小壱期2
新学期が始まった。
世界がとんでもないことになっているのに良いのかという気もするが、学生には勉強を頑張ってもらいたいので、良いのだそうだ。
「ミズちゃん、弟の世話をお願いね。」
「あ、私も!姪っ子の世話をお願い。」
「私も、お願い。」
「え?え?え?何?どこかいくの?」
「「「ちょっと魔物退治に!」」」
「え?うそ、待って!」
母とヤヨイ姉さんとサツキ姉さんが、我に赤ちゃんを押し付けて出掛けてしまった。
「ちょっと!僕じゃお乳出ないよー!!」
「大丈夫ー。乳母を頼んであるからー。」
大分遠くから返事が帰ってきたが、もう姿は見えなくなっていた。
出産間近で魔物の駆除に出れなかったのが悔しかったのか、赤ちゃんを放ってまで行くことなのだろうか?
聞けばムツキ姉さんもゲンブを置いて駆除に出ているらしい。
「ミズちゃん、渋い顔をしているわね?」
「あ、シェーシャ母さん。おはようございます。」
「ハツキちゃんとホタルちゃんとクジャクちゃんの乳母を任されたのだけど、さすがに四人分のお乳は無理かもね。」
確かに、通常は多くて双子なので無理かもしれないが、稀に五つ子とか生まれるので、シェーシャ母さんの巨乳ならいける気がする。
「大丈夫だと思うけど、無理そうだったら相談して?人工のお乳を考えるから。」
「ええ、なるだけ頑張ってみるわ。」
我の弟のハツキと、ヤヨイ姉さんの子のホタルと、サツキ姉さんの子のクジャクを受けとる時に、三人も抱けないので風精霊に手伝ってもらって、二人浮かせて我は弟を抱いていたのだが、母達がやって来たので三人とも母達に預けた。
「母さんと中姉と小姉から預かったけど、今日から学校があるので、お願いします。」
「あら?イワナガちゃん達はキサラギ達と魔物討伐の旅に出ちゃってるわよ?」
「えぇ?いつから?」
「そうねー。この子達が生まれる前くらいかな?」
三人娘達には黒炎の対策を一緒に研究してもらうつもりだったので、光精霊に伝達を頼み、返事を待っていると、今は忙しいからまた後でと断られてしまった。
映像も届けてもらったが、凄まじい数の魔虫を退治している最中のようだった。
我も魔物退治に行こうとしたら母達に止められた。
三人娘達が良くて我が駄目な理由が分からない。
保護者の許可が降りないし、仕方がないので学校に行くことにした。
久しぶりの学校だったが、人数が半分位になっていた。
戦闘に特化した学生をキサラギ兄さんが魔物退治に連れ出したそうだ。
三人娘達は治療係として連れていかれたらしい。
治療なら我の方が得意だし、精霊もいるから戦闘だって簡単だというのに、何がダメだと言うのだろうか?
帰ってきたら母に聞いてみよう。
独りで登校し、独りで授業を受け、独りで昼食を食べ、独りで下校していたら学校が嫌になってきた。
知識は獣人に個別で教えてもらっているから、学校でなくても我の部屋で充分だし、登下校にかかる時間分、魔力と魔物の研究をすることにした。
隣国の第一王女は魔を取り込んで魔人になりながらもそれを制御し魔力としていたので、魔人にならない程度に魔を取り込んで魔力に出来るか実験してみることにしたが、ほんの少しの魔に触れただけで気分が悪くなったので、取り込むことは出来なかった。
水晶で魔力に変換した後なら取り込めないだろうかとやってみたらうまくいった。
三人娘達は魔力を直接操作出来るようになったと言っていたので、これでようやく少し追い付くことが出来た。
魔力は髪の毛に多く取り込める事が分かったので、髪の色で取り込める魔力量が変わるか実験してみたところ、黒髪が物凄く魔力を溜めることが分かった。
他にも癖毛より直毛の方が良いとか、短髪より長髪が良いとか、男より女の方が良いとかが分かった。
我の髪は青く短い癖毛だから、余り魔力を溜められないということになる。
コクヨウ兄さんは黒くて直毛の長髪だから今度実験に参加してもらおう。
今は少ない魔力を使って何が出来るか実験を続けることにした。
とりあえず生活に必要な水を集める事からやってみることにした。
水晶を使って水を地下水から集める時の要領で念じていると、コップ一杯分の水の玉が空中に浮かんだ。
次に火を起こす事が出来るかやってみたが、こちらはうまく出来なかった。
少し燻って煙が出るとこまではいったのだが、炎が上がるまでには至らなかった。
対象の温度を書き換えた方が簡単に火が付くので魔力で炎を出す方法は諦めた。
結局我が出来たのは水を集めることだけだった。
数日後、一段落したのか三人娘達が帰ってきた。
「ミズっちただいまー。」
「面白いことしてるんだってー?」
「私達も参加します。」
我が魔力の研究をしているのを聞いたらしく、自分達の成果を見せてくれるらしい。
三人娘達は手首と足首に水晶をはめこんだ装飾品を付けており、胸には大きめの水晶をマントの留め金の上につけていた。
「最初は私からねー。炎よ!」
コノハナが叫ぶと何もない空間に淡い青い炎が上がった。
もう一度やってもらって【ステータス】で見てみたら、水素を集めて酸素と反応させて爆発させたらしい。
「今度は私ー。風よ!」
サクヤが叫ぶと竜巻が起こった。
急激に気圧を下げて周りの空気を巻き込んでいるようだった。
「最後は私です。壁よ!」
イワナガが叫ぶと地面から壁が出てきた。
???
