商社マン働きます
この世には様々な物を作る個人・企業がある。
いわゆるメーカーと呼ばれるそれらによって、車や服といった皆が見知っている物や、それらを構成する部品、はたまた一般の方には認知されてない物まで、それこそ星の数ほどの物が今現在も作られているのだ。
それらの商品は一般の消費者だけでなく、また別のメーカーの方にも素材として販売されている。
しかし、情報溢るるネットの海の中から、真に正しい情報を見つけることと同様に、そんな数多ある物のうち、目当ての物を見つけることは至難を極まる。
知名度が低いこともあれば、遠く離れた地で生まれたことによって名前すら知る機会がないということもありえるだろう。
欲しい素材があるのに、求めるクオリティを満たしたものがあるのに、知らないから出会えないなんて、そんなのはとても悲しい。
だがその悲劇を防ぐための会社というのが、同時に存在している。
「しまったなぁ、金属が足りねぇや」
「どうします親方?」
むう、原料の在庫量を勘違いしちまったようだ。納期までそこまで余裕があるわけじゃねえしな。組合の奴らんとこ行っても、急には用意できる量でもねぇ。となるとここは……。
「ちょっくら出かけてくるわ」
「どこに行くんで?」
「あそこだよあそこ。急ぎでこんな量の仕事をやってくれるっつったら、そこしか」
「ああ、あの--」
「やっぱりこの旋盤じゃあ、これ以上の品質が出せないみたいですね」
「そのようだな。だかもっと精度を上げないと使えないぞ」
下請けの俺たちとしては、より高品質の製品を大量に作る技術がなくては生きていけない。だが今度の契約を結ぶことができれば、当分の間は安泰だ。だからこそもっと突き詰めねば。
「もう自分たちでより高性能の機械を作るしかないですかね?」
「そうだな。いやちょっと待て。もっと良い機械がないか聞いてみよう」
「ああ、あの--」
「お疲れ様です。先生」
「ありがとう。君もよく働いてくれた」
「いえ私なんか全然ですよ。それにしてもこの薬凄かったですね。もう駄目かと思った患者でもこれを使えば死なずに済んだんですもん。これは先生が作ったんですか」
「ははっ、まさか。それは購入したものだよ。国が大枚はたいてくれたおかげだね」
「えー! そうだったんですか?」
「そうだとも」
にしても、これは本当に凄い薬だ。恐らく相当な努力と時間と費用、そして患者という犠牲を払って作られたものだろう。世界にはまだまだ知られてない凄いものがあるんだな。脱帽の思いとはこのことか。
「にしても、どこから買ったんですかね?」
「君も名前くらいは聞いたことがあるんじゃないかな? 最近よく活躍しているあの会社さ」
「ああ、あの--」
「おい、旅立たせてよかったのか?」
「仕方あるまいて。これ以上何もせぬわけにはいかぬ」
「しかし、絶対必要なものを持たせずにいてよいものか」
「安心せい、それについてはもう様々な所に依頼しておる。かの所にもな」
「ああ、あの--」
「はい、こちら飛垣根総合商社です。どのようなご用件でしょうか」
様々な人が口を揃えて言うその名こそ『飛垣根総合商社』。
そう。それこそすなわち、商社である。
この世にある無数のメーカーから情報を集め、それを基に需要と供給にあったメーカー同士のマッチングを実現し、それらの流通や卸を仲介することを仕事としている業種だ。
この仕事柄、様々な技能を必要としている。
様々な人間と触れ合うコミュニケーション能力。
情報を多角的に見ることができる洞察力。
膨大な手続きや書類などをこなす処理能力。
それ以外にも様々な技能を必要とする。
昨今の通信技術の発達や、メーカーが抱えるマーケティング部などの設立に伴い、商社を介さずに直に取引を行う所も増えているのは間違いない。
しかし、だからと言って商社がなくなることはない。商社の仕事は様々な問題や狭間を越えて、企業を繋げることができるものだからだ。
『企業や個人の間に横たわる色々な垣根を飛び越えて、新たな人々と経済と世界を繋げること』を社是、『差別することなかれ。侮ることなかれ。保証のない貸し借りをすることなかれ』を社訓として掲げているのが、私が勤める会社、『飛垣根総合商社』である。
「皆さん、入り用の物はございませんか? 欲しいものがどうしても見つからないという方は? もっと良いものが欲しいという方は? どれか一つでも当てはまる方が居られましたら、どうぞ我ら総合商社をお訊ねください。あらゆる垣根を乗り越えて、あなたの元へと駆けつけます」
申し遅れました。私は飛垣根総合商社、超営業部門の『海藤 新』と申します。