年長期F
戦争は一時中断になっていた。
ツヴァイの教会にいた司教様が第六王子の陣まで赴き、神獣の戒律を元にした国の盟約に背いた罰として、ブラウ国の王都を消滅さたと告げた為、真偽の確認の為に一時中断していた。
3日後には城が無くなった事が伝わったようで、大軍を率いて撤退していった。
敵軍が見えなくなってから、抉られた土地を元に戻し、父達に合流した。
「中姉、小姉、無事?」
「ミズちゃん、どこ行ってたの?いないから心配したよ?」
「ごめんなさい。ちょっとあっちこっち行ってました。」
「ミズ、無事だったか。隣国に制裁実行してからミズが隣国にいると分かって獣人達が大騒ぎしていたぞ。」
「ミズちゃん、隣国に行ってたの?」
「うん。知らせが来てすぐに逃げたから大丈夫だったよ。」
どうやら我が隣国にいることを知らずに制裁が決まったらしく、避難した司教様達に我がいることを伝えられて大慌てで止めようとしたが止まらなかったようだ。
「あの状況で連絡が間に合ったのか?信じられん。」
「うん。オプトが報せに来てくれたよ?」
「オブト?誰だ?」
「えーと、紹介します。光精霊のオプトです。魔力の研究してたらいつの間にか生まれてました。」
『初めまして。』
『オプト、念話できるのは獣人だけだから、人間には聞こえないぞ?』
『そうでした。挨拶したかったのですが、どうしましょう?』
『文字は分かるか?』
『はい。覚えました。』
オプトが壁に光を当てて”初めまして”と文字を浮かび上がらせた。
「喋れないけど、こっちの言うことは分かるから。こうやって文字も書けるよ。」
「凄いな。」
「綺麗な人?だね。」
「うん、キラキラ光って透き通って綺麗。」
「キサラギ兄さん、手を出さないでね?まあ触れないけど。」
「酷いな。俺は父さんと違うぞ?それより、あんな短時間でどうやってミズに報せたんだ?」
制裁決定から実行まで本当にすぐだったようで、隣国の司教様達も慌てて逃げたらしい。
『私は光ですので、光の速さで移動可能です。隣国程度の距離なら一瞬で移動できます。』
『それは凄いな。』
「えーと、光だから凄く早く移動できるそうです。」
「本当か?どのくらいだ?」
「隣国なら一瞬だそうです。」
「嘘だろ?ミズ、ちょっと貸してくれ。戦争に欠かせない情報伝達が飛躍的に進歩しそうだ。」
「え?戦争はもう終わりでしょ?隣国の城が無くなってたし。」
「そうか?でも降伏とか停戦とかの伝令はまだ来てないし、兵も撤退しただけでまだまだ残ってたしなー。」
キサラギ兄さんも今回の戦争がいつもと違うことを感じているらしく、まだ警戒していた。
「心配なら見てこようか?僕が行かなくても、オプトに見に行ってもらってもいいし。」
「お、それはいいな。」
『ということだし、我も第一王女の生死が知りたい。見てきてくれ。』
『はい。行ってきます。でも第一王女の容姿はあまり分かりませんので、確かな情報にはなりませんよ?』
『そういえば、我もよく知らないな。』
仕方がないので一緒に行ってそれらしい人間がいるか確認することにした。
攻撃を受けた城を中心に何もない大地が広がっていた。
3日経っているので、生きていたら何かしらの行動を起こしているだろうと思ったが、それらしい人物を見つけることが出来なかった。
城の跡地を見てみると、地下に幾つかの空間があり、更に見てみると、人間のいる空間が見つかった。
隙間から小さい光精霊に潜入してもらい、中の様子を伝えてもらったところ、女性がひとり座って何か書いているとのことだった。
第一王女の可能性があるが、他の王女や側室の誰かかもしれない。
それにしても、何故外に出てこないのだろうか?
