哲太と私
ふと、男の子が天然でしっかり者の女の子が振り回される話が書きたくて。
そうなってるのかどうかはわかりませんが作者的にはそんな感じです。
お久しぶりのリハビリ投稿ともいう……。よろしくお願いします。
私には幼馴染がいる。
久遠 哲太。
変わり者である。
中学までは「変な奴」と、これだけだったのだが、高校に入ってからどっかあちゃらの科学賞を取ったという。あやふやなのは私には興味がない事と、知ったところで何だって話なので捨てておく。
奴は授賞式に出るために夏休みにお母さんに連れていかれて髪を整え、眼鏡を新調した。
とんだ灰かぶりの、カエルの王子の……
つまり変身もののおとぎ話のように「イケメン王子」……とまではいかなくても立派な小ましな男となった。
夏休み明けデビュー。
変身と「賞を取ったすごい高校生」という二大看板を引っ提げて奴は夏休み明けには「将来有望的な存在」として女子から大変人気となったのだった。
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「スズメちゃん……。僕。」
「ちょっと、哲太!いくらなんでも女の子の部屋に入るときはノックくらいしてよ!」
「……ご、ごめん。」
「別に、いいけど。気をつけてよね。」
本当はポテトチップ片手にベットに寝転んで漫画読んでる姿にバツが悪いだけだが、哲太にはそういっておく。袋をテーブルに置いて体を上げると哲太はいつもみたいに普通に私の隣に座る。ここが女の子のベットだということも奴はスルーである。
「で、なに? 用があったんでしょ?」
しょっぱくなった指先を舐めながら哲太に促す。相談事があると哲太は毎回私のところに来る。科学馬鹿とも言える哲太は通常の生活には無関心なことが多くて両親が居なくなった(→じいちゃんが怪我してお母さんが手伝いに行っただけ。説明されてたのに聞いてなかった)、とか席が隣の子に怒られた(→グループ発表なのに参加してなかった)など、普通じゃ起きないことがたまに起きる。しかし、今回の相談はまさかのピンクな事案だった。
「……付き合うことになったんだ。」
「はあ?何に?」
「え……と……。河田さん。」
「河田?」
「……スズメちゃん知らない?河田美玲さん。ほら、僕のクラスの美化委員の……」
「それって、河田じゃなくて、鎌田じゃないの!?スイカップ(死語)の美女じゃん!」
掃除を全くやらん、自分しか磨かない美化委員の鎌田さんな。ちなみに私は真面目な美化委員だ。
驚く私となんだか青ざめている哲太。哲太は下を向いて膝の上の自分の手を見つめだした。
「浮かない顔だけど、もしかして、無理やり?……気に入らなければ断ればいいのに。」
「……それがね。女の子6人に囲まれて、付き合わないと酷い人みたいな雰囲気にどんどん……。」
どこの恐喝、詐欺集団だよ……。
「なんでもいいから嘘つきゃ良かったじゃない!それこそ、ほら、「好きな人がいる」とか、なんとかさ。」
「とっさに浮かばなくって。」
「はあ。頭いいんだか、悪いんだか。」
「……どうしよう。」
「……。」
哲太が私を縋るように見る。ヤメロ、その小動物的攻撃!思わず助けたくなるだろうが!
「……ときに哲太くん。……ゴホン……君、童貞かね?」
「す、す、スズメちゃん!?」
「どうなのかね?」
「……そりゃ、もちろん。モニャモニャ……。」
「よし!ヤラセてもらいなさい!!」
ゴツン!!
