小壱期7
グリューンに到着した。
昼少し前に到着したので、町で昼食を食べることにした。
復興中の王都は簡易な食堂位しかないが、少し飛んだ先の町は名物料理があるというので、王都からさらに飛んで町の城壁から少し離れたところに下ろした。
そのまま下ろすと半球(地面)部分が潰れてしまうので、下ろす先の地面をくり貫いてからピッタリはまるように下ろした。
「ご飯だー。ミズちゃん、行くよー。」
ヤヨイ姉さんはどうやらこの町の料理が大好きなようで、我を置いて先に行ってしまった。
我は元兵士達と一緒に歩いて城門へ向かいながらこの町について幾つか質問した。
「ここの名物料理ってどんなものなの?」
「ここは魚介の出汁がきいた汁麺が旨いです。」
「いやいや、豚骨のやつが一番だぜ。」
「何いってるんだ。麺より焼き飯だろ!」
「肉包み焼きが最高です。」
「汁麺と焼き飯と肉包み焼きがお薦めってことで良い?他も何かある?」
「あー。甘味が幾つかあるようで、ヤヨイ嬢は食べ歩きをよくしてますね。」
「俺らはその間、娯楽に賭博場に行ったりしてるな。」
「お前は歓楽街だろ!」
「小さいですが格闘場も図書館もありますよ。この国はどの町も小さな王都のような感じで充実してます。」
「この辺の魔物はどんな感じ?やっぱり多い?」
「天罰以前は全く見なかったそうですが、天罰以後は度々目撃されるようになってきたそうです。」
「王都方面から流れてくるらしい。」
「王都周辺はまだまだ魔物が多いからなー。」
「王都周辺の魔物を退治すりゃあ、この国の魔物はほぼ退治したことになるくらいだな。」
元々大型の野生動物の少ない国だから、魔が取りつく動植物が小型の動物や鳥、昆虫、草木に絞られているのか。
この国の被害も王都とその周辺の町の数ヵ所で、天罰の犠牲者も少ないから、怨念も少ないのかもしれない。
以前に魔物がいなかったのは、もともと国民の不平不満が少ない良い国だったのだろう。
見習うべき所がありそうなので、色々と見て回ることにした。
「ミズちゃん、こっちこっちー。」
ヤヨイ姉さんが先に席を確保して既に料理も注文していた。
色々な種類の麺があるらしく、冷たい汁につけて食べる麺や、暖かい汁につけて食べる麺、汁と麺が一緒の器に入っている汁麺が数種類並び、更に焼き飯と肉包み焼きが運ばれてきた。
取り分け用に小さめの器をもらい、少しずつ全種類を食べようと試みたが、途中でお腹いっぱいになってしまって諦めた。
ヤヨイ姉さんは全種類を制覇したあと、食後にと甘味を頼んでいた。
「まだ食べるの?」
「甘いものは別腹よ!」
「お腹痛くなっても知らないよ?」
「それはそれ、これはこれ。痛くなったら考えるわ。」
「...肥るよ。」
「いいの!食べ終わったら魔物退治で運動するから、いいの!」
魔物退治はダイエットだったのか。
食事が終わったので姉達を連れて王都周辺に戻り、魔物がいそうな森の近くに下ろした。
「私達は魔物退治に行くけど、ミズちゃんはどうする?」
「この国の政治経済は参考になりそうだから、各町村を回ってみる。」
「そう?気をつけてね?夕方には帰ってくるのよ?」
「うん。教会経由か風精霊に運んでもらうから、すぐ帰るよ。」
姉達と別れて我一人なので、風精霊に頼んで久しぶりに単独で飛びながら、オラーンジュ王国にあった古代遺跡?がこの国にもあるかもしれないので、辺りを確認していた。
小国とはいえそれなりの広さがあるので、虱潰しに探すつもりはなく、見つけたら見に行く程度で探していたら、湖の底に建物らしき影が見えた。
『風精霊、下の湖の底に行きたいのだが、大丈夫か?』
『はい。ミズ様。このまま行けます。』
水の中だと息ができないので、風精霊の結界ごと湖に沈んで行った。
