小参期2
転移門が出来たので、父が様子見でちょっと異世界に行くことになった。
精霊に偵察で行き来してもらったので大丈夫だとは思うが、万が一直ぐに帰れない状況になっても父ならなんとかなるだろうと思って許可することにした。
「ミズちゃん、お母さんも行きたいんだけど。」
「駄目。直ぐに帰れる保証がまだ無いから。育児放棄絶対駄目。」
「ミズちゃんが面倒見てくれれば、二、三年いなくても大丈夫!」
「...駄目。」
「ミズ、いつでも良いぞ。もう行けるか?」
「ちょっと待って。念のため加護つけとく。後、精霊もつけとくから通信出来るか試してみて。」
「ミズちゃん、通信できたら私も行っていい?」
「...考えとく。」
「父さん、一応どの世界も呼び名は違っても神様は同じだから、困ったことになったら教会に行ってね。」
「ああ、分かった。」
「じゃあ、気をつけて。」
精霊で確認したときに『獣』と『人』経由でこちらに映像を送れることは分かっているが、音声は届くのかの確認がまだ取れていないので、今回はその実験も兼ねている。
しばらく待っていると『人』経由で風精霊に念話が届いたようで、複製して音にしてもらった。
<あー。着いたぞ。>
<聞こえるか分からんが、こっちはあちいな。>
<とりあえず、町か村探してみるわ。>
「無事に転移出来たみたい。」
「通信出来るみたいだし、行って良いよね?」
「大姉、まだ一方通行しか確認取れてないし、簡単に帰ってこれるかの確認が取れるまで待って。」
「父さんが帰って来られたら次は俺たちの番で良いよな?」
「中兄、イワナガ連れていくなら、準備が必要だよ?野宿なんて出来ないだろうし、食事もその辺の魔獣を焼くだけの料理を毎日って無理だと思うよ?」
「ああ、そうですね。荷馬車を用意して寝袋と食料も積み込んで、換金出来そうな金と宝石も持って行きましょう。」
「あれ?小兄も行くの?コノハナとサクヤも一緒に?」
「ミズ、俺達も行きたい。転移者達が煩わしい。」
「ああ大兄、順番に元の世界に送り返してるからもう少し我慢して。」
「でもミズちゃん、帰らないで移住するって言ってる人達も多いよ?」
「中姉、移住希望なら人材確保で呼んだ人達と同じ扱いにするから、この船から降りてもらうし、もう会うこともないと思うよ?」
<おーい。聞こえてるのかー?どうなんだ?これ。>
次の通信が来たのでこちらから返信を送れるか試してみた。
<お、聞こえた。>
<大丈夫そうだな?じゃあまたな!>
どうやら戦闘に入ったらしい。
映像では巨大な蜘蛛みたいな魔物と戦っていた。
父が行った世界からの転移者によると、魔物には魔法と呼ばれる力があり、一匹倒すにも4~5人でパーティを組んで魔力切れになるまで耐えてから叩き切るのが普通だそうだ。
稀に魔法が使える人間がいるが、大体は国のお抱えで軍に所属してしまうから、魔物退治には出てこないらしい。
魔物に軍を出すとそのすきに隣国が攻めてくるというから、とてもギスギスした世界なようだ。
戦闘が終わったようなので呼び掛けてみた。
<あー。ミズ、一回帰るわ。こりゃ駄目だ。>
映像を見てみると、持っていた剣がボロボロになっていた。
<ちーっと固すぎるわ。もっと丈夫な剣が欲しい。あと、装備も考えないと。溶けちまったよ。>
映像で蜘蛛が炎を飛ばしたり、雷を飛ばしたりしていたが、加護があるから体は無事だが、剣と装備が使い物にならなくなったようだ。
その世界の町までたどり着ければ相応しい装備も手に入るだろうけど、地図がないから町までどのくらいか不明なのが問題だった。
「父さん、帰還出来るか実験するから、渡した簡易座標発信期を使ってみて」
少し待つと音声が届いたようで、転移門に座標が表示され、光と共に父が帰ってきた。
「いやー。まいった、まいった。かてーわ、臭いわ、つえーわ。最終奥義でようやく切れたわ。しっかし、なんだあれ?あんなのがウヨウヨいる世界なのか?こえーな。」
確かに蜘蛛多いなーと思ってた世界だったが、住んでる人間も獣人も何とか撃退していたはず。
あの世界からの転移者に魔物の映像を見せてどの程度強いのか聞いて見ることにした。
「うっ、うっ、嘘だろー?!!。魔王倒したのかー?!!!」
「え?こいつが魔王?こいつ倒せば終わり???」
世界最強の魔王だから固かったのか。
臭いから素材も取らずに放置してきたけど、良いのかな?
