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片翼の纏輪  作者: 物語あにま
悪魔リリスと三天使
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レイとツバサと

 外は寒いのだろう。レイとツバサは、白くなった息をみてそんなことを思った。庭先から見える景色に白くもやがかかる。

 話に付き合えと言われ、野外へ足を運ぶレイ。

 ツバサは、縁側のように突き出たところを、いかにも自分の陣地のように占領。その横に座るようレイに指示した。


「怯えているのか? 別に取って食おうってわけじゃないんだ、楽にしろ」

「いやー……頭ではわかってるんだけど体がね」

「そんなものか」


 ツバサが自分から話しかけてくるのは、長野で会って以来だ。体が強張ってしまうのも、多少融通が利かなくなってしまうのも無理ない。

 ウィングズから解放されてからの生活は、ツバサにあれこれ考えるだけの時間を与えた。

 それは、自分たちの行いが本当に正しかったのかどうかや、このまま人間としての当たり前だった生活を楽しむか、といったことだ。


「カタバネも私と同じなんだろう?」

「……纏輪がってこと?」

「違うわ鈍い奴め。最近の貴様はどうも辛気臭い顔しかしてない。私にもまあ……色々ある」


 ツバサはフブキの行方が気掛かりだった。ハガネから聞かされた限り、悪魔リリスという謎の組織と一緒に姿を眩ましたらしい。

 天使と半天使の世界を創世しようと奮闘していた、ウィングズリーダーだったフブキが悪魔の下に付く。そんなことは考えたくもなかった。


「フブキ様がお隠れになられてから、私も一人で考える時間ができた。その度に思うのだ。私はフブキ様に助けられた恩から、言われるがままに付き添っていたのでは? 義から忠を示していただけなのでは? と」

「え、そうなの!?」

「馬鹿者、本当にそうだというわけではない。早とちりするな。……そういう考え方もあると気付いた、それだけのことだ」


 寂しそうに言葉を切ったツバサが、レイの方を向くことはない。フブキに思いを馳せているのか、遠い空の向こうを眺めていた。朝焼けに染まる景色を前に、暮色翼はしんみりとしていた。


「私は……見捨てられたのだろうか。半端者の天使は……必要ないのだろうか」

「ツバサが半端なら僕は木っ端だよ」

「確かにカタバネは木っ端かもしれん。だが、それでも貴様はフブキ様と渡り合ったから、今ここで私と話している。それは忌々しいが、称賛されるべきことだ」


 この頃、ツバサは色々な事実を受け止めてきた。レイがフブキに勝利したことやウィングズが事実上解散してしまったこと。それに、天使は初めから人の世を統治する気などなく、むしろ支配するつもりであるということを。

 思い描いていた何もかもがゴミのように廃棄されていくのを感じながら、それでもツバサは無様に生き恥をさらしている。

 それに比べたら、レイの謙遜など傲慢もいいところだ。

 まあしかし、これらを口ですべて伝えられるほど、ツバサも素直ではない。


「そんな半端な私だから……もう一度に会って、語るべきを語りたい。ウィングズのボスとしてのフブキ様でなく、本心そのものであるフブキ様に。そのためなら、貴様らと仲良子良しで軍人ごっこにでも付き合ってやる」


 ツバサの突き放す物言いに、レイはしゅんと気落ちする。

 

「そっか、そうだよね。確かにツバサが僕たちと一緒にいる訳なんて、そこに利用価値があるからくらいしかないか」


 あるいは、仲良くなりつつあるんじゃないかと、心のどこかで思い違いをしていたのかもしれない。

 ツバサが、楽しそうに笑っていたのはここで過ごした時間だけじゃないから。

 訓練もいやいやながらに受けて、その度にレイたち全員をボコボコにしていた。一日に一回は必ずクロと喧嘩をしていた。なぜかホトリには不愛想ながらも世話を焼いていた。

 今日まで過ごした一か月と少しで、ツバサにささやかな心境の変化を起こしたんじゃないか、なんて。それらはレイの決めつけだったのかもしれない。


「……チッ、笑ったり落ち込んだり忙しい生き物だな」


 呆れ返った様子のツバサは、口端を僅かに釣り上げた。


「案ずるな。言っただろう、私は受けた恩を蔑ろにはせん。お前らの居場所に無理やり入ってきたのは私だからな。利用価値などと無情なことを引き出すつもりはない……案外、気楽というのも悪くないと、思い始めていたところだ」

「ツバサ……」


 まさか覗きからこんな真剣な展開になるなんて、とお茶を濁すことはしない。

 ただツバサが、本音を打ち明けたことが嬉しかった。

 いや、元々嘘をつくような娘ではないだろうから、ここは素朴な感情を表に出してくれたことを喜びたい。


「クハハ……柄でもないことをぺらぺらとしゃべるものではないな。お蔭で腹が減ったぞ」

「はは、じゃあ中に戻ろうか」


 わりあい長く話していた気がするので、腰を上げるのが億劫に感じる。ツバサも同様だったのか、長々と息を吐いて立ち上がっていた。


「何もかも吐き出したようで気分が良い。貴様に感謝を述べるのは癪だが、一応、ありがとう……とでも言っておく」

「……! うん……うん、どういたしまして!」


 時間はかかったが、ようやくツバサに数歩近寄れた。

 鮮烈な出会いから始まり、レイの運命を変えたツバサ。

 二人の数奇な運命を握るのは堕天使か、それとも悪魔か。それは今もなお争い続ける、神々のみぞ知っているのだろう。

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