小壱期8
ヴィオレット王国に着いた。
もう飛行実験は終わりなので、今日は自室で魔力の研究予定だったのだが、ムツキ姉さんとヤヨイ姉さんには同行したのに、私とは一緒に行ってくれないんだとサツキ姉さんに拗ねられてしまったので、一緒についてきた。
「ミズちゃん、なんで家を飛ばさないのですか?楽しみにしてたのに。」
「あの家は飛ばすにはちょっと大きすぎるし、到着するたびに地面を抉らないといけないから、まだまだ実用的じゃないよ。」
「ヤヨイ姉さんだけなんてズルいです。」
「きちんと整備出来たら、少し小さくなるけどちゃんと家も飛ばすから。」
庭ごと家を飛ばすのは色々と問題が多い。
どうにかした方がいいかなと思いながら海を眺めていたら船が目に入った。
小国はみな海に面しているので船があるのは当たり前なのだが、今見ている船はかなり大きな船だった。
「小姉、あの大きな船は何?」
「北の大陸に行く船ですね。近くで見てみますか?」
「うん。乗ってみたい。」
「乗るのは乗船券がないと無理かと。でも見学だけでも出来ないか聞いてみましょうか。」
船長さんに頼み込んで中を案内してもらえることになった。
甲板はとても広く、姉達が鍛練に使っても十分な広さがあり、雨を貯めておく為か大きな水桶が端に幾つも並んでいた。
船室は色々なサイズがあり、値段によって大きさが変わるそうだ。
一番大きな部屋はお風呂も付いていて、お湯は船員が頑張って運んでくるのだそうだ。
航行中の水は貴重なので、桶一杯でいくらと残量に比例して値段をつけるそうなので、お風呂はそんなに使用されないらしい。
大概は港に停泊している間に使ったりしている人間が多いそうだ。
「停泊中の水は無料なの?」
「ええ、町の水路から引き込ませてもらえるので無料にしています。」
水は水精霊がいればどうとでもなるから特に参考にはならなかった。
そういえば、排水はどうしているのか気になって聞いてみたら、海に流しているそうだ。
獣人が船の制限をしているのはこれが原因のような
気がする。
船が少なければ汚染も少なくなって海の浄化作用で元に戻るが、余りに多く汚されると浄化が追い付かないということなのだろう。
色々と見て回ってみて船は飛ばすのに適している気がした。
厨房も医務室もあり、娯楽室も図書室も劇場もあった。
船底に貨物室があるから、排水はそこに槽を置いて、各部屋から排水管を繋いで底に集めればいいかな。
サツキ姉さんと元山賊達が魔物退治にでかけたので、我は待っている間に大型船を参考にして簡単な飛行船の設計図を作った。
その後、この町にある教会経由で獣人の国に行き、造船の依頼をして戻るとお昼になっていた。
サツキ姉さん達は夕方まで戻らないので、一人でご飯を食べることになったのだが、お金を持ってきていないので教会経由で家に帰ることにした。
「あ、にぃに!お帰りー。」
ちょうどお昼時でみんな城の食堂に集まっていた。
「あれ?ミズちゃん、今日はサツキちゃんと出掛けてなかった?」
「小姉がお金持ったまま魔物退治に行っちゃってお昼ご飯買えないからお昼食べに帰ってきたの。」
「あら大変。急いで作るわね。」
「にぃに、これ食べて。はい、あーん。」
ゲンブに差し出された魚の切り身を食べながらお礼にと頭を撫でてやると、凄く喜んで全部食べさせようとするので困ってしまった。
「ゲンブもちゃんと食べないと大きくなれないよ?」
「いいの!ちっちゃくていいの!」
最近はゲンブとの身長差が大分無くなってきたので、少し気にしていたのを知っているのか、大きくなりたくないと言い出した。
「ちゃんと食べないと強くなれないわよ?」
「ミズちゃんみたいに頭も良くなるには、しっかり食べないと駄目よ?」
母さん達もゲンブにちゃんと食べるように促すと、「にぃにみたいになる!」と言って頑張って食べていた。
我のご飯も運ばれてきたので暫く家族団らん(両親も兄姉もいないけど)してから獣人の国に戻った。
「いつ頃出来そう?」
「ミズ様。あの大きさの造船は通常一年以上かかります。」
「最優先で作りますが、交代制で造り続けても最短で3ヶ月位かかります。」
「結構かかるんだねー。僕も手伝う?」
六歳になって少しだけ大きくなったので創造の力も少しだけ使えるようになっていた。
少しだけなので船を造ることはできないのだが、材料の加工くらいは出来るかもしれない。
あとは【ステータス】で書き換えるくらいか。
「木材運ぶのに重いでしょ?軽くしようか?」
「いえいえ、重さも込みで設計してますので、軽くなるとバランスが崩れて沈没してしまいます。」
「え?これは水に浮かべないよ?」
「え?」
「これで空を飛ぶから、バランスが悪くても心配いらないよ?」
「え?え?え?」
「昨日、家を土地ごと飛ばしたら大変だったから大人数の飛行は諦めていたんだけど、今日ヴィオレット王国に行ったら大型船が停泊してて、これだ!って思ったから造船をお願いしたんだよ?」
「これで空を飛ぶのですか...海もそうですが、本当は規制対象なのですよ?」
「動力は火力じゃないから環境への心配はいらないよ?」
「そうですね。ミズ様だから可能なのでしょうけど。これで別の大陸に向かったりはしないですよね?」
「え?そのうち行くけど、駄目なの?」
「そうですか...以前お話しした人間達の汚染を閉じ込めている海域があるのですが、今なお汚染を垂れ流し続けているので、大気も汚染されていますし、その海域には近づかないようにしてください。」
