小壱期4
子守りは大変だ。
毎日ゲンブの相手をしている上に、姪っ子二人と弟が我の部屋じゃないと眠れないらしく、夜は我の部屋に運ばれてくる。
そもそも、弟と姪っ子達が夜来るようになったのは、夜泣きが余りにも酷く、あやしながら城内を歩いていたら、我の部屋の前でピタッと泣き止んだからということらしい。
確かに夜になると連れてこられる弟と姪っ子達は、我を見てご機嫌な声を出して暫くするとスヤスヤと眠ってしまう。
ただ、夜中に人工乳をあげておむつを交換するのが数回あるので、母達が時々やって来る音で毎回目が覚めてしまって、結局我も手伝っていた。
せっかく雇った乳母だったが、弟と姪っ子達はお乳を嫌がってしまって、全く飲まなかったので解雇することになってしまった。
母乳の違いなんて脂っぽさの違い位だろうに、何が嫌だったのか。
人工乳でも大丈夫なのだから、やはり味ではないのだろう。
後はやはり乳母自体が気に入らなかったのだろうが、目はまだ良く見えていないはずだから、声と匂いかな?
確かに乳母さん達は城で働くのだからと身だしなみに力をいれている感じがしたし、香水もつけていた。
母さん達はお風呂に入れている柑橘類の香りが少しする程度で、花の香りのする香水はつけないから慣れなかったのだろう。
そもそも普通の家庭にはお風呂はついていないので、毎日お風呂に入れる人間は少ない。
だから香水をつけて体臭をごまかしているのだろうが、我も余り好きではないので各家庭にお風呂の設置を推進している。
上下水道は完備したので、給水と排水の問題はないのだが、お風呂を沸かすのに火を使うと空気が悪くなるので、魔力を取り込んだ加熱専用の使い捨て魔石を湯船にいれて使用するか、精霊と契約するか、三人娘達が確定させている魔法を使用するかなのだが、こちらがまだ普及していない。
魔石は毎日使うには高いし、精霊と契約できる人間はほぼいないし、魔法を覚えられる人間もまだまだ少ない。
学校で魔法の授業を設けたが、先生となるのが三人娘なので、年上の学生達はまず生徒になりたがらず、今は同学年の数人に教えているそうだ。
寝不足の目を擦りながら色々と考えつつ、授乳が終わったのでハツキを縦抱きにして優しく背中を擦ってげっぷを出させてから、ベットに戻した。
ホタルもクジャクも同じようにベットに戻され、おむつを交換していた。
我はおむつの交換だけはまだ上手く出来ないので、横から眺めていた。
「女の子と男の子では、布の厚さを変える場所が違うのよ?」
「え?」
「女の子はおしりの方を折り重ねて布を厚くして、男の子は前の方を折り重ねて厚くするの。」
「なんで?」
「おしっこが出るとこが違うでしょ?女の子はおしっこが後ろにすぐ落ちてくるのよね。男の子は噴水みたいに上に出てくるの。」
そういえば、ゲンブの時もおむつを代えようと開けたとたんに噴水みたいにおしっこされて、母達が騒いでいたことがあった。
我も何回かやった記憶はある。
生理現象なのでわざとやっているわけではないのだが、申し訳ないなと思ったものだった。
毎日寝不足でさすがに疲れてきた。
いい加減、母と姉達には帰ってきてもらいたい。
風精霊達に実験をかねて言葉を送ってもらったが、ちゃんと届かなかったらしく、返事も良く分からないものになってしまった。
「早く」
「帰って」
「来て」
と単語に区切って送ったのだが、
「くはや」
「えってか」
「てき」
となってしまったらしく、一緒に光精霊に文章を届けてもらったので、そちらで用件は分かったそうだが、実験の為に返事も風精霊にお願いしたので、面白がって返事が送られてきた。
「凄いね」
「これは」
「でも」
「何」
「言ってるか」
「分からない」
との返事は
「ごいねす」
「はこれ」
「もで」
「なに」
「ってるかい」
「ないわから」
になっていた。
単語だと変になるので、もう一文字づつ送ってしまうことにした。
百文字以内の言葉に制限して風精霊を百体用意しておいて、「は」「や」「く」「か」「え」「っ」「て」「き」「て」と一文字づつ送ってみた。
音を入れていない精霊も一緒に百体一気に送ると、しばらくして返事が戻ってきた。
「ま」「だ」「か」「え」「れ」「な」「い」「。」「ハ」「ツ」「キ」「ちゃ」「ん」「は」「げ」「ん」「き?」
「げ・ん・き・だ・け・ど・ぼ・く・が・ね・ぶ・そ・く・で・た・い・へ・ん・だ・よ!」
「あ・ら・た・い・へ・ん・。・せ・い・ちょ・う・き・の・ね・ぶ・そ・く・は・せ・が・の・び・な・く・な・っ・ちゃ・う・わ・よ?」
大分慣れてきてスムーズに送受信出来るようになった。
「大体移動に時間がかかるんだから、もう帰国しないと御喰い初めにも間に合わないよ?」
「そうなんだけど、こっちの人達の事を放って帰国するのは難しいかな。」
「じゃあ獣人の国経由でいいから、魔物駆除が終わったら早く帰ってきて。獣人には僕から頼んでおくから。」
「うーん。それなら間に合うかな?ヤヨイちゃんとサツキちゃん達が一番遠いからお願いね?」
毎回いちいち獣人の国経由で移動するのを頼むのも面倒なので、大陸横断鉄道とか作って各国を結べないかな?
