第10話・アラクネの経緯
アラクネ視点です
私はダンジョンで生まれた。目の前には一人の男がいた。その男は私が生まれたことをひどく喜んでいた。
「やった。虫の魔物を呼べたぞ。これでやっと奴らを殺せる」
彼はダンジョンマスターだったが、私に今すぐ何かさせるわけではなさそうだった。その後私はダンジョンの守りを任された。時折来る侵入者を殺す、それをただ繰り返すだけの生活だった。
彼は一定の期間ごとに新しい虫の魔物たちを生み出し続けた。その中には直感的にかなわないと思える者がいくつかいた。そんな魔物たちが生み出されると、私はダンジョンの守りの任を解かれた。
自由にしてよいといわれていたので、私はダンジョン最下層で暮らしていた。ある時、最下層のドームで壁と一体化した扉を見つけた。その中は小さな書斎になっていた。書類は散乱しており、その上にほこりをかぶっている。
書類を読み続けていくと、どうやらダンジョンマスターの過去についてのようだった。そこで私は彼の過去を知った。
☆ ☆ ☆ ☆
ダンジョンマスターの彼が死に、彼此500年近く経った。また今日もいつもと同じ日が続くと思っていた。しかし、今日は違った。私の部下である小型の蜘蛛の魔物が伝えて来た、侵入者だ。このダンジョンに侵入者がくるのはダンジョンマスターが死んでから初めてかもしれない。
しかも、その侵入者たちはなかなか強く20階層を突破されたという。となるとダンジョンマスターの残した忌々しい仕掛けが発動するはず。そうなれば、蟲王様がこの地に現れる。なんとしてでも、ダンジョンコアによる洗脳は防がなくてはならない。彼の罪をこれ以上、増やしてはならない。
おそらく蟲王様が召喚された場所は最下層のはず。私は最下層へと急いだ。最下層に着いても蟲王様は簡単には見つからない。最下層はこのダンジョンのなかで一番広く、森の中でもあるため蟲王様はそう簡単には見つからない。
「このままじゃ、どうすれば」
私は蟲王様を探し続けた。もしかしたら、ダンジョンコアの元へと向かっているのかもしれない。それならば、ダンジョンコアの元へと行けば見つかるかもしれない。
私たちダンジョンの魔物はダンジョンコアには触れることができない。だから、ダンジョンコアはダンジョンマスターが死んで玉座の足元へと落ちたままの状態だった。
ダンジョンコアには誘惑の呪いがかけられているはず、ダンジョンコアへと近づけば手に取るのは間違いない。そうなれば、洗脳の魔法が発動する。それだけは阻止しなければいけない。
私はダンジョンコアのあるドームへと急いだ。ドームに着くと、本来、真っ暗だったはずの空間にほのかな明かりが灯っているのが見えた。暗視のスキルも使い、明かりが止まっている場所を見ると多くの虫の魔物と一人の男がいるのが見えた。その男を見た瞬間にわかった。彼の方が蟲王様なのだと。
その蟲王様は今にもダンジョンコアに触れようとしている。まずい、ドームの入り口のここからでは阻止できない。
私は、糸をドームの真ん中辺りの天井へと貼り付けそれを引っ張り私も天井へと張り付いた。ここからならば私の糸が届く。
その時には蟲王様はダンジョンコアに触れてしまっていた。ドームに蟲王様の叫び声が響いている。私はとっさに蟲王様の腕に糸を巻きつけ上へと引っ張った。
蟲王様は腕が上がったことでダンジョンコアを手放した。頭を抱えているがどうやら洗脳は防げたようだ。
蟲王様はしばらくすると、再びダンジョンコアを手にとった。私はとっさに身構えたが、どうやらさっきとは様子が違うようだ。
いつでも行動に移れるように構えていると、ドームの壁や天井が光り始めた。私はこの光景を見たことがある。500年前にもこうしてドームは光っていた。
先代のダンジョンマスターが死んでからは、このドームは輝きを失ってしまった。その輝きが再び戻ったということは、新しいダンジョンマスターが生まれたということ。
誰が新しいダンジョンマスターかなんてわかっている。蟲王様だ。その蟲王様はこのドームの様子の変化に戸惑っている。その様子からは洗脳されたようには見えない。あの洗脳は情報の伝達も含んでいた。もし、洗脳が成功していたならば、あの様な行動はとらないはずだ。
しかし、外面から判断するには限界がある。直接話して、確かめなければならない。そして、このダンジョンを救ってもらわなければ。
私は色々な思いを胸に、絨毯の上へと降りたった。
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