力を見るにはちょうどいい相手かもしれない。
「百足竜、あいつを倒して俺に力を見せてみろ」
「グギュシャアァァ」
百足竜は雄叫びを上げて体を震わせ、木々をなぎ倒しながらブラッドベアーへと向かっていった。
こちらは厄死蝶のおかげで見つけたため、相手はまだ気づいていないみたいだ。
近づくに連れ木々をなぎ倒す音で気づいたようだが、その時にはすでに百足竜が目の前まで迫っていた。
「グアッ」
ブラックベアーは腕を振りかざし攻撃しようとしたが、百足竜の鱗に僅かに傷つける程度で終わった。
その次の瞬間には、百足竜がブラックベアーの腹部へと喰らいついた。百足竜はブラックベアーを捕らえたまま木々をなぎ倒しながら弧を描き俺の元へと戻ってくる。
俺の元へとたどり着くと瀕死のブラックベアーを咥えた状態だった。ブラックベアーは腹部が半分近く切断されており、大量の血を流していた。すでに反撃できるような力は残っていなさそうだ。
やはり、DランクではAランクには到底敵わなかったようだ。百足竜の自分の利点を生かした突進攻撃は単純だが、それ故に強い。
今はLVこそ低いがそれでも十分に戦力になることが、目の当たりにすることで分かった。
獲物をしとめた百足竜を褒め、我が家のダンジョンへと帰った。
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