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片翼の纏輪  作者: 物語あにま
片翼の半天使たち
11/153

あの時の天使は、今……

アホみたいな間違いしていたので修正しておきました。設定自分で忘れてたorz

 長野支部メンバーの控えるカンファレンスルームの扉は、どっしりと構えている。今時の巨大ビルディングにしては珍しい手動で押し引きするドアで、材質もお高そうな木材を惜しみなく使っていると見た。

 小さいマジックミラーが付いていて、中からはレイたちの様子が丸見えなのだろう。部屋からはどこかそわそわした雰囲気が漂っている。


「ま、入ってみれば分かるって」


 クロはちっとも怖じけた様子なく、扉を押した。レイとホトリの肩に力が入る。


「長野へいらっしゃーい!」

「わぁ……」


 その感嘆をどちらが漏らしたのかは定かでない。

 ドアをくぐった先、会議用の楕円卓に色とりどりの人間たちがいた。

 紫陽花(あじさい)色、灼熱の如き赤色、金色輪と同じ金色、落ち着きを感じさせる若草色。

 よくもこれだけのカラフル人間がいたものだ。キャンバスがあったら、そこに全員をぶちこみたいほどの鮮やかさ。

 内、紫陽花色の髪と瞳を持つ美形が、挨拶をした。フブキに勝るとも劣らない、容姿端麗な男だ。


「むむ、そこの二人が新人二人だな。こんばんわ、そして初めまして。俺はここの部隊長、藤見ふじみ人丞ひとつぐ。気軽にヒトツグと呼んでくれても構わないが、呼びにくければフジミでいい」

「こんばんわ、フジミ部隊長」

「よお、久しぶり。そっちも新人が一人いるな」

「初めまして、フジミ部隊長。僕は片翅嶺です」

「ではフジミさん、お初です。島崎畔です」


 それぞれに握手を終えたフジミは、穴が開くほどレイを見つめる。

 藤色の瞳に心奥を探られているような、しかし奇妙なことに嫌な気持ちは起こらない。


「あ、あの?」

「ああ、ごめんな。降臨型纏輪を持つ新人と聞いていたものだから、物珍しさに凝視してしまったんだ。けど、こうして実際に見ても、特に変わったところもない。俺たちの取り越し苦労だったことがわかったのさ」


 咳払いで誤魔化しを入れるフジミ。レイが思っている以上に降臨型のネームバリューは高いらしい。


(その価値に見合うだけの努力をしよう……)


「後は俺の頼れる隊員たちを紹介するぜ。チヅル!」


 前に出てきたのは、灼熱色のロングストレートを揺らす女の子。フタバのピンク色素を煮詰めきったような、真っ赤な瞳が意思力の強さを思わせる。赤縁の眼鏡が似合っているが、そもそもウィジェルが低視力というのはありえない。間違いなく伊達眼鏡だろう。