獣人の国みたいに各エリアを高速で繋ぐ何かがあると、今回のような時に助かるから提案してみよう。
ただどの国もまだまだ混乱中だから、各国で集まって協議出来るようになるのに何年かかるやら。
我の寝不足解消の為にも、母と姉達が毎日城から各国に行ってその日のうちに帰って来られるような環境をすぐにでも作りたい。
『ミズ様。人間一人位なら簡単に運べますよ?大陸の端まで一瞬とはいきませんが、鉄道馬車が王都を一周する時間位で送れます。』
『ああ、我が隣国に行った時の方法か。光精霊に姿を隠してもらわないと、空飛ぶ人間は目立つから今はまだ無理かな。そのうちみんな飛べるようにしてみたいけど、精霊と念話出来ないとまず無理だから、椅子か何かと精霊をセットにして決まったルートを行き来するのはありかな。』
『それなら簡単ですね。人間が座ったら出発すればいいのですね。早速試してみますか?』
最近よく実験に付き合ってもらっているので、風精霊はノリノリだな。
母と姉達なら絶対防御も付いているし、万が一落としてしまっても死ぬことはないから、実験に参加してもらうことにした。
本来なら安全を確認してから母達にお願いするのだが、我の寝不足の原因を早急に何とかしたくて判断能力が下がっていた気もする。
夕飯時に母と姉達が次々に到着した。
重力とか空気抵抗とか全く考えずただ単に飛ばしたせいで途中窒息しかけてしまったらしく、気がついた光精霊に言われて慌ててスピードを落としたらしい。
我を運ぶ時はちゃんと風の結界で守ってから運んでいたので、人間を運ぶ時の方法は分かっていると思っていたのだが、荷物の運搬には空気はいらなかったから、椅子を運んでいるつもりだったらしい。
「ミズちゃん、ただいまー。ハツキちゃんはどこかなー?」
「お帰りなさい。隣国の魔物は退治できそう?」
「んー。こっちに流れてくる魔物は大分減ってきたかなー?ただ、一部廃墟の首都に向かう魔物がいて、つけていったら他からもどんどん首都に集まってきて、なんでか首都に入ったら勝手にどんどん凍ってるのよねー。ミズちゃん何かした?」
「あっ!。隣国の首都は魔女を封印したから近づかないでね?危ないよ?」
「んー。分かったわ。魔物ホイホイになってるし、放っておくわ。それより、ハツキちゃんはどこ?」
「この時間ならまだシェーシャ母さんの所かな?夜なら僕の部屋に連れて来てるよ。」
「ミズちゃん、ただいまー。子守り押し付けてごめんねー。みんな元気にしてる?」
「「ただいまー」」
「大姉、中姉、小姉、おかえりー。子守り大変だったよ?」
「んー。でも仲良し映像が毎日届いていたよ?」
「もう!毎日寝不足で大変なんだよ?」
「「ごめんねー。」」
「大姉も!ゲンブが寂しがってたよ?大兄は仕事で全然戻ってこないし、大姉は出掛けちゃうし。子育てを他人に任せてると忘れられちゃうよ?」
「「「「ごめんなさい。」」」」
「風精霊による空路をテスト中だから、協力してよね。そしたら毎日行き来できるし。」
「「「えぇ?」」」
「またあれに乗るの?凄く大変だったんだけど。」
「これから少しずつ改良するけど、子守りを押し付けた罰だと思って暫くは我慢して。」
「「「はい。」」」
「母さんはもう出掛けないわよ?隣国の大型の魔物はあらかた退治したし、中型は魔物ホイホイがあるから放置しても平気そうだし。小型は自分達でなんとかするでしょうし、またこっちに流れて来るようなら退治しに行くけど、当分平気そうだしね。」
我も形代を飛ばして教会のある町や村に結界を張っているので、安全圏が確保されているのだから、後は自分達で何とかするべきだとは思う。
「オラーンジュ王国の人間達に軍の指導者になってくれと頼まれてるのよねー。」
「私も、グリューン王国の人間に頼まれてる。」
「私もヴィオレット王国の人間に軍の教育をお願いされた。」
「ちょっと待って。大姉は分かるけど、なんで小姉も?」
「12歳過ぎたらもう大人よ?子供もいるし、問題ないよ?」