用心深く安全が確認されるまで出てこないつもりかもしれない。
姿を隠して音を遮断しても扉を開けたら気づかれてしまうし、誰かが開けるか本人が出てくるのを光精霊に監視してもらって、家に帰ることにした。
「ミズちゃん、何処に行ってたの?心配したよ?」
「何処かに行くときは行き先といつ帰るか言ってから出掛けなさい。」
「ごめんなさい。ムツキ姉さん。母さん。今度から気をつけます。でも内緒の時はどうしたらいいですか?」
「そうねー。獣人の国に行ってることにして、獣人に伝達を頼むとか?」
「連絡が取れるならどこにいても母さんは気にしないわ。」
「連絡だけなら、この光精霊で何処にいてもすぐに伝達できるよ?」
「へー。それは凄いね。今度貸してちょうだい。」
いつの間にかシェーシャ母さんが来ていた。
「シェーシャ母さん、貸しても良いけど、手紙のやり取りみたいなものだよ?」
「それでも鳥を使うより早いんでしょ?」
「うん。文字を写す時間分だけかかるけど、どんなに離れてても直ぐに届くよ。手紙を直にやり取りする感じかな。」
「ミズ、いいところにいた。ちょっといいか?」
この国の内政や外交問題で忙しくしているせいか、かなりやつれてきたコクヨウ兄さんが、知らない人間を引き連れて歩いてきた。
「何?大兄...じゃなかった。コクヨウ様、何ですか?」
「言葉使いは気にしなくていい。それより、ちょっと相談がある。この国を民主主義国にしたいのだが、人材が全然足りない。学校に誰かいい人間はいないか?」
「んー。あまり上級生と接点が無いから分からない。キサラギ兄さんかムツキ姉さんに聞いて見て?」
「そうだな。連絡頼めるか?」
「うん。今すぐでも返事もらえるよ?」
「どういうことだ?」
「えーと、この光精霊を使っての通信実験中で、今はこことツヴァイを繋いでる感じ?試しにやってみて。」
「なんだか分からないけど、やってみよう。どうすればいいんだ?」
我はオプトに中継を頼み、ツヴァイの光精霊とこの城の光精霊を使った通信実験を開始した。
最初は戸惑ったものの、慣れると容易に伝達することができ、凄く便利なので、今後は各町に設置する方向になった。
『ミズ様、隣国で動きがあったようです。』
『ほう。出てきたか?』
『いえ、帰還した兵士達が生存者の捜索を始めたようです。あと、第一王女らしき女性のいる部屋に濃い魔力が貯まっているそうです。』
『魔力?媒体は?』
『どうやら女性の体に貯まっているようです。少し漏れだしているみたいです。』
『魔人か?』
魔人だとすると早く退治しなければ大変だが、魔人が手紙を書くのだろうか?
直接見てみないと良く分からないので、護衛に光精霊と風精霊と炎精霊と氷精霊の四体を連れて、危険を承知で行ってみることにした。
「ようこそ。いつ来るのかと待っていたわ。」
地下室の扉を開けると、椅子に座っている金髪の女性が話しかけてきた。
「貴女は第一王女ですか?」
「そうね。ブラウ王国第一王女のイザベラよ。貴方が神獣の皇子ね。会えて嬉しいわ。交換留学で来ていたときに会えていたら、もっと良かったのだけど。」
「貴女は何がしたいのですか?傀儡の兵士達は貴女の仕業ですか?」
「そうね。人間を強化した結果があれらね。」
「何故そんなことをするのですか?」
我の質問に眉根を寄せて苛立った様子で王女が立ち上がった。
「何故ですって?人間の為よ。こんな箱庭で管理されているような世界から解放するためよ。獣人なんかに管理されるなんておかしいわ。人間の国をひとつにまとめあげて、獣人を排除するのよ。そのための力も手に入れたわ。」
王女から濃い魔力が溢れてきた。
「貴方は獣人に命令出来るんでしょ?盟約の撤廃と宗教の廃止を命令しなさい。」
「嫌です。そんなことをしたら、この世界が崩壊してしまう。」
「ありえないわ。この星は物理的に誕生したのであって、神獣が創造したというのはでたらめよ。」
実際、人と獣が造ったのだが...