 目元のキリッとした顔立ちの彼女は、フジミに忌々しげな呪詛を呟く。


「ちょっとツグ。下手に株上げないでってば……あ、初めまして。私は赤郷あかさと千鶴ちづるよ。ホトリちゃん、カタバネ君」


 厳しそうなのは外面だけなのか、チヅルは口元を柔らかく微笑ませる。

 次にレイたちの前に出て、そのまま一礼した男。金髪金眼には削ぐわぬ、いたって平凡な顔。


「お初にお目にかかります。私は、真澄ますみ三洋みひろと申します。そして、」


ミヒロと名乗った金髪は、急に言葉を途絶えさせると、目にも止まらぬ素早さを見せる。


「ご機嫌麗しく存じます、フタバ様」


礼儀正しく跪き、桃色髪の少女に頭を垂れる。


「まだ続いてたんですね、これ」


忠犬のように指示を待つミヒロに、フタバは困惑の声で接する。


「クロ、この人は……」

「ミヒロか? 二年前の任務でフタバの人柄に感銘を受けたんだかなんだか、それ以来こんな感じ……ま、悪い奴じゃないよ」


 確かに悪い人物とは思えないが、変わり者ではある。

 ホトリはレイの後ろで変質者を発見したかのように隠れているし、勘弁してほしいものだ。


「ハイハイハイ、次! 次、アタシ!」


 最後の最後に我慢できずに飛び出したのは、若草色の髪を左にまとめて、合わせて同色の瞳をした女の子。

 笑顔が眩しい。元気さが売りの娘ようだ。レイより背が高く、クロと同じくらいの身長。男勝りという言葉がよく似合いそうだった。

 フジミ隊の面子は、呆れ半分の笑いをくれていた。


成道じょうどう小梢こずえっす! 名字で呼ばれるのは好きじゃないんで、コズエとお呼びくださいっ! 二年前入隊したっす! その節はお世話になりましたっ、クロ先輩、フタバ部隊長!」

「二年前の覚醒者か……世話なんて大層なことは出来きてないんだ、すまなかった」

「そうですね、あの時の私たちは若輩でしたから」


 途端、ずんと二人の空気が重くなる。そんな様子にコズエは焦りを浮かべてフォローした。


「あ、き、気にしなくても大丈夫っすよ! アタシ、元気とタフさだけが取り柄なんで!」

「そ、そうか? それは良かったなあ」

「ですねえ……」


 体育会系のノリと勢いを兼ね揃えるコズエは、その場で快活に跳ねた。その度に、左に結わえたサイドポニーとよく突き出た二つのものがゆさゆさ揺れる。


(あーあ、クロったら締まりのない顔して……あとフタバの表情が死んでる)


「ふ、二人とも、紹介も済んだことだし、そろそろ明日の作戦を練ろう!?」

「あ、ああわかってるぜ。……うん」


(だから視線を外して)


「この身は何故に成長しないのですか……纏輪ですか? 纏輪のせいなんですね?」

「フ、フタバ様の美しさはそのお姿こそ至高です。お気になさらずに!」


(確かに纏輪のせいだけどさ。ミヒロ君が大変そうだ)


 面倒な。括り的に新人のはずのレイは、今一度ため息をつくのだった。


(男のシンボル的な問題なのかも。確かにそれを小さくても大丈夫、とか言われたくはないな)