涙目の哲太に殴られたのは仕方ない。
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「もう、知らない!」
そう言った哲太が私の部屋から出て階段を下っていく音がする。なんだよ、乙女か!って思いながら私はため息しかでない。
「はあ。」
哲太には「好きな人」はいないんだな。しかもとっさに私の顔は浮かばないらしい。
哲太は私がどうしていつも世話を焼くのか分かっていない。それこそ幼稚園からの付き合いだが昔の方がそれなりに恋愛ぽかった。いつも手をつないでたし、お手紙交換だってした。
「哲太は鎌田さんと付き合うのか。」
引き出しを開けて隅っこに隠してる銀色の折り紙で作った輪っかを出してみる。
スズメちゃん、これ、あげる。
幼稚園の時に哲太がくれたのはくしゃくしゃの丸めた紙がついた折り紙の輪っか。意味なんてない、ただ、傍にいたからくれたに違いない。なんてことない紙の指輪。いつもフワフワしてる哲太だから隣にずっといたらきっと気付いたら私しか残っていないんじゃないか……なんて。
薄茶色の眼がかわいい事とか。
細いけど背はまあまあだとか。
気が弱いけどやさしいとか。
くっついてくるのがホントは好きなこととか。
……私しか知らずにずうっといられるんじゃないかと思ってた。
現実は、厳しいんだな。
哲太が恋愛に疎いことも関心ないこともわかってたし、私のこと意識してないことも十分知ってたけど、断る口実でもなんでもいいから「野崎寿々奈が恋人です。」くらい言ってくれたらよかったのにな。
「でも、哲太は……。」
あの、巨乳美人と付き合うんだ。
……はあ、私が男でも遊ばれようが付き合いたいわ。
あーあ。
馬鹿らしい。
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次の朝、考え事していたせいで家を出遅れた。
いつもは何となく哲太と学校まで行くのだけど、先に行ったのか姿が見えない。別に待ってて欲しいとか、約束したわけじゃないから思わないけど、何となく寂しかった。
「ああ!寿々奈ちゃん!」
後ろから声をかけられてびくっとしてしまった。
「あ、英恵さん。」
声をかけてきたのは哲太の母親の英恵さんだった。英恵さんは背の高い、テニスが好きな美人さんだ。
「哲太、今日、お弁当忘れていったのよ!悪いけど、寿々奈ちゃん持って行ってくれる?」
「いいですよ。」
「助かるわあ!もー今日から早く行くって、どういうことかしら……。」
「え?哲太、早く家をでたんですか?」
「そういえば、寿々奈ちゃん……あれ?今日は哲太と……??」
「いえ、哲太と待ち合わせていってるわけじゃないですから。これ、渡しときますね。」
にっこり笑って英恵さんとの会話を中断する。こないだまでは「寿々奈ちゃんは未来の嫁~」とか言ってもらってたけど、哲太に彼女なんてできちゃった日には痛い子でしかない。手を振って英恵さんと別れて早足になる。ああ、英恵さんは敏いから、何か感じてるだろうな……。
「バカ哲太。」
哲太の弁当は軽い。私の弁当と量は変わらないだろう。男としてどうなのよ。
……まあ、そう思うのも、お節介に違いない。
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「哲太、弁当。」
お昼休みは無限にあるわけではないのに探し回った挙句に哲太がいたのは科学準備室だった。顧問に好かれた哲太しかカギは持っていないが弁当を食べるには怪しすぎる部屋だ。
「スズメちゃん……ありがと。」
「なんでこんなところにいるのよ。」
「だって……。」
「……鎌田さん避けてんの?」
「……うん……。」
「はあ。」
哲太にお弁当を渡すと私も哲太が座っていたソファーに座る。横に座った私を観察するようにに哲太が見ていた。
「なによ。探し回ってたから、時間なくなっちゃったんじゃない。」
「……うん。ごめん。」
授業まであと20分ほどになっていた。哲太も続いてお弁当を開けた。なんか顔が赤いのは弁当箱を包んでいた布が赤いからか。
「……ちゃんと鎌田さんと話したほうがいいよ。」
「……うん。」
それからは無言でお弁当を食べ続けた。いつものようにピーマンを避けていたら、哲太がひょいと持って行った。そんな昼休みだった。
********
哲太が相変わらず鎌田さんを避けてから1週間がたった。
なぜか私も一緒に避けられているのはどうしてか。でも、その真意を確かめる術よりも勇気がなかった。しかし、逃げてばかりで何が解決するのか、しないに決まってるってことで私は呼び出しを食らった。
なんでだよ。
もう一度言う。
な・ん・で・だ・よ・
そう、鎌田さんから逃げ回っているのは哲太で、私ではないのに鎌田さんからのまさかの呼び出しだった。体育館倉庫前ってベタだな、おい。
「哲太くんから聞いてる?私のこと。」
「……。」
多勢に無勢作戦一貫にしているのか鎌田さんは3人のお供を伴っていた。まあ、哲太を丸め込んだ時よりは少ない。
「最近、忙しいのか哲太くんと連絡がとれなくって。野崎さん、幼馴染なんでしょう?何か聞いていない?」
「美玲ちゃん、苦しんでるの、野崎さん、助けてあげて?」
色々言ってやりたい気分だがここで反感を買うと「哲太が好きなのか」とか、「私に嫉妬して」とかになってややこしくなるに違いない。……鎌田さんは典型的な女王様タイプなので多分、私をターゲットにして色々吹き込むのもやぶさかではないだろう。うーん、と唸ってどうしようかと頭を捻った。
「哲太はね……。」
「ちょっと、野崎さん、人の彼氏を呼び捨ては無いんじゃない?」
「……。」
めんどくせ。
「久遠くんはね……毎日忙しいのよ。……オタクだから。」
「え?」
「ほら、オタク……。」
「ああ、うん。科学オタクよね!そういうとこ、頭よさそうで好き。」
「……。」
なんだろ、いちいちむかつく巨乳だな。
「いや。秋葉原にいるような……。」
「……。」
「メイド喫茶でハートケチャップ頼むような……。」
「……。」
「二次元彼女を愛でるような……。ああ。鎌田さんは……。」
巨乳だからね。と最後は目線だけで攻め込んでみた。一同、目がウロウロと泳ぎ始めたところを見ると、そういう人種はお気に召さないらしい。私はアニメトークでガッツリドンぶり飯食べれるがね!