湖面からさす明かりの中、うっすらと建物が見えてきた。
町全体を覆う幕のようなものがあり、どうやって中に入るか考えていたら、町の門辺りから人が出てきた。
「※※※※※※※※※」
水の中でも息ができるのか、普通に話しかけてきたようだが、風の結界のせいで音が聞こえないし我の声も外に伝わらない。
仕方がないので、顔だけ結界の外に出し入れして一言しゃべっては聞いての繰り返しで、ようやく町の中に入れてもらえた。
町の中は普通に空気があり、草花も木も地上のものと変わらない感じがした。
「ここはなんという町ですか?」
「忘れられた町なので名前も忘れられています。適当に呼んで頂いて構いません。」
白髪の老人にそう言われたので、前に見た町が“アー”ならここは“ベー”でいいかと思った。
「あなた方は何故ここにいるのですか?」
「ここは住みやすい安住の地ですよ?何故外に行く必要があるのですか?」
「退屈ではないのですか?」
「娯楽ですか?若者は娯楽を求めますが、もう我々の年齢だとそのような欲求は無いですね。」
子供相手なのに丁寧に受け答えするのが気になったので、我のことを知っているのか聞いてみる事にした。
「もしかして、僕のことを知ってますか?」
「いいえ。ただ、このような所に単身で来られる実力がある人間だと理解しています。」
湖底は水圧が高く、巣潜りで到達できるほど浅くもないので、今まで生きた人間がここまで来ることはなかったそうだ。
外界から迷い込んで来る人間がいないので、住人達はみな人の純血種のようだった。
ここの町は老人ばかりで子供の姿が一人もいないのが気にかかり、聞いてみるとここ数百年は子供が生まれていないとのことだった。
長命種なので、百年に一人位しか生まれないらしい。
二十歳くらいの若者で百歳なのだそうだ。
「え?じゃあ、お爺ちゃんは何歳なのですか?」
「私は七百歳は越えていると思います。余り細かくは覚えてないですね。」
人間の平均寿命が50歳なのに、ここの平均寿命は千歳以上なのだそうだ。
千歳になると死ぬ権利をもらえて、生きるのに飽きた人が死を選ぶだけで、生き続けようと思えば不老不死にもなれるので、若者の姿のままで生き続けることも可能だそうだ。
百歳までは不老の選択は出来ないので、子供の姿は生まれてこなければ見ることが出来ないということだった。
「一番長寿の人は何歳なんですか?」
「長老達は万歳を越えていますが、一番上の大長老はこの世界が出来たときから生きているそうですよ。」
『人』と『獣』が人を創った時から生きているなら、色々と情報をもらえるかもしれない。
「お会いしたいのですが、可能ですか?」
「大丈夫だと思いますよ。では、こちらにどうぞ。」
町の中央にある塔から各所に転移出来るということで、塔の中に案内された。
塔の中は空洞になっていて、床には幾何学模様が書き込まれた丸い石が幾つも置いてあった。
「こちらが大長老の家に行く転移陣です。」
「え?家にお邪魔するんですか?公的な場所はないのですか?」
「外界から人間が来たことがないので、そのような施設はないですね。」
「え?町の問題を話し合ったりする場所は必要ないのですか?」
「話し合いは個人の端末から参加出来るので、特に集まったりはしないですね。」
「端末?」
「この小さな玉です。」
老人が金貨程度の小さな玉を見せてくれた。
「これで何をするの?」
「何でもできますよ。料理を出したり、衣服を着替えたり、先程の水の中での呼吸もこれを使いました。」
【ステータス】で見てもよく分からない謎な物体は色々な物を創造することが出来るようだ。
我の力の一部を保持しているのだろうか???