 でも、フタバはない(、、)わけではないし、表すのなら美乳である。だから気にすることはないんじゃ、とバスタオル越しにスタイルを確認したレイは思う。


「そっちも大変そうね」

「チヅルさん、分かってくれますか」

「うん、ウチも問題児ばかりだからね」


 レイとチヅルは訳もなく天井を見上げ、ちょっとだけ意気投合した。

 その脇で――


「どっちもどっち、ですー」


 ホトリは、湯呑みがあったら啜っていそうな様子で、一人距離を置いて傍観に徹していた。いつものように眠たげな垂れ目で。


 翌日のこと。


 レイは、平常運転で寝落ちしたホトリをキャッチし、朝食を終えた。

 静岡支部、長野支部を合計して八人が外に集まる。爽やかに晴れ渡った空の下、フジミとフタバが前にでて、他を一列にした状態だ。


「任務は、昨日話し合ったように、不審な人物や物と判断したら調査することだ。抵抗があった場合のみ、纏輪以外の武力行使を許可する」


 此度のパトロールもとい、ぶっちゃけてしまえば散歩のような任務は、日没後三時間が過ぎるまで実行するそうだ。

 人数や性別がちょうど揃うので、男女二人組で回ることとなった。熟練者と新人、同支部内といった具合に組んだ結果、


「よろしくフタバ」

「何かよくわからなければ、すぐに聞いてくださいね」


 クラス替え直後の同級生同士のように、微笑ましい空気をかもす二人と――


「俺に任せろ、ホトリちゃん。俺は全ての障害を絶ち切る男だからな!」

「鬱陶しいので一メートル離れてほしいです。ついでに一般道にはみ出して、トラックに頭でも見てもらうのをお勧めするです」


 すれ違い過多のカップルを思わせるタッグが爆誕した。

 一方の長野支部は、


「俺たちもいつも通りだ。なあチヅル」

「そ、そそそそうね!? ふ、二人きりだわ……」

「二人きりだと何か悪いのか?」

「ち、違うわよ!」


 鈍いフジミと素直になれないチヅルの本物のすれ違いペアと――


「おお、フタバ様……仲の良い男性ができたのですね、うっ……」

「うわっ、ミヒロ先輩がガチで嬉し泣きしてるっす!?」


 長野支部稀代の変人とそれに振り回される常識人の取り合わせが出来上がった。

 不安しかない見回りが始まる。

 全員が東西南北に別れ移動を開始。

 暑さにむせ返る街中を歩くのは、おなじみレイとフタバ。

 この暑い日に、なんと変装をしての登場だ。まあウィジェルに暑いだの、汗を掻くなど、あまり関係のないことだが。


「僕たちは東方面かあ。ねえ、フタバ。最初に会った時も思ったんだけど、なんで僕等こんなニット被ってるのさ、それもサングラスまで」

「ウィジェルは色々とやっかみを受けるので、それを避けるためにも必要なんです」


 そうは言っても、戦闘服用のボディスーツは着用している。私服でカモフラージュしてもネックからチラリと窺える黒タイツは隠せない。あとは側頭部から顎にかけて見える通信機も。

 これなら堂々としていた方がいいのでは。そんな様に思ってしまうのは仕方のないことだ。 


「これ、僕らの方が不審者じゃないの?」

「マスクをしてないので不審者じゃありません! レイ君は時々失礼です。初対面で見つめてくるし、言うこと聞かずにクロ君を助けに行ってしまうし」


 これは長くなりそうだ。レイはお説教の始まりを予知して、強引にフタバの手を引っ張った。


「ほら、大通りに行こう」

「ちょ、ちょっとレイ君!? まだ話は」


 腕を掴まれて慌てるフタバ。しかし、嫌がる素振りはなく、言いかけていた言葉も飲み込んだ。


「全く、仕方がないですね」


 代わりに、この夏の日には溶けてなくなってしまう、淡い消えそうな微笑みを浮かべた。

 何も起こらなければいいのにと思ってしまう。フォールとウィングズ。どちらの活動も激化の一途を辿ろうとする時はすぐそこに来ているだろう。


(この眩しさが曇らないように)


 フタバは、ぐいぐいと先行するレイの背に、日の光と今は見えぬ金色輪の輝きを重ねて目を細めた。



 都市化が進んだ長野の街道で、一人の少年が唐突に開口した。


「フタバ」

「はい」


 民衆の視線を集める、毛糸のニット帽と眉下まで覆うサングラスを装着した二人組。幼く見えてもしっかりとした公務員である。決して変質者ではない。


「もう、これ外そう」

「はい」


 半ば諦念が混じった了承を経て、レイは脱色された白髪を片手で掻き上げる。

 サングラスも必要ない。空いた手で黒光りするブツを取ると、一気に瞳が光を取り込んで眩しい。


「レイ君はまだ若白髪ぽくていいですよ。私なんてピンクです、ピンク」


 フタバも嘆息を一つして、団子状に纏めていた桃色の御髪を下ろす。日光の差し込みを受けて煌めくのは、明るい鳶色の瞳である。

 たとえ髪が変わった色をしていようとも、元の素材が素晴らしいのは変わらない。

 人々は、ある種人間離れした、フタバの異質な美しさに目を奪われていた。


「すごーい、あれコスプレ?」

「よく見なよ。ヘヴンズだって、あれ」

「えー!? でも、まだ高校生くらいじゃん」

「でも、あいつら年食わないらしいよー。もしかしたら歳上かも?」

「ヤダー、怖いー、化け物じゃん! しかも化け物カップル」


 などと暇をもて余した女子大学生同士が口汚くわめき散らしている。それは他の通行人も同じで、じろじろとマナーのなってない凝視が突き刺さる。

 久方ぶりに外出するレイだが、やはり居心地のよいものではないと再確認するのだった。


「フタバ、こんなところ早く移動しよう」

「……化け物じゃねえ」


 低い地鳴りを思わせる、著しく不機嫌な呟きだった。間違っても普段のフタバがするはずのない行為だ。


(フタヨか!? マズイ!)


