年中期4
王都から使者が来ていた。
なりたての魔人や魔物程度では殺せないと分かり、両親から離して手元において隙を見て殺すか毒殺するかに方向転換したようだ。
コクヨウ兄さんだけだと寂しいだろうと我にも来るように言われた。
実際は、幼い我を人質にとるということのようだ。
両親は反対して、ムツキ姉さんが代わりに行くと言ったが、以前王都で大暴れした姉さんを連れていくわけがない。
他の兄姉達も武勇を知られており、まだ幼い我は知力は素晴らしいが力は無いと思われている。
王都には優れた文化があり、学ぶなら王都に来るべきだと言っていた。
我は特別に獣人から授業を受けているので、王都に行っても行かなくても変わらない。
むしろ、先生が教師としてついてきてくれなければ学ぶものがない。
我は先生を教師として連れていってくれるならばと条件を出した。
「獣人が教師など聞いたことがない。獣人は宗教の布教はできても文化は人間の方が上なのだから、人間から学ぶべきでわ?それも王都なら最高の教師がいて最高の学問や文化が集まっている。ここよりもずっと良いはずだ。」
こいつは何を言っているんだ?人間が獣人に勝る所など何もないというのに。ああ、愚かさなら人間が一番かな。
行けるなら獣人の国に住みたい位だ。
以前一度だけ先生の家に連れていってもらったが、見たこともない調度品や夜でも明るい部屋や無人で演奏される音楽に凄く驚いたのを思い出していた。
「先生が行かないなら、行きたくない。」
「息子はまだ幼いので、四六時中兄と一緒ならまだしも、知らない人の中で生活するのはちょっと厳しいかと。」
父が進言すると使者は少し考える素振りを見せて考慮しようと言って王都へ帰っていった。
次の日、我は先生に王都に来てくれるか聞いてみた。
「本来、獣人は人間に関与しないので、特別に教えることもまずありません。ミズ様には神獣様よりなるべく要望に答えるように命じられておりますので、ミズ様が希望されるのでしたら王都でもどこでも参りましょう。」
「王都の文化は自国愛に片寄っていて、この世界全部を学ぶ事はできないでしょうから、私がお教えした方が良いでしょう。」
先生は獣人の国から毎日町まで転移門で通っているので、王都でも他国でも変わらないらしい。
転移門は各教会にあり、関係者以外入室禁止の部屋に設置されていて、人間には見えも触れもしないが、獣人なら起動可能らしい。
以前先生の家に行ったときも転移門から飛んだらしい。
目隠し状態で連れていかれたから分からなかった。
先生からの了承はもらえたが、王都からの返事はどうなるのだろうか。
数日後、また使者がやって来た。
今度はコクヨウ兄さんを連れていく為の馬車と護衛が用意されていた。
先生の住居の手続きは、王都の教会に丸投げしたようだが、すでに王都の教会にはこちらから連絡済みだったので、とくに混乱することもなく完了したようだ。
王都の入城許可はまだ手続き中とのことで、しばらく教会に通うことになるのだろうか。
まさかそのまま我だけ軟禁されたりはしないだろうか。
コクヨウ兄さんは確実に軟禁状態になるだろうから、今のうちに加護をつけよう。
などと考えていたら、コウヨウ兄さんが降りてきた。
コウヨウ兄さんを見て、使者が凄く驚いていた。
そういえば、コクヨウ兄さんは王都から帰るときには片足を失う大怪我をしていた。
両足がちゃんとあるのに驚いたのだろう。
義足の木の棒くらいで考えていたようだ。
「コクヨウ様、御御足はどうなされたのでしょうか?王都で立派な義足をご用意させていただいていたのですが、どちらでその本物のような義足をご用意されたのでしょうか?」
「これは義足ではなく本物の私の足だ。神獣様の奇跡で元に戻して頂けた。」
コクヨウ兄さんが返答した言葉を聞いた使者や護衛はひれ伏した。
神獣に認められているならば、次代の王はコクヨウ兄さんである。
これはそういうことらしい。
このもの達なら、もはや害を成そうとは考えないだろうが、念のためコクヨウ兄さんに【絶対防御】【毒物無効】の加護をつけた。
学友と別れの挨拶を済ませ、町の門のところまで来た。
コクヨウ兄さんは我を馬車に乗せると自分は馬に乗った。
いつのまに乗れるようになったのだろうか?
「大兄、馬に乗れるの?」
「ああ、王都で覚えた。」
「僕も乗ってみたい!」
「じゃあ王都に行く間に教えてやろう。とりあえず最初は一緒に乗ってみるか?」
「うん。乗ってみる!」
張り切って乗ろうとしたが、馬の背は高くて上れなかった。
コクヨウ兄さんが持ち上げてくれたので、馬の背に跨り首にしがみついた。
急に鬣を捕まれた馬はびっくりして我を振り落とした。
「104経験値獲得」
「レベル5になりました。次のレベルまであと466です。」
...今回は乗馬の失敗経験値だろうか。
レベルが上がって嬉しいのか、馬から落ちて痛いのか、上手く乗れなくて悔しいのか、複雑な気持ちになった。
「ミズ、怪我はないか?最初は落ちるものだよ。私も初めての時は落ちたし。王都まで日にちはあるから、ゆっくり練習しながら行こう。」
また持ち上げて馬に乗せてくれた。
今度は落ちずに座れ、後ろにコクヨウ兄さんが乗り、我を支えながら出発することになった。
町の外門で両親たちと別れをつげ、王都に向かった。