まあ、核を造って爆発させたら勝手に世界が広がっていって、沢山の星々が勝手にできあがったのだが、生物が住めるように調整したのは人と獣だった。
「獣人達は神獣の神託だとかいって貴方の国も攻撃してたじゃない。みんな獣人に騙されているのよ?貴方が神獣の皇子というのも何かの策略だと思うけど、獣人が命令を聞くうちに何とかしないと。貴方の言うことだってそのうち聞かなくなるわよ?」
そもそも獣人達は我が安心して生活できるように補佐しているだけなので、特に何か命令するとかの関係ではないのだが、説明してやることでもないので全て無視した。
「口で言っても無駄みたいね。これなら言うことを聞いてくれるかしら?」
王女から黒い炎があがった。
王女を見てみると、額に赤い宝石が埋め込まれており、その宝石から魔力が体中に供給されていた。
「この炎は精神を焼くのよ。焼き付くされて私の傀儡になりなさい!」
護衛に連れてきた精霊達が咄嗟に防御壁を作ったが、精神攻撃の防御は出来なかった。
我は黒い炎に包まれて意識を失った。
...気がつくと我は自分の体を見下ろしていた。
我の体はいまだ黒い炎を纏っている。
「なんで燃え尽きないのよ。どれだけ精神強化されてるのよ。」
どうやら強い精神力があればある程度対抗できるらしい。
我の場合、精神の本体は世界そのものより大きいので、一部を体に間借りさせているようなものだ。
なので、我が自ら接続を切らない限り、燃え尽きることはない。
ただこのままだと何も出来ないので、何とかしなければ。
『オプト、風精霊、我を隠して家まで連れていけ。』
『ミズ様!ご無事でしたか。』
『無事ではないな。この炎を消さないと我は体を動かすことが出来ない。三人娘達に何とかしてもらうつもりだ。とりあえず、ここから脱出したい。』
『はい。ミズ様。』
光精霊が炎に包まれたままの我の体を隠して、風精霊が我の体を浮かせた。
「隠れても無駄よ?その炎は精神を焼きつくすまで消えないわよ?私にも消せないわ。」
自分でも制御不能の魔力なのか。
間違って違う人間に当ててしまったらどうするつもりなのか。
つむじ風を残して我の体は部屋から脱出し、王都上空に浮かんでいた。
『このまま城まで戻られますか?』
『体だけ連れていってくれ、我は獣人に魔力について聞いてみる。もしかしたら消す方法が分かるかもしれない。』
『分かりました。お気をつけて。』
我は精神体だけで教会に行き、司教に聞いてみたが、魔力は専門外で全く分からないとのことだった。
仕方がないので家に帰ってみると、大騒ぎになっていた。
「この炎は熱くないけど、全然消えません。」
「んー。多分魔力によるものだけど、性質が全然分かんないー。」
「えーん。消えないよー。」
すでに水をかけたようで、我の体は水浸しになっていた。
水をかけても消えないのて、三人娘達が呼ばれて色々調べているようだった。
『オプト、みんなに説明してないのか?』
『はい。ミズ様。ここに連れてきて姿を表したら大騒ぎになってしまい、まだ説明できてません。』
『ふむ。落ち着くまで待つか。』
『大丈夫なのですか?』
『精神が燃え尽きることは無いから何年でも待てるが、体は栄養を取らないと死んでしまうな。さて、どうするか。』
打つ手がないと諦めたのか、騒ぎが収まってきたので、オプトに文字を照射してもらい、現状を伝えた。
(キ)「なっ、何?第一王女が魔力を使うだと?」
(イ)「魔人ということでしょうか?」
(コ)「魔人は魔力はあるけど体を動かすことにしか使わないよ?」
(サ)「魔力を使う女...魔女だね。」
(イ)「新しい種族の誕生ですか?余り嬉しくないですね。」
何か色々言っているが、このまま放置されると餓死してしまうので、どうにかできないか聞いてもらったところ、獣人の国の病院なら意識不明の者を延命させる医療技術があるというので、獣人の国に移送されることになった。
三人娘達も一緒に来て、魔力の解析をしてもらうことになった。
数ヵ月後、見事に解析を終わらせ、我の体から黒い炎が取りさられた。
我は意識を体の方に集中することで、体の自由を取り戻した。
「目をさましたよー。」
「気分はどうですか?」
「ミズっちが生き返ったー。」
「死んでないよ?ずっと生きてたよ?」
「先生ー。ミズっちが生き返ったよー。」
「だから、元々死んでないよ?」
ずっと体を動かすことが出来なかった為、筋肉が落ちてしまい、体を起こすのに苦労した。
しばらくはリハビリというものをしなくてはいけないらしい。
それでも体を動かすことが出来て、本当に良かった。
「三人共、本当にありがとう。大変だったでしょ?」
「「うん。すっごく。」」
「大丈夫ですよ。とても勉強になりました。」
凄く大変だったけど、充実してたということかな?
三人娘達は本当に研究熱心だな。
魔力を直接操作する方法も見つけて、魔法使いだーと喜んでいた。