兄達に連絡を取ってみたら、兄達もそれぞれ兵士の再編成やら、指導やらをしているらしい。
生き残った王族がまだ見つからず、仮の臨時政権を発足させている最中らしい。
治安維持が重要なので、先に兵士を再編成して各町村に配備しているそうだ。
兵士達の給料は各町村に出してもらって、足りない所は商人ギルドから借りて支払っているそうだ。
姉達の行っていた国も大体そんな感じで復興を進めているらしい。
どの国も王族は途絶えてしまっているのか、まだ天罰が来るかもと恐れているのか、後継者が見つからないそうなので、いっそこの国みたいに共和制にしてしまえばと兄姉達に提案してみた。
夕飯は久しぶりにコクヨウ兄さんがきたので、ついでに御喰い初めしちゃおうということになった。
ゲンブの時は方角がどうとか、吉凶占いで日が良くないとかで、日にちを決めるのも大変だったのだが、今回はあっさり決まってしまった。
「今日でいいの?」
「ああ。俺も王を辞めるし、普通の民ならいちいち気にしないから良いだろう。」
「父さんは今回も不参加?」
「シヴァは国内の何処にいるのか分からないわ。国外かも知れないし。」
「父さんは南の大陸に行くと言っていたよ?」
「えぇ?僕は聞いてないよ?」
「こっちの大陸はムツキ達がいるから安心だし、商人の護衛がてら商船にのせてもらって他の大陸の様子を見てくると言ってたよ。」
「様子なら僕が知ってるよ!魔物退治したいだけじゃん!」
「まあ、そうだろうな。」
「そうねー。こっちの大物は私達が全部退治しちゃったみたいだし、他の大陸にはまだいそうだからしかたないわね。」
「他の大陸にも英雄と呼ばれる強い人が兵士を引き連れて退治して回ってるよ?今から行っても間に合わないんじゃないかなー?」
「あら、そうなの?可愛そうに。」
母や兄姉達も戦闘狂だが、その原因の父は更に戦闘狂だから、平和な国には長居できないらしい。
他の大陸の英雄と呼ばれる人間に加護はついていないから、途中で倒れるかもしれないし、まだ大型の魔物や魔人が残っている可能性はある。
父にも加護をつけてたりするので、死ぬことはないだろうが、万が一にも魔にのまれれば世界一強い魔人ができてしまうから、我の目の届くところにいてほしかったのだが仕方ない。
どこかの町や村に寄ってくれれば、教会経由で連絡をつけられるのだが、何処にも寄らずに魔物退治に行かれると探すのにも苦労する。
母と兄姉達の時もそうだったが、光精霊に探させたら、通信用とは別に常に位置を把握するために一体待機しておいてもらおう。
急に用意することになった御喰い初めだったが、孔雀石も蛍石もあったので、ゲンブの時と同じに名前の由来のものを用意できた。
ハツキには特にこだわりのものはないので、我のお気に入りの金剛石を置いておいた。
口に入れると危険なので、口に入らないような一番大きい金剛石を用意したのだが、我の頭位の大きさだったのでみんな驚いていた。
ヤ:「なにそれ!」
サ:「凄すぎます。」
コ:「売ればこの国の国家予算を越えそうなのだが、どこから持ってきたんだ?」
ム:「砕いて売りましょう。」
パ:「ミズちゃん!どうしたのそれ。まさか盗んでないでしょうね?」
母に疑われてしまった。
悲しい。
「これは僕が作ったんだよ!盗んだりなんかしないよ!」
「ごめんね?ついビックリしちゃって。ミズちゃんがそんなことしないのは分かってたのに。でも金剛石って凄く固いのよ?作れるものなの?」
「前に治療用に用意していた炭の山が邪魔だったから、圧縮してたら何故か金剛石になってて、先生に聞いたら成分は同じだって言うから大きい金剛石を作ってみたんだ。」
みんな唖然としているようだったが、無視して御喰い初めを決行し、夜は母にハツキを任せ、ムツキ姉さんにゲンブを返し、ヤヨイ姉さんにホタルを返し、サツキ姉さんにクジャクを返したので、久しぶりにのんびり眠ることができた。