「これは何で出来ているの?」
「大長老からお聞きしたところ、ナユタというもので出来ているそうですが、ナユタが何なのか分かる人がもういないのです。」
「故障したらどうするの?」
「ひとつ故障しても別の玉が修理するので、大丈夫です。」
全て同時に故障しない限り、永久に使用し続けることが可能だそうだ。
「ひとつ貰ってもいいですか?」
「別に構いませんが、湖の外には持ち出せませんよ?」
ここも持ち出し禁止の制限がかかっているらしく、境界を越えると消えてなくなるそうだ。
仕方がないのでここで分解することにした。
「壊すのですか?」
「中がどうなってるのか気になって。駄目ですか?」
「とても固いので中が見えるような壊れ方はしませんよ?どんな刃も通りませんし。」
「本当?じゃあ故障はどうやって直すの?」
「別の玉が触れるだけで直るので分かりません。」
「うーん。無理かも知れないけど、やれるだけやってみたい。」
「別に構いませんが、大長老の所には行かないのですか?」
「ああ、先に大長老にお会いして、聞いてからにします。」
幾つかある丸い石のひとつに乗ると景色が変わり、大長老の家の前に着いた。
長老以上の年長者は湖に点在して家を持っているそうで、訪問するには一度町の中心の塔に行ってから転移装置で飛ばないと中には入れないそうだ。
「こちらに大長老が住んでいます。気さくな方なので、気楽に話して大丈夫ですよ。」
呼鈴を鳴らすことなく勝手に扉を開けて中に入っていってしまったので、慌てて後を追った。
「なんかよーぉ?」
「外界から初めて訪れたお客様ですよ!」
「嘘!やだ、本当?」
「初めまして。僕の名前はミナツキです。ここより南西の山に囲まれた国の生まれです。」
「え、嘘!創造主様?」
「...違います。」
「私は創造主様がお造りになった人様の分身にあたります。ここの子達は私の分身の更に分身です。」
「僕はただの人間ですよ?」
「大長老、人様の指示をお忘れですか?」
「あ、いっけなーい。お会いすることがあっても知らない振りをするんだった。」
「もう台無しですよ。申し訳ありません。そういうことですが、お忘れください。」
「...分かりました。」
「えーと、こんなところまで何の御用ですか?」
「空を飛んでいたら湖の底に建物が見えたので、気になって調査に来ました。」
気持ちを切り替えて古代遺跡の調査をすることにしたが、この町は基本的に人の権限で物理法則無視の創造する力で成り立っているので、他の古代遺跡とはまるで違って参考にならなかった。
謎な端末も極小な分身が入っていて、大長老の分身の分身以降は創造の力を行使できないから持たせているとのことだった。
後から『人』に聞いたところ、彼らは獣人達が人間達の管理をちゃんとしているか監視するために置いた分身達だそうだ。
この星にはここだけだそうなので、他の古代遺跡は関与していないとのことだった。
湖を後にして近くの町に向かうことにしたが、もう日が沈み始めていてヤヨイ姉さんとの約束の時間になってしまうので、急いでグリユーン王都に戻った。
「お帰り。少し遅いから心配したよ?」
「え?まだ太陽は沈みきってないから間に合ったよね?」
「そうだけど、心配なの!」
「僕は魔物退治してた訳じゃないし、危険なことは無いと思うんだけど。」
「そうだけど、でもやっぱり心配なの!」
我の家族は我に過保護な気がする。
自分の子供は心配じゃないのか?
「ホタルは心配じゃないの?」
「ホタルちゃんはお家にいるから大丈夫よ。それにミズちゃんが王都に結界張ってくれているから魔物は入り込めないし、不審者はシェーシャさんが排除してくれるでしょ?」
「え?シェーシャ母さんは戦闘出来ないでしょ?危険を察知して逃げるのは得意だと思うけど。」
「危険が分かるだけで十分よ。兵士も母さん達もいるんだし。でもさみしがってそうだから早く帰りましょ!」
元兵士達はもう飛行実験には参加しないとのことで、この国に残ってヤヨイ姉さんが毎日通う事になった。
帰りは家に二人だけなので、やけに広く感じた。
「家ごと飛べるんだから、今度は子供も一緒に皆で旅行しましょうよ。」
「これ飛ばすの結構大変なんだよ?今回は実験だから飛ばしたけど、やっぱりもう少し小さい家にして庭も半分にするからね?」
「えー。でも家族全員一緒に行くとなると、このくらいの家は必要よ?」
「行くことが決まったら考えるよ。帰ったらこの家は暫く使わない。大中小の部屋だけで十分だと思うよ。」
ヤヨイ姉さんに文句を言われながら王都に帰還した。




