第5話 [初めての闘い]
ーーー慶一に豪風を纏った一撃が襲い掛かる。
慶一は上手く交わしたが、 その衝撃で土が舞い散り視界が悪くなる。
一度でも喰らったら、ただでは済まないだろう。
攻撃を交わすのに必死で、魔法を使う余裕がない。
後ろは木々で覆われて逃げ場がない。
まさに、袋の中の鼠だ。
「ヴォォォォォォォーーッ!」
唸り声が聞こえた瞬間、左右から同時に襲いかかる爪が容赦なく慶一の皮膚を削った。
その衝撃で血が噴き出す。
しかし、まだ致命傷には程遠い。
今の攻撃で出来た一瞬の隙を慶一は見逃さなかった。
慶一は走り、森の主との間を詰めた。
血風を迸らせるその姿はとても美しい。
慶一は、魔法を使った。
「ラムズ!!」
雷が森の主に襲いかかる。効かない。一瞬の動きを止めただけで、気絶にも至らなかった 。
慶一は悔しいと、手をかたく握り締めた直後に御返しの一発が打ち込まれた。
「グハッーーーーーッ」
慶一の顔面に、大人の頭が三つほどはあろうかというとても巨大な拳骨がねじ込まれる。その衝撃で体が浮き、後ろに後転しながら吹っ飛んだ。
その直後の慶一の顔面を見たシスが「グロッ!」と言いながらも、回復魔法の「ヒール」を使い慶一の顔面を元の形に戻した。
顔面の形が元に戻った慶一は戦闘体勢に入り、森の主の居る方向に走り出した瞬間だった。
『ーーーチリ〜ン』
聞き覚えがある鈴の音が聞こえた。
周りを見渡すと森の主が気絶している。
その光景を見た慶一は、急いでシスを抱き抱え、走って逃げた。
「なんで、逃げるのよ〜〜〜!」
シスが慶一の腕の中でバタバタと暴れ始めた。
「あの分厚い皮膚のせいで雷魔法が効かないんだよ!!」
そんな弱気な慶一にシスがキレ始める。
「もっと頭を使いなさいよ〜〜!! 口の中で魔法発動させるとか!!」
そんな手があったか! と慶一は感心した。
「そんな感じで、本当に私を守ることができるの?!」
イヤイヤ、そんな約束はしていないと思いながら慶一は困った顔をしながらシスにツッコんだ。
「お前は戦わないんかい!」
そう言うとシスはドヤ顔をしながら一言。
「回復専門です」
そんな会話をしている内に森の出口が見えてきた。
走るスピードを上げる。
走る、走る、走る、とにかく走る。
森を抜けるとそこには、広大な草むらが広がっていた。
慶一は息を切らしながらも、思いっきり深呼吸をした。
シスは「降ろせ〜」とバタバタしている。
シスを降ろすとまたなんか言い始めた。
しつこいなぁ〜と思いながらも慶一は聞いてあげる。
「なぁ〜んと、私は蘇生魔法が使えるのよ!!」
その言葉で慶一の表情が変わった。
そんな事を聞いて表情が変わるのは当たり前だ。
なぜなら、 蘇生魔法を使える人はこの世界に10人もいないと言われるからな。
「おい、嘘だろ……」
「ホントよ!!」とシスから即答が返って来た。
謎の沈黙が……。
周りが広いだけあって余計に哀しく感じる。
#
ーーー日が暮れ、満天の星空の下で慶一とシスが横になっている。
静かになったと思い、横を見てみるとシスはもう寝ていた。
そんな姿を見てため息を吐きながら言う。
「今日は色々あったなぁ〜」
今日一日を振り返る。
すると、目から涙が溢れてきた。
「ほんっと、ダメダメだなぁ〜〜、俺……」
そう言うと涙を拭き、慶一はシスの居る方向に身体を向けて眠りに就いた。