重き選択の天秤
路乃重羽という半天使の情報をほとんど集められないまま、その日は来た。レイとオモハの決闘は、東京支部の半天使ご用達の訓練場で行われる。
その広さと来たら、今までの訓練場が小学校の体育館だったのでは? と勘違いしてしまうくらいだ。さすがに東京ドーム単位までいくことはないが、それでも五倍以上の広さはあるだろう。
(うわ、静岡や長野の支部とは比較にならない大きさの訓練場だ……)
(ヘヴンズが一番力の入れる支部なだけはある……ということだろう。それより私たちの相手はすでにスタンバイしているようだが?)
ツバサの言葉通り、訓練場の中心にオモハはいた。そこで一つ、レイは訓練場に入ってきたときからの疑問をぶちまけた。
それは、二人を遠巻きに囲んだヘヴンズ職員たちの野次馬である。
「こんな大勢の人に見られるなんて、聞いてませんよ! それに皆さん仕事はどうしたんですか!?」
「ここにいる人間は皆休憩中ですわ。それに、口約束なんだから、当然伝え忘れたこともありますわ。それとも、ここまで御止めになります?」
オモハは、レイたちの状況を分かっている。だからこそ、当たり前の答えが返ってくると分かっていても質問するのだ。
「……そんなことは言ってません」
「ふふ♪」
可笑しくなるようなことは一言も発していないつもりだったが、オモハはもう箸を転がしても笑う次元んで興奮しているらしい。
「アレが《不屈の双翼》か……まだウィジェル歴半年だろ? その上オモハさんとやりあうって……」
「まあ、あの人のころの世代は大概ヤベエって聞くしなあ、十年に一回くらいはそういうのも沸くんじゃね?」
(なんか僕までボロクソ言われてるし……)
レイがどうにでもなれと諦めていると、東京支部の隊員らしき半天使の男性が近寄ってくる。らしきというのは、あまりにも自然な、それもムラの無い茶髪と瞳だったからだ。茶色というとウィングズの第二師団をまとめていた《礫鎧》を思い出す。今は監獄囚と同じ扱いをされているらしいが、ツバサがどんな反応をするのか気になるところである。
――それはともかく。
男は審判役として選ばれたのか、運動会で使うような紅白フラッグを手にしていた。そして、念を押すように確認。
「ルール無用の決闘だ、準備は出来ているか?」
「はい」
「よろしくてよ。それと、たとえ審判と言えど安全ではありませんので、開始したらとっとと退散してくださる?」
「イ、イエッサ!」
(あ、慌てて距離を取ってた……)
その様子はもう命からがらといったようだった。レイは、そんなにオモハの戦闘は凄惨なのかと恐れを抱きつつ、精神と表情を引き締める。
対するオモハは、やたらふわふわとした雰囲気を出し続けている。見た目だけはおっとりしているからかもしれない。彼女は、脱兎のごとく逃げていく同支部の仲間を詰まらなそうに眺めた後、レイに向けて笑顔を見せた。
「これで邪魔はありませんわ」
「そうまでして僕の何を……?」
本気で、レイの実力を知りたいだけなのか。それとも真の興味が他に存在するのだろうか。
「戦ってみればわかりますわ」
オモハは結局はぐらかすだけだった。
「両者所定の位置に着くように! なお、開始はこの宣言から三秒のカウントダウンが完了してからとする!」
審判役は、身の安全を第一に考えて両者に視線を泳がせ、男性にしては良く通るさわやかな声で宣言を始めた。
二本のフラッグが水平かつ平行に並べられる。続けて、彼はカウントを取り始めた。
「三……」
レイはいつもの構えに移行し、オモハは自然体を維持する。この時点で、両者は纏輪を召喚していた。
双翼の降臨型であるレイと、天使の輪のようにかかるオモハの纏輪――天輪型が一度に顕現する様は、伝説の一部始終のようだ。。
「二……」
とっくに交差していた半天使二人の視線が、より強く絡まっていく。
「一、始めッ!」
レイは一足飛びでオモハに接近しようと試みるが、いち早く相手の重圧が高まる。
(まさか、いきなりッ!?)
(ボーッとするな! こうなれば突っ込むのみだ!)
(ああ、もう脳筋だなあ!?)
しかし、ツバサのおかげで躊躇することは未然に防げた。だが、それはオモハも同じで、纏輪開放が止まることはない。
「纏輪開放、傾きなさい《天秤》」
重き選択の天秤が傾く。
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