第15話・仲間探し
俺とアリシアはダンジョンの入り口まで来ていた。アリシアの部下に入り口の様子を調べてもらい、敵正反応がないのは確認済みだ。
今回連れてきた魔物は3体だ。あまり多いと目立つし、邪魔になるから人数は少なめだ。連れてきた魔物は姿を消せるアサシン・マンティス、俺の盾となるイブリース・スコーピオン。
3体目は感知機能のある魔物にした。
【種族】厄死蝶 ランクB
Bランク中位の虫族魔物。気配に敏感な魔物で発見される前に逃げる。追い詰められると呪いと病を帯びた鱗粉をまき散らす。
この魔物は魔力感知というスキルを持っており、一定の範囲の魔物や人を感知できる。虫の魔物探しには必要な魔物だ。
本当は俺とこの魔物3体でするつもりだったが、アリシアが無理やりついてきた。俺が心配らしい。
初めてダンジョンの外に出たが、そこは森だった。32階層ほどではないがそこそこ大きい木が立ち並んでいる。
「厄死蝶、近くの魔力の反応がするところに向かってくれ」
厄死蝶は肯定の意を示し、移動を始めた。俺とアリシアはイブリース・スコーピオンの背に乗り、アサシン・マンティスは姿を消して護衛をしてくれている。俺たちは厄死蝶の先導に従い、森の中を進んでいった。
森の中を進んで少しすると、厄死蝶が止まりこちらに合図をした。どうやら、魔力の反応が近くにあるようだ。
「警戒しろ」
俺は味方に指示して、周囲を見渡した。すると近くの草むらからガサガサと物音がした。
俺たちは物音のした方向を向いて、警戒していると物音の原因の張本人が飛び出てきた。
それはダンジョンの32階層でも見た角の生えた兎だった。
「なんだ…お前かよ」
「ホーンラビットですね。弱い魔物ですが、食べられますよ」
俺も確か、この世界に来て初めて食べたのがこいつだったな。
俺はダンジョンマスターになった時から、何も食べなくても生きていけるようになった。しかし、食べられないわけではない。
むしろ、腹は空かなくとも口のあたりが寂しくなり、何か食べたくなることがある。この魔物は生はきつかったが、焼けばそこそこいけるだろう。
それにお相手さんはやる気らしい。ホーンラビットはこちらを威嚇しながら唸っていた。
「こいつ、倒すか」
「なら、私がやりましょうか」
「いや、俺にやらせてくれ。戦闘を経験しておきたいし、こいつも試してみたいしな。」
俺は腰に差した妖刀の黒蛍を見せた。
「分かりました。危険は少ないと思いますが、気をつけて下さいね」
「はいよ、お前らも手を出すなよ」
俺は護衛の魔物たちにも指示をして、イブリース・スコーピオンから降りた。そして、黒蛍を引き抜こうとした。ところが黒蛍は刀身が120センチほどあり、刀を初めて使う俺には居合の形では引き抜けなかった。
腕は伸び切っているのに刃先が鞘から抜けずに無様な姿を見せる。心なしかアリシアの視線も冷たい。
そんな時だった、鞘が突如黒い霧へと変わり刀を抜くことができた。この鞘はもともと黒蛍の放つオーラから作られたものであったから、黒蛍が無様な持ち主を見かねて鞘をオーラに戻してくれたのだろう。なかなか気の利くやつだ。
そんな漫才をしている俺たちをホーンラビットは待ってくれず、一番近くにいる俺へと突進してきた。
「あぶなっ!」
俺はとっさに横なぎに刀を振った。刀身はちょうど敵の中心を捉え、抵抗なくその体を斬り抜けた。魔物はその勢いを殺すことなく、刀を振り抜き無防備な俺に衝突した。
「いてっ」
よろめいた俺の足元へと2つに分かれながら魔物は落ちた。俺は地面に横たわる魔物の死体を見ながら、刀に付いた血潮を払った。
「これ、危ないな…」
妖刀を眺めながら、先の戦闘を思い出していた。刀の刃が魔物を捉えたとき、まったく抵抗がなかった。魔物は俺に当たるまでその形を保っていたし、その遺体を見ればきれいに真っ二つになっている。
切れ味が良すぎる、さすがは最上位の妖刀というわけか。
「凄いですね、その妖刀…」
「ああ、俺も驚いてる。ダンジョンコアの魔力をかなり使って生み出した妖刀だから、それなりの物は期待していたがこれほどとはな」
「それなら、この子の体も切れるかもしれませんね」
アリシアはイブリース・スコーピオンを撫でながら言った。俺が刀と交互に見ているとイブリース・スコーピオンは身じろいだ。
「流石に味方で試し切りなんてことはしないさ。それより次にいこう」
仕留めた魔物を回収して、再び厄死蝶の後を追う。その途中で、木々が不自然に倒れている場所を見つけた。何か大きな生き物が通った跡のようだ。
「どうせだから、後をたどってみるか」
「そうですね、このサイズなら先ほどとは違い弱い魔物ではないでしょう」
俺たちは魔物の通った跡に沿って進むことにした。進んでいくと洞窟のような大穴に行き当たった。俺のダンジョンとは違い壁に洞窟があるのではなく、地面に穴があり下って進む形になっている。
「これはダンジョンみたいですね」
「俺のもの以外のダンジョンか、初めて見たな」
「お目当ての魔物はこの中みたいですね」
アリシアの言う通り、魔物の通った跡は洞窟の中へと続いている。
「初めてのダンジョン探検だな」
「私たちもされて怒ったのに気が引けますね」
「それはそれ、これはこれだ」
これから俺たちもされたダンジョン探検するわけだが、俺は別に気にしていない。俺が侵入者たちを許さなかったのはアリシアを泣かせたことが原因だからな。
俺たちは魔物探しをしながらダンジョン探検することにした。イブリース・スコーピオンに魔法で明かりを灯してもらいながら進んでいく。入ってすぐにアリシアが唐突に言った。
「残念ですが、このダンジョンは死んでいるか、長い間活動していない可能性がありますね」
「えっ」
アリシアがいきなり俺のテンションを下げてきた。
「このダンジョンは明かりがないですよね、本来ダンジョンは基本的に明かりがあるものなんです。ダンジョン内の魔物のためにも明かりがないと戦えませんからね」
「ダンジョンを光らせているってことか?32階層みたいに」
「そうではありません。魔力を与えることで発行する光苔というものを生やしているんですよ。ダンジョンそのものを光らせるよりもそっちのほうが魔力の消費が少ないんです」
「でも、俺のダンジョンにはなかったぞ」
「それは長い間活動していなかったからです。光苔は本来ダンジョンの気候では生存できないんですよ。ダンジョンが支援することで生えていられますけど、その支援を失ったらすぐに枯れちゃうんです」
「なるほどな、光苔のないこのダンジョンは、少なくとも動いてはいないってことか」
「そういうことです。けれど、光がなくとも見える魔物や、視覚以外の五感が鋭い魔物なんかの編成の場合は光苔はいらないので例外はあるんですよね」
「へぇ」
俺はアリシアからダンジョンについての知識を学びながら、ダンジョンを進んでいた。やがて、一匹の魔物にも合うことなく最奥であろう部屋に行きついた。
魔物の通った後はその部屋に続いていた。
「じゃあ、入るぞ。警戒しておけよ」
俺の掛け声とともに最奥の部屋に入った。そこは天井が丸くなっており、壁も天井もすべて岩だ。
その部屋には一見何もいないように見えたが、天井を見るとあの跡の正体がそこに居座っていた。
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