小壱期3
魔物が多すぎる。
世界中で天罰が下されたせいだが、我のいる国以外は石を投げたら魔物に当たる位多い。
村や町にも被害が出ていたので、形代を世界中の教会に飛ばして結界を張りまくったのだが、街道までは手が回らず魔物がウヨウヨしている状況だった。
結界を張った町や村を中心に自分達で増えた魔物を退治してもらうしかないのだが、兵士達の報酬を支払う国自体が崩壊しているので、まだそれなりにいる兵士達を動かすことができないらしい。
一部資金のある町は傭兵団として元兵士達を雇用して畑作業の警護や森に入るときの護衛をしてもらっているようだった。
町や村を中心にした範囲しか魔物の駆除ができていないので、各町を回る商隊は町を出ることが出来ずに流通が止まってしまっていた。
「ミズっち、なんとかできないかなー?」
「父様達が困ってるのー。」
「私は父の商隊についていって護衛しようと思います。」
三人娘達の親の商隊だけなら娘の護衛で移動はできると思うが、流通量が全く足りないので、商人ギルドに街道沿いの魔物退治に賞金を支払う仕組みを提案してみた。
脅威度の高いものは賞金を高く、子供でも退治出来そうな弱いものは駄賃程度に安く設定して、世界中の商人ギルドに協力してもらった。
流石というか、商人ギルドは持ち込まれる魔物から肉だけでなく、使用できるものは全て素材として販売し始めていた。
四つ足の魔獣からは皮や角や牙、魔鳥からは羽、魔木はある程度の長さに切り揃えられて販売していた。
魔虫や魔草は使えないだろうと思ったら、毒薬の原料になるらしく、一箱単位で大量に売っていた。
売れるのか聞いてみたら、殺虫剤として使えるか研究している所から大量に発注が入るのだそうだ。
魔木は通常の木よりも固くて丈夫なため、普段は盾や柵にするのだが、どの町村も住民が増えて家が足らない状態なので、建築資材に回されていた。
魔木や魔草は取り込んだ魔を回りに撒き散らすこともなく、比較的安全なので駄賃程度の報酬なのだが、必要数が圧倒的に多いので移民してきた人間達の稼ぎ元になっていた。
「ミズちゃん、国内の魔物は粗方駆除できたから、次は他国の魔物を駆除しに行ってくるね。弟の世話をよろしくね。」
「えぇ?まだ帰って来ないの?」
光精霊による光通信で連絡が来たのは良いのだが、国内の魔物は他国から流れてくるので、他国の魔物を駆除しないとせっかく駆除してもまた溢れてくるから他国に行くということらしい。
同じように兄姉達からも連絡が入った。
ムツキ姉さんは途中仲間になった傭兵達とオラーンジュ王国へ。
キサラギ兄さんは戦闘に特化した学生達を連れてゲルプ王国へ。
ヤヨイ姉さんは途中仲間になった元兵士達とグリューン王国へ。
ウツキ兄さんは戦闘と回復のバランスのいい学生達を連れてインディゴ王国へ。
サツキ姉さんは元山賊達とヴィオレット王国へ。
隣国のブラウ王国を通らなければその他の小国に行けないので、ブラウ王国まではみんな一緒に行くということだった。
我も一緒に行くと伝えたら全員に駄目と言われてしまった上、母と姉達からは弟と甥姪の世話を頼まれてしまった。
「あんまり放っておくと母親の顔忘れちゃうよ?」
「大丈夫よ。すぐ帰るから。3ヶ月位?」
「すぐじゃないじゃん。」
「御食い初めには戻るわよ。音は伝わらないだろうけど、これで映像も届けられるんでしょ?毎日顔を見せるわよ。」
光精霊に伝達してもらえるお陰で、大分スムーズに会話が成立するし、映像付きで送受信することも可能になってはいるが、音は確かに伝えられない。
音を光に変換してまた音に戻すことが出来れば、音声付き動画で伝達出来るので研究する価値があった。
まずは音はどうやって伝わっているのか分からなかったので調べてみた所、空中より水中の方が良く伝わる事や、光の波長のように音にも波がある等が分かった。
これから音声伝達の研究本番というところで子守りの時間になってしまった。