 レイは、人格の切り替わった彼女の腕に力を込める。


「邪魔だ!」

「フタヨ!待って!」


 すっかりフタヨが意識を支配しているのだろう。そして、常識や良識すらガラッと変わる。それは不安定な空模様を思わせた。


「おうテメエーら、俺らは化け物じゃねえし、珍しいもんでもねえ!さっさと散れ、平日から歩き回る暇人共!」

「ひ、な、何この子!?」

「んだよ、可愛いのは見た目だけかよ」


 不良も真っ青なフタヨの痛罵が向けられ、道行く幅広い年層の人々が不気味がって避けていく。

 当然、レイは彼女の前に立って止めることに従事している。


「落ち着いて、フタヨ」

「あん!? 府抜けてんじゃねえぞ、シロ助! 俺たちゃナメられたら終わりなんだよ、ウィジェルにまともな人権はねえんだ!」

「……! フタヨ!」


 その決定的な一言に動きが一瞬だけ静止し、それでもレイは歯を食いしばってフタヨの名を呼んだ。

 熱くなり過ぎて我を見失う気持ちは分かる。人間扱いされないのは、誰だって激怒する。しかし、それを人智の超えた力を持つ者がやってはいけない。それは、きっと誰からも認められなくなるだけだから。

 普通よりも大きく深呼吸をしたフタヨは、レイの悲しげな顔を一睨みして退いた。


「悪かった。俺としたことがアネキにも迷惑かけた。後は、任せる」

「うん、ありがとう。任せてくれて」


 ふっと垢抜けた表情に戻った彼女は、少し泣き笑いしていた。

 結局、フタバとフタヨは繋がっているわけで、お互いに通じあっている。

 フタバが言えない、やれないあらゆることをフタヨがする。そうやって、バランスを取ってきたのだろう。

 しばらくレイはフタバを先導して、人気の少ないところを目指した。昼真っ盛り夏の歩道は、高温多湿のためか外出している人間が少ない。

 ちょうど良かった。

 ――少し離れた壁際に二人して、背中を預ける。


「ありがとうございました、レイ君」

「僕はその感謝を受け取れないよ。それは、フタヨが貰うべきものだと思う」


 彼女()の不平不満を余すことなくぶちまける、もう一人の自分()に対して。

 だがフタバは首を横に振る。


「いいえ。これは、レイ君が受け取ってください。私がフタヨちゃんに言うべきなのは、ありがとうだけじゃなくて、ごめんなさいもだから。いつも心の中で伝えているんですけど」


 でも、気にすんなって毎回返されるんです、と今度は困った風に、己を嘲笑した。

 フタバは項垂れて自暴自棄の言葉を言う。


「私は駄目なお姉ちゃんです、妹に嫌な役目ばかりさせる」


 レイは、ちょっとだけ勝手なフタバにムカついて、でも何も出来ない自分が嫌で、知らぬ間に彼女の両肩を強めに掴んでいた。

 壁から動けずにいるフタバを、灰色の瞳で一直線に見つめる。


(僕には何ができる? 頭も良くない、頑丈なだけの僕が、フタバにできること)


 フタバが、フタヨが弱気になっているのは嫌だ。二人にはもっと凛と、強気でいてほしいのだ。

 そのための受け皿になら、レイは喜んでなる。


「じゃあ、今度からは全部僕にぶつけて。フタヨだけじゃなくて、フタバが僕に。無駄にデカい纏輪と図太さだけが自慢の僕だけど、だからこそ受け止めてみせる。絶対にフタバの言葉で折れたりしない」


