1. -1口目は弾けるー
「住めば都」
とはよく言ったものだ。
住み始めて、約5年。
住所が東京というだけで、わざわざ田舎から上京してきて借りたアパートの一部屋。
夜は寒く、昼は暗い。つまりは、日当たりが悪い。
それに、2階やお隣の人の物音がよく聞こえる。
住民の人は気づいていないのだろう。
ヤっている時の音が丸聞こえなのだ。
もう少し、恥を知ってほしい。
フリー、独身の身にもなれってんだ。
丸山 夏葉。
25歳。上京したて、彼氏どころか友達もほとんどいない始末。
仕事は雑誌の記者をしている。特集ページなどの取材をしに、東京のあちこちを廻っている。
ある時は女子高生の注目の的、可愛いコスメの特集。ある時はОLに人気の洒落たパンケーキの特集。
同じ雑誌を手掛ける記者は何人もいるわけで、必ずしも自分の取材が採用されるわけではない。
何とも息苦しい環境の中で仕事をしている。例えれば、戦場。
たまにある休日は思い切りだらけている。予定を人と合わせる機会がない私はほとんど自分の好む事をしている。どうやら私は自分だけの時間がないと駄目らしい。
11月某日。
来月の特集ページの為にとあるカフェへ取材に行くことになった。
今回は私の希望先ではないが、最近、人気の隠し系人気店らしい。
何でも、イケメン定員が多く、設定が特徴的らしい。
希望先ではないと言ったものの、私自身も結構楽しみだ。
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上司から送られたメールにはカフェへのマップが張り付けてあった。
裏人気という事で、かなり分かりにくかったが、何とかたどり着いた。
一見、ただの裏路地だが、よく見ると、目的のカフェだけ華やかさを醸し出していた。
ワクワクしてきた。
記者ながら、流行りなどには興味が無い上に、疎い。
そんな私でも期待できるほどなのだ。
きっと、このお洒落なドアの向こうにはどんなイケメン・・・じゃなくて、どんな美味しい取材材料があるのだろうか。
「お邪魔しまーす・・・」
おぉぉぉ・・・
これはあれだ。思った以上にお洒落だ。
凄く写真を撮りたい。だが、勝手に人様の私有地のお店の写真を撮るわけにはいかない。
一度、定員さんに許可を取ろう。
多分、キッチンの方にいるのだろう。
「あの・・・すいませ「いらっしゃいませー!」
え・・・?
何だ・・・何なのだ。
この輝かしいルックスを見せつけ、私の方をキラキラとした笑顔で見てくる、スーパーイケメンボーイは。
こんなイケメン見たことがないぞ・・・。
眩しい。眩しすぎる。完全に私の調査不足だった。
この世の中にこれほどのイケメンがいるとは。
失礼ではあるが、カフェで働くより、モデルなんかをやった方が良いのではないだろうか。
「おねーさん、もしかして記者の人?」
「え?あ、はい・・・!華光社から出版している雑誌の取材で来ました、丸山と申します。これ・・・名刺です」
「丸山夏葉・・・なっちゃんだね!」
「なっちゃん・・・?」
「夏葉だから!俺はね、ポップコーンだよ!ポコって呼んでね」
「ポップコーン・・・?ポコ・・・?」
駄目だ・・・。理解できない事が多すぎる。誰か助けて。切実に。
目の前にイケメンがいて、目は眩しくて痛いし、名前がポップコーンという事に頭が追い付かないし。
設定が特徴的とは聞いていたものの、これほどとは・・・。
「ゼリー店長!取材の人ですよ!」
「ぜ、ゼリー・・・」
ポップコーンの次はゼリーかい。
「こら、ポコ。お客様になれなれしくしない。」
キッチンへと続くと思われるカーテンから背の高い男性・・・いや、スーパーイケメンマンが姿を現した。
知ってた。分かってる。流石に二度目は覚悟してた。どんなイケメンが来ようと・・・。
しかし、やはり私はこのカフェをなめていた様だ。
出てきた男性は私よりも遥かに背が高い。サラサラのストレートヘアは綺麗な黒。吸い込まれそうな瞳も綺麗で曇りが無い黒だ。おまけに良い匂いがする。これは・・・レモンだろうか。
「どうも、うちの定員が失礼な事を・・・」
「いっ、いえ!とんでもないです・・・」
「間違えていたら申し訳ないのですが、丸山様でしょうか?」
「はいっ。これ、名刺になります」
眩しい。私の目を潰しに来ている。
ゼリーさん(?)は動きとか、見た目がなんとも爽やかだ。
ゼリー店長なんて呼ばれるのも分かる。
「申し遅れました、私ここのカフェ、【sugar table】の店長をしております、ゼリーでございます」
「ゼリー店長・・・改めまして、私は華光社の雑誌の記者をしております、丸山夏葉です」
「夏葉さん、今日は取材、よろしくお願い致します。」
「はい、よろしくお願いします」
『では、夏葉さん。取り敢えず、うちのお菓子達を紹介しましょうか』