よく見ても分からない。
土が盛り上がるとか、爆発して飛び散るとかならまだ分かるのだが、四角い壁が地面から生えてくるのは物理現象では解明できなかった。
「なにこれー???」
「ふふふ。これぞ魔法です!魔力による新しい法則です。動物に魔が取りついて形状を変える事から、魔力により土の形を自在に変える事を研究しました。」
「えぇ?生物じゃないのに変質するの?」
「土は土のままです。固めて形を変えるだけです。人型も出来ますよ?人形!」
地面から我に似た土の塊が出てきた。
このまま焼いたら人型の焼き物が出来そうだ。
魔物の駆除についていった三人娘達は最初は治療班として動いていたが、魔虫の数が多すぎてイワナガが防御用の半地下要塞を作ってコノハナとサクヤが炎と風で焼き払ったそうだ。
どうやって魔力を制御しているのか聞いてみたら、こうしたいという想像をしていたら何となく出来るようになったそうだ。
もしかしたら、黒炎に焼かれていた我の精神に直接触れていたせいで、我の創造の力を少し使えるようになっているのかもしれない。
我の治療に当たった獣人達にも聞きにいってみたら、確かに変なことが起きて困っていたそうだ。
上手く使いこなしている三人娘達に獣人の指導を任せることにした。
この世界に魔法という新しい法則が生まれ、獣人の国で治療していたせいで、獣人に魔法使いが多く誕生した。
魔物退治も魔法騒ぎも一段落したところで、改めて三人娘達に黒炎の対処を聞いてみた。
「結局消せなかったの。」
「うん。消えるのを待つしか出来なかったよ?」
「一度仮死状態にして精神との接続を切って、黒炎が消えるのを待ってから蘇生しました。」
大分無茶な方法を取ったらしい。
我が精神体でフラフラしている間に接続が切れた感じはしていなかったので、何と繋がっていたのか気になって聞いてみたら、イワナガが作った人形に我の髪の毛を埋め込んだものに接続されていたようだ。
本人としては身代わり人形を作って早く治るようにお祈りしたつもりが、人形に精神が繋がったので、我の本体を仮死状態にしてみたら、黒炎が消えたので急いで蘇生させたそうだ。
一時とはいえ人形が本体になっていたようなので、人形に精神を繋いで動かせないか実験してみることにした。
我の髪の毛が入った人形は簡単に動かすことができ、意識を集中すると人形の視界も感知することができた。
どの程度まで動かせるのか紙を人型に切ったもので実験してみると、少し大変だったが問題なく動かせた。
紙の状態で【ステータス】を使えるか試してみたら、問題なく書き換えることができた。
黒炎への対抗手段は今のところ無いが、紙の形代なら燃やされても紙に戻るだけだから、この状態で隣国の首都に行くことにした。
療養所を中心に魔物が大量に集まっているのが見えた。
空にも魔虫が大量に飛んでいたが、紙ゴミが飛んでいるだけなので特に攻撃されることもなく、我は療養所に付けていた【絶対防御】を解除した。
ついでに魔物を駆除するために、首都全体に【絶対零度】を付けると、みるみるうちに氷始め、空を飛んでいた魔虫も大気が低温過ぎて動けなくなったのかボロボロ落ちていた。
凍り付いた療養所の内部を光精霊に見てきてもらったが、数十体の魔人達が凍り付いていただけで、魔女になった第一王女はいなかった。
「こんなことをするのは神獣の皇子かしら?本体はまだ炎上中かしら?」
絶対零度の低温の中、形代のいる場所に近づいてきた。
「私はこの程度では滅びませんよ?人間のための人間による世界を造るまでは死ねません。」
すでに人間ではなくなっているのに、人間の世界を造るつもりらしい。
魔物を使っている段階で土地が魔に汚染されるので、人間が住める環境ではなくなるのに、どうするつもりなのだろうか?
それとも人間を全て魔人に変えるつもりなのだろうか?
絶対零度の中、暫くは動いていた魔女も段々凍り付き始め、時間がかかったが完全に凍り付いた。
首都周辺も温度がどんどん下がってきて、このままだと東の大陸が一年中冬になってしまうので、首都を結界で囲うことにした。
我以外に解除できるとは思えないが、経過年数によっては劣化して解除されることもあるかもしれない。
それでも数十年は大丈夫と思われるので、定期的に監視する程度にすることにした。
とりあえず魔女を封印できたので、形代を戻そうとしたら、絶対零度の影響かバラバラに砕け散ってしまった。
元が紙なので割りと脆いのかもしれない。
複数形代を作って全部動かせるか実験してみたところ、七つまでは同時に動かすことができた。
個別に違う動作をさせると、視界の切り替えや、どれを動かしているのかが分からなくなるので、七つが限界だった。
七つの形代を各国の教会のある町や村に飛ばし、魔物が入ってこられないように魔物排除の結界をつけて回った。
日常生活をしつつ、合間に世界中の教会を回っていたので、該当する町や村の結界をはり終わるのに数ヵ月かかってしまった。




