第2話 [ 助け……た?]
静寂に包まれた中、熊は足の力が抜け『ドタンッ!』と倒れた。
慶一は今の一瞬で何が起きたのか頭の中を整理しきれていない。
「な、何が起きたの?」
と、この通りだ。
「さっき、鈴の音が……」
と考えていると、慶一は何かを発見した。
「ん? 何だろう、あの広場?」
慶一は走って森にぽっかりと空いた広場に向かった。
明らかに人工の広場だ。
そこには、よく使い込まれたダンベルなどがあったので、修行場だとすぐに分かった。
「何でこんな所に修行場が……。」
どんなに考えても結局理由は分からなかった。
「よし、見た感じもう誰も使ってなさそうだし使わせて貰うか!」
そして今日からこの広場は慶一の修行場となった。
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元パーティーと別れて、もう十日は経っただろうと思いながらいつも通り広場で特訓をしていた時だった。
『ガサッ 』
目の前の草木が妙な動き方をした。
慶一は内心怖がりながらも堂々と言った。
「おい、そこに居るのは誰だ!!」
すると、
『ガサッ……ガサガサ……ガサガサ』
明らかに何者かがいる音だ。
慶一は恐る恐るこの前の森の主ではありませんように、と祈りながら音のする方向に少しずつ、少しずつ、進んで行ったその時だった。
『ピョン!』
という音と同時に、水色の長い髪をツインテールにしているとても可愛らしい幼女が飛び出して来た。
普通の人よりも数倍臆病な慶一はそれに驚き、気絶してしまった。
しかし、そんな事は御構い無しに幼女は話し始めた。
「あなた、勇者さんだよね〜!! この前は森の主から助けてくれてありがとう!!」
慶一は気絶しているので何も聞こえない。
「だから…… あれ? どうして寝ているの?」
幼女は慶一が寝ているのだと勘違いし、起きて 起きてと言いながら慶一の肩をブンブン揺らしてみたり、顔をペチペチと叩いてみたが全く起きないので幼女は「死んじゃった〜」と泣き喚いた。
その声が届いたのか慶一は目を覚ました。
幼女はさっきまで泣いていたのが嘘のように笑いながら言った。
「起きた〜!!」
そして幼女は慶一の首に抱きついて言った。
「あ、私の名前はシス! あなたのお名前は?」
慶一は、何が何だか分からず困りながらもその質問に答えた。
「慶一…… うん、慶一っていう名前だよ」
シスはその言葉を聞いて、
「慶一、ありがとう!」
思わず慶一は「は?」と声を出してしまった。
意味が分からない。
この前の事といい、今の事といい……。
慶一の頭は益々こんがらがった。
慶一は何に対しての御礼だったのかをシスに聞いてみた。
するとシスは、
「森の主から助けてくれた御礼だよ!」
と、答えた。
慶一はもちろん目の前の幼女…。いや、今まで人を救ったことすら記憶にない。
慶一はシスに申し訳なさそうに言った。
「多分……というか、それ……勘ちーー」
勘違いと言おうとした瞬間、慶一の言葉はシスの言葉によって掻き消されてしまった。
「勘違いじゃないもん!!」
シスをよく見ると、涙目だ。
慶一はその表情に負け、「うん」と答えてしまった。
今の慶一は罪悪感でいっぱいだ。
産まれて一度も嘘をついた事が無かったことだけが取り柄だった慶一には重すぎる。
慶一が蹲っている中、シスは御礼は何が出来るかと一生懸命考えている。
御礼を何にするか決まったのか、シスは口を開いた。
「御礼、決まった〜」
シスは笑いながら言った。
慶一はそんなもの受け取れんとシスに目でアピールするが、「うん」と言ってしまった以上もう遅かった。