 本心から放ったその言葉に、フタバが有らん限り目を開いた。

 少女の肩から力が抜ける。それでやっと、レイの指のこわばりも解れた。


「あ、ごめん」

「いえ――」


 離れようとする彼の手に、フタバは上から掌を添える。そこに仄かな体温を感じる。


「今、気付きました。私はフタヨちゃんに残酷なことをさせてきたんだって。フタヨちゃんは私よりずっと強くて綺麗で……まるで天使みたいだから」


(僕は初めてフタバを見た時から、あのときの天使を重ねて見ていたんだよ。それはフタヨだけのものはなくて、きっとフタバにだって……)


 絞り出したフタバの声に震えが出始めた。レイは、懺悔が混じった告白をありのまま受け入れる。


「私は、真面目な良い子になんて、間違ってもなれなません」


 そんなことは無い、なんてレイは言わない。


「私は人間としても、小隊長としても未熟です。妹に全部嫌なことを押し付ける最低な人間です。それでも、私はレイ君に汚い部分をぶつけてもいいですか?」


 涙声のお願いだった。図々しく感じさせるも、叶えてあげたいと思わせる。


「任せて、きっと乗り越えられるから」


 だが、それに押されたわけじゃない。今しがたの返事は、レイが決意したことだ。問われて首を捻るような要素は、存在するはずがなかった。神に誓ったって良い。


「まだ新人さんなのに、全く生意気なレイ君です」

「わお、先輩風吹かすなんて、さすが部隊長」

「ちーがーいーまーすー。これは褒めてるんですよ」

「そんな! 素直に受けとることも許されないの!?」


 違いがよくわからなかったが、それよりフタバの笑顔が眩し過ぎる。顔に熱さを感じたレイは、胸の動機を押さえつけるのに必死にだった。

 ようやく、あの梅雨の日に見た天使の笑顔に近づけたのだから。

 時間は過ぎ、日が暮れる前の茜色の空になる頃。

 レイとフタバの二人は、休憩がてら何度目かのクールタイムとして、自動販売機で飲料水を購入していた。ヘヴンズ専用の電子マネーの利便性は、中々否定できないほどに有能である、とだけ言っておく。


「怪しい人物なし」

「不審な物も見当たらない」


 何事もなく終わって良かった、良かった。とはいってられないのが、このパトロールの厭らしい性質である。


「これはこれで怖いですよねー、見えない不気味さって言うのでしょうか」

「怪しい物って何? って感じだし。見本なんてあったら苦労はしないよね」


 レイは、眠気覚ましのブラックコーヒーの缶を一息に煽る。残り半分ほどの量が喉を嚥下していく度に、任務が上手くいかない苦味を感じた気がした。

 ふと、レイは路地に入っていく人影に目を移す。ソイツと視線が絡み合う。


「ともかく、今日はもうひと踏ん張りだ…………げほっ!?」

「大丈夫ですか、レイ君!? そんなに慌てて飲むから……」

「う、いや。御免、僕ちょっとそこらへんのコンビニに寄ってくるね」

「へっ? あ、ああはい」


 相方に背を向け、レイはさっき捉えた路地を曲がる。


(見間違え……? そんなわけがない、だってあの子は)


 ずっと気になっていた。あの時、あの雨の日、彼女は何をしたのか……彼女は何者なのか。


 少し路地に入った直後、凛とアルトを効かせた声が、レイの脚を止める。


(いつの間に後ろに回られた!?)


「やあ。同士、片翅嶺。元気にしていたか?」


 黒曜石のような瞳に、光の加減で宵闇色にも見える頭髪の彼女。どこか見下している視線と二括りにしたツーテールは傲慢さを際立たせる。

 シャツの上にはパーカーを羽織り、動きやすいホットパンツとタイツの組み合わせは、前と変わっていなかった。ただ仔細に変化はあったが。

 暮ゆく空の下、もう一人の降臨型の少女は堂々と立つ。


「ツバサ……」


 十年来の親友の如く接していた。

 レイは、一ヶ月の期間を経て、己にとって運命そのものとも言える少女と対面を果たした。

お読みいただきありがとうございます。

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