ゲンブが寂しがってぐずるから連れてきたそうだ。
コクヨウ兄さんは内政に忙しく、ムツキ姉さんは魔物退治に出掛けて帰って来ないのだから、まだ小さいゲンブは寂しいだろうな。
「にぃに?」
「ゲンブ、なにする?」
「おはなし」
「んー。じゃあ、絵本を持ってくるね。」
「あぃ」
ゲンブ用にいくつか買っておいた絵本を取りだして一緒にベットに入って読んであげると、すぐに眠くなったのか眠ってしまった。
我もずっと研究ばかりであまり寝ていなかったので、眠くなって一緒に寝てしまっていた。
次の日からはずっとゲンブがくっついて離れなくなったので、音声伝達の研究を遊びながらすることにした。
紙を口に当てて喋ると紙が振動するので、ゲンブに触らせたり逆にゲンブに喋ってもらって我が触ったりして遊んだ。
この振動が音の元になるのは分かっているのだが、どうやったら減衰せずに伝えられるのかまだ試行錯誤していた。
水精霊に空中に水路を作ってもらって、端に紙を当てて喋ると少し音が小さくなるものの反対側の紙にちゃんと伝わったが、ゲンブが水で遊び出してしまったのですぐに中止することになった。
次に長い筒を使って内緒話程度の小声で、相手の耳に音が届くか実験しながら遊んだ。
音が響いてしまって聞き取り難くなるけれど、ちゃんと伝わるので、どの程度まで大丈夫か廊下で試してみたが、長い筒を何本も繋げたせいで繋ぎ目から音が漏れてしまったのか、うまくいかなかった。
水でまた試してみたが音は伝わるがゲンブが水を叩いたり、水浸しになりながら通過したりして遊び出したのでやはり中止した。
ゲンブを着替えさせて、風精霊と光精霊に手伝ってもらってゲンブの髪を乾かしながら、ふと風精霊に音の漏れない風の通路みたいなものを作れないか聞いてみた。
『はい。ミズ様。音を運ぶ事は出来ます。ただ、繰り返し響いているので、あまり長い言葉だとどこが最初の言葉か分からなくなるので、単語毎に区切って送ってみるのはどうでしょうか?』
『ふむ。単語毎にか。小さい風精霊が沢山必要ということか?』
『はい。ミズ様。そうなります。』
『よし、早速試してみよう。』
「にぃに、眠い。」
続けて実験しようと思ったら疲れてしまったのかゲンブが眠そうにしていた。
「ああ、もうねんねの時間だね。じゃあゲンブのお部屋に行こうね。」
「にぃにのベットがいい。」
ゲンブを連れて部屋に戻り寝かしつけた後、風精霊に分霊してもらって実験を始めようとしたら、母さん達がやって来た。
シェーシャ母さんが育児疲れで倒れてしまったそうだ。
交代で育児をしていたのだが、お乳が出るのがシェーシャ母さんだけなので、どうしても睡眠不足になってしまうらしい。
もう一人か二人位、乳母を探して来た方が良いようなので、コクヨウ兄さんに掛け合いに行くことにした。
とりあえず、姪っ子二人と妹弟に獣人の国から取り寄せてあった母乳の代わりになる人工乳を飲ませてみたが、あまり好きではなかったらしく、ちょっと飲んでは泣き、またちょっと飲んでは泣きの繰り返しだった。
暫くすると、どんなに泣いてもシェーシャ母さんのお乳がもらえないので諦めたのか、それとも味に慣れたのか全部飲んで寝てしまった。
我のベットにゲンブ、移動式の簡易ベットにフミツキ、ハツキ、ホタル、クジャクがスヤスヤと寝ているので、この隙にコクヨウ兄さんの所に行ってみたら、まだまだ忙しいらしくコクヨウ兄さんは書類の山に埋もれていた。
「大兄、ちょっといい?」
「ああ、ミズか。何か問題でも起こったか?」
コクヨウ兄さんが立ち上がってこちらに来ようとした所を一人の青年が制止した。
「お待ちください。まだ書類の承認が終わっていません。」
「代わりに署名しておいてくれないか?」
「そういうわけには参りません。私では代理にもなりません。」