「え?まだ浄化できてないの?」
「はい。少なくともあと三千年はかかるかと。」
この世界の半分位は汚染地域になっているので、浄化出来れば獣人も地上で暮らすことが出来るようになるのだろうが、これも罰のうちなので放置している。
「更に前の古代文明で浄化する手段があれば短縮できる?」
「解明可能であれば、参考にしてみてもいいかもしれません。」
多分まだ各地に残っているだろう古代文明の町を探しだして、参考になりそうな技術を発掘するくらいはいいだろう。
「見つけたら報告に来るよ。で、船は防水も考慮しなくていいから、雨を凌げる程度で。あ、甲板は丈夫な木にして。鍛練場にするから。」
「分かりました。見た目が船っぽい家ということですね?」
「そう。部屋は大型船の客室と同じでいいから。それから、やっぱり材料を軽くしておくよ。軽くなれば運びやすいから、少し早くできるかもしれないし。」
色々とお願いを追加してヴィオレヅト王国に戻ると、サツキ姉さん達が帰ってきた。
「ミズちゃん、ただいま。」
「お帰り、小姉。大丈夫だった?」
「ええ、余裕です。今日も大型の魔獣を駆除しました。大分数が減ってきたので、明日は別の町周辺で駆除します。」
姉達が仕留めた魔獣は小さな家位の巨体で、そのまま運んで来るのは難しいから解体してから持って帰ってきたとのことだが、皮と角と牙だけでもかなりの量になっていた。
「小姉、肉はどうしたの?」
「持って帰るには重いから、お昼ご飯に食べて、残りを持てるだけは持って、あとは捨ててきました。」
少し勿体ないけど仕方がないか。
明日は別の町に行くとなると空路を広げないと日帰り出来ないか。
「小姉、明日行く予定の町はここから遠い?」
「そうですね。馬車で1日位です。」
やはり各国の首都を結ぶだけでなく各町も空路を設置した方が良さそうだ。
「ちょっと待っててね。今、新しい空路を設置するから。」
「明日も一緒に来てくれてもいいのですよ?」
「飛行実験は大体終わったから、次の研究をしたいし、ちょっと調べものがあるから明日からは一人で飛んで。」
とりあえずヴィオレット王国の首都と各町を結ぶ空路を幾つか風精霊達に教え込んで、試しに一ヶ所飛んでみた。
小国なので、一番遠い町でも一刻あれば町と王都を行き来できる事が分かった。
「明日からはここの王都で乗り換えて使ってみて。」
「ありがとう。ミズちゃん。これなら毎日通えそうです。」
「できればもっと子育てに専念して欲しいんだけど。」
「私も駄目かなとは思うけれど、我が子に余り愛情を感じないからか、どうも人任せにしてしまいます。」
「えぇ?クジャクちゃんとっても可愛いよ?」
「ええ。可愛いとは思うのですが、全てを引き換えにしてもという感じにはなれません。他に見てくれる方がいるなら任せて、自分のしたいことを優先したいです。」
母さんもハツキを任せっきりだし、姉さん達も同じだからそれが普通のお母さんなのだろうか?
でも我は実の母に世話をしてもらう方が幸せを感じていたから、できるだけ母さんや姉さんたちには子育てに専念してもらいたい。
そのために毎日通えるように空路を整備したのだし。
「したいことをするのはいいけど、1日の半分位は子供と一緒にいてあげてよ。」
「ええ。ミズちゃんのおかげで毎日通えるようになったから、頑張ってみます。」
元山賊達と別れて家に戻るとちょうど夕飯の支度をしている最中だった。
「お帰りなさい。サツキちゃん、ミズちゃん。」
「ただいま。ウーマ母さん。みんなもう帰宅してる?」
「お帰りー、ミズちゃん。パールがまだだけどムツキちゃんとヤヨイちゃんは帰ってきたよ。」
「ただいま。ドゥルガー母さん。キサラギ兄さんとウツキ兄さんはまだ無理そう?」
「お帰り。ミズちゃん。さっき光精霊の通信でこっちに向かってるって連絡あったわよ。」
「ただいま。ガウリー母さん。キサラギ兄さんとウツキ兄さんも飛べたんだ。」
椅子飛行は不評だったので、小部屋を置いておいたのだが、姉達が便利に使っているのを聞いて試してみる気になったらしい。
早速感想を聞くために光精霊に伝達をお願いした。
風精霊で音声伝達も考えたが、そもそも風の結界に包まれて飛行しているので、別の風精霊を結界内に通すときに、風と風がぶつかって衝撃が生まれる気がしてやめた。
暇が出来たらどうなるか一度実験してみようと考えているうちに返事が来た。
「ミズへ
初めは怖かったが、慣れれば快適だ。
飛んでる間は暇すぎて困る。
鍛練するには狭すぎる。
キサラギより」
「ミズへ
これは便利ですね。
暇潰し用に数冊本を持ち込みましたが、もっとくつろげる椅子がほしいです。
ウツキより」
兄も姉も要求が細かく違うので、個人用に内装を変えて専用の部屋を作っておいた方がいいかもしれない。
鍛練場はさすがに部屋の中に作れないので、体に負荷をかける器具をいくつか用意してみることにした。
兄達も到着したので夕飯を食べながら、獣人達への追加工事依頼を光精霊に伝達してもらった。
『ミズ様、大型船の建造で手が空いていないそうです。』
『大型船は後回しでこっちを先にやってと伝えてくれ。』
『ミズ様、了解しましたと返事がありました。』
獣人も我も念話ができるので、光精霊の伝達はほぼ遅延なく伝達できるし、念話なので家族団らんしながらも伝達出来て便利だった。