「これ、復活したりする?他に魔王が発生するとかする?」
「あぁ、一度倒せばしばらくは大丈夫。大体500年に一回最強最悪の魔王種が何体か発生して、その中から魔王に進化する。魔王が発生すると魔物が活性化して、周辺の国が潰されるけど、五年待てば寿命で死ぬからそれまで逃げるのが普通。今回は大国の近くで発生したから討伐軍が編成されたんだが、被害を受けない周辺の国が虎視眈々と領土を狙ってるって話で国境にも軍を配置せざるをえなくて、討伐は失敗したと聞いた。」
「今の時間軸で元の世界に帰って伝える?それとも転移してきた時の時間軸に戻って元の世界に帰って魔王が倒されるのを待つ?」
「魔王が倒されるのが分かってるなら安心して帰れるから、元の時間軸で宜しく。」
「分かった。迷惑かけてごめんね?じゃあ、さようなら。」
転移門に時空精霊を付けて、転移者の記憶から特定した過去の場所に転移門を繋げた。
「あれが魔王かー。確かに強かったが、最強って感じじゃないな。装備考えて別の魔王に再度挑戦だな。」
「はいはーい。お母さんも参戦したいです。」
「んー。各世界の地図を作成するからちょっと待って。あと、各自行きたい世界を教えて。待ってる間に装備とかの準備もしといて。」
「「ああ」」
「「「分かった~♪」」」
「ミズっち、異世界にある魔法って私達が研究してる魔力を力にする方法と同じかな?」
「超能力って見せてもらったけど、ミズっちの精霊さん達と同じかな?」
「うーん、魔法は魔法陣とかいうのを使うタイプと魔石を使うタイプと特別な言葉を使うタイプと特別な歌を歌うタイプとあと踊るってのもあったね。」
「そうですね。超能力は何の動作もなくいきなり事象が変化するので驚きました。」
超能力はそこにあるものを変化させる物理現象みたいで、物体の発火、帯電による雷、空気中の温度変化による氷、重力変化による浮遊など、我の【ステータス】による書き換えと同じようだったが、魔法はそこに無いものもどこかから持ってきているのか、炎の矢だとか氷の矢だとか岩が降ってくるとか面白い現象ばかりだった。
「うん。興味深いよね。向こうに行ったら色々研究して教えてね。」
「ミズっちは行かないの?」
「一緒に行こうよ♪」
「婚前旅行のようなものだから、誘うのはちょっと...ねえ?ミズ。」
「エエ、エンリョシマス。」
「フフ。ごめんね?」
「「ごめんなさい♪」」
父母の2人パーティとコクヨウ兄さん・ムツキ姉さん・ヤヨイ姉さん・サツキ姉さんの4人パーティとキサラギ兄さん・イワナガの2人パーティとウツキ兄さん・コノハナ・サクヤの3人パーティでそれぞれ違う異世界に行くことになった。
三人娘達は婚前旅行も兼ねているので、安全な世界に行くらしい。
父母はガチで危険な魔王討伐ツアーで、姉達は力試しに異世界の魔物退治だそうだ。
三人娘達用に幌馬車を用意したので、転移門を甲板に移した。
時空精霊付きの便利なリュックも用意したので、一ヶ月分の食料と日用品と着替えも大量に入れこんでいた。
「ミズちゃん、それいいなー。お母さんも欲しい。」
「ミズ、俺たちは四人だから、移動用の家も持っていきたいな。」
「うーん、組立式の家なら入れられるけど、どの程度の大きさ?昔山で使ってたやつ?」
「そうね。あれがあれば楽だね。」
「リュックに入るなら入れてくれ。」
「馬車で寝るより楽そうだから、うちらも~。」
結局、みんな必要ということで、防御結界付きの家も用意した。
「地図持った?連絡方法も大丈夫?何かあったら連絡して。あと連絡も無理で困ったことになったら教会に行って。」
「「「ああ」」」
「「「分かった~」」」
「「はーい♪」」
「「「分かりました。」」」
転移門をそれぞれに合わせて送り出したので、甥っ子姪っ子と妹弟を甲板で遊ばせながら様子見することにした。
各世界からの映像を四つの画面で見ながら、時々転がってくる球を投げ返し、泥団子をもらって食べるふりをし、摘まれた花を頭にかけられながら落ちた花で花冠を作ってやったりしていた。
『ミズ様。ちびっこ達が疲れて寝てしまいました。ベッドに運びますが、まだこちらにおられますか?』
『ん?あぁ本当だ。寝ちゃったか。部屋に連れていってくれ。起きたらお昼ご飯にしよう。それまではしばらくここで異世界を観察する。』
育児精霊にちびっこ達を任せて家族の映像を見ていると、到着と同時に魔物の森に向かっていた両親がもう魔王城に到着していた。
魔王城に一番近い町に門を開いたとはいえ、何の情報収集もせずにいきなり殴り込みに行くとは思わなかった。
町の教会の人間には身分証を発行しておいてくれと神託を出していたはずだが、渡せたのだろうか?
町に戻るときに身分証が無いと入れないと聞いたが、戻るつもりはあるのだろうか?
さくっと魔王倒したら次の世界!って言って戻って来そうな気がする。
等と考えてるうちに映像では大きな狼のような魔獣を従えた魔人と戦闘していた。
どうやらこの魔人がそこの世界の魔王らしい。
母さんには絶対防御の加護をつけているから無傷だが、父さんは肋骨にヒビが入ったようだ。
少し顔を歪ませたが、次には魔人の頭を切り落としていた。
あまり鮮明ではない映像だが、一応色もついているので飛び散る血が黒いのが分かった。
臭いのか母さんが鼻を手で押さえて何か言っていた。
『ミズ様。御両親様が帰宅を願ってます。門を繋げますか?』
『ああ、でも臭そうだから此方に来る前に浄化してもらおう。水精霊、風精霊、頼んだ。』
『ハイ、ミズサマ。』
数体の精霊を送り込んで、ぬるま湯で洗い流し、温風で乾燥させてから門を開いた。
「ミズちゃん、ちょっと酷い。いきなり水浸しはびっくりよ?」
「部屋ごと丸洗いされたぞ?死体もどっかに流れていった。」
「お帰り~。そろそろお昼ご飯だけどどうする?」
次の両親の魔王討伐は一番遠い町から出発することになった。