「ミナツキ様、ご無沙汰しております。その節は気にかけていただきありがとうございました。お陰さまでこうして無事に逃げることができました。現在はコクヨウ様の補佐をさせていただく家臣となりました。以後よろしくお願い致します。」
コクヨウ兄さんの補佐をしている青年は隣国の第三王子だった。
「あれ?なんでここにいるの?自国の統治はいいの?」
「私は療養ばかりしていたので、自国の民に顔を覚えてもらっていないのです。城は壊滅している上、私を王子として覚えているだろう階級の高い兵士達は天罰の時に魔人化して、第一王女と共に療養所に大挙して押しかけてきたので、急いで脱出して避難する民に紛れてここまでやって来ました。」
「病気は平気なの?」
「ここには毒を盛るような人間はいないので、すっかり元気になりました。処方して頂いた毒消しも良く効きました。」
「ちびっこ達が治療していたよ。」
「えぇ?薬学得意だったっけ?」
【ステータス】で第三王子を見てみても、特に異常は見つからなかったので完治しているようだった。
「シェーシャ母さんにはもう会った?」
「まだです。先にコクヨウ様に挨拶をと思って来たのですが、書類の山に埋もれていらしたので、見かねてお手伝いすることになりまして、そのままずるずると現在に至ってしまっています。」
「でも治療を受けるだけの時間はあったんだよね?会いたくないの?無事は伝えた?」
「こちらに着いたときに伝言は頼んであるので、知っていると思います。会いたくないのかと聞かれれば会いたいですが、お互い忙しいのでゆっくり昔話も出来ないでしょう。暇になったら訪ねてみます。」
「そうだ。大兄。シェーシャ母さんが育児疲れで倒れたんだった。乳母を何人か雇いたいんだけと、いい?」
「???パールバティ母さんかヤヨイかサツキならお乳が出るんじゃ?」
「母さんと姉さん達が子供を置いて魔物退治に行っちゃったんだよ?聞いてない?」
「聞いてないよ?あれ?ムツキもか?ゲンブも一緒か?」
「ゲンブは僕が面倒見てるよ。寂しがっていたよ?」
「ああ、そうなのか。すまない。ありがとう。ここ一月近く部屋に戻れない位忙しくて、執務室で寝泊まりしてたから気がつかなかったよ。」
「何か手伝う?僕に出来ることがあればだけど。」
「ああ、心配かけてすまない。大丈夫だよ。この書類の山が片付けば、各町村から代表者が来て共和制を開始するから、私の仕事はそこまでで終わりさ。」
「えーと、そうしたら僕たちは引っ越し?」
「ああ、そうなるのか。引っ越しの準備もしないと。」
「共和制になってもコクヨウ様は代表の一員になると思いますよ?」
「いや、辞退するつもりだから。もう政治には関わりたくないよ。」
「そうですか。そうしますと私は職を失うのですね?首都の代表はどなたになるのですか?転職を考えなくてはいけないのですね?」
「ああ、首都の代表か。父さんは政治向きではないし、貢献度が高く政治向きの人物となると難しいな。ミズがもっと大人だったら適任なのにな。学校の校長辺りに頼んでみようか。」
「校長は持病が悪化したとかで最近学校に来てないみたいだよ?商人ギルドのギルド長とかは?」
「商人はいけません。利益に走って政治が腐敗します。」
「そうだね。商人や軍人は敬遠したいかな。」
「うーん。難しいんだね。そしたらやっぱり大兄しかいないね。」
「いや、第三王子がいるじゃないか。政治向きだし、今こうして貢献してくれているし、ぴったりだよ。」
「いやいや、私は他国の人間ですから無理ですよ?亡命しているとはいえ、一応まだブラウ国の王位継承権ありますし。」
「うーん。残念。死んだ事になってるし、改名してこの国の人間になりませんか?」
「それはいいね。私もおすすめするよ。」
「そうですね。って無理ですから!」
とりあえず乳母を雇う事は了承してもらったので、募集をかけたところ、大勢応募してきたので面接して二人採用することにした。