「え、ええっと……。取りあえず、久遠君と教室で話してみるわ……。」
……なんだよ、初めからそうしろよ、押しかけ女房のくせに根性が足りない。しかし、哲太よ。鎌田さんとは別れれるかもしれないが、事実無根の噂が枝葉付きで流れるだろう……スマン。
科学オタクなだけだって、あんな恋愛偏差値の低い哲太が乳目的に打算的に付き合うかっての!ステータスだけで釣られるから中身が見えてないんだよ。
なんだか妙に落胆色した背中の彼女たちに、呼び出しに応じた私に労いの一言も欲しかったな、と言ってやりたい気分だった。
********
その晩、予想はしていたが哲太が私を訪ねてきた。
「スズメちゃん……今日、僕、鎌田さんにお友達に戻りましょうって言われたよ。」
「……友達だったの?」
「ううん、全然。」
「「……。」」
「で、岡村君に声かけられた。今度のコミケは何狙いだって。」
「……ああ、ごめん。岡田君はキングオブオタクだからね。」
二次嫁を愛でるがあまり自分で描いちゃって、動かしちゃって〇OUTUBEにUPしてる人だからね。ちょっとした有名人の哲太が仲間だと思って舞い上がっちゃったんだろう。
「スズメちゃん、鎌田さんに呼び出されてたんだね。」
「うん。……嘘の話流してごめんね。」
「ううん。僕の方こそスズメちゃんに守ってもらってばかりでごめん。でも……。」
「?」
「僕のせいで呼び出されたんだし、言ってほしかったな。」
「え……でも。それは、哲太が私のこと避けてたから。」
「……。一応、鎌田さんと付き合うって事だったから、スズメちゃんと仲が良いと、スズメちゃんが鎌田さんたちに目をつけられると思って。」
「ああ、まあ。」
一緒に登校したりしてたしね。まあ、男子から見てもやっぱそういう感じに見えてたのか。呼び出されたんだから意味なかったとも思えるが。
「そんなに僕って頼りないかな?」
「「……。」」
目は口ほどに言う。頼りがいは正直無いだろうよ。言った哲太も何言ってんだ僕だろう。
「……僕こないだから聞きたいことが有るんだけど。」
「なに?」
「スズメちゃんが変なこと言うから。気になって……。」
「変なこと?」
「……スズメちゃんは………。」
「私は?」
「……なの?」
「なに?聞こえない。」
「だから、し、し、処女なの!?」
「え……。」
「僕は童貞って言ったけど、スズメちゃんには聞いてないし!不公平だし!」
「あの……なんで……。」
「どっちなの!?」
真っ赤な顔の哲太に言い寄られるけど、どうして拗ねながら聞かれているのかがわからない。可愛いけどな!
「しょ、処女だけど。」
哲太に片思い歴更新中なのだから新品で当たり前だろう。私がそう告げると「ほ~~。」と長い息を吐いた哲太の足が崩れて膝立ちになっていた。ベッドに腰かけていた私は上からの威圧感には解放されたが、肩を震わせる哲太が心配になってきた。だって、哲太、泣いてるし。
「あんなこと……言うから……。スズメちゃんが……ヒック……。」
「なんか、言ったかな?私……。」
ボロボロと涙と鼻水を垂らす哲太が私を恨めしそうに見ながらしゃくってる。
「……やってこいとか……ヒック……簡単に……。」
「……ああ。」
そういや、言ったような。いや、でも「やってこい」とは断じて言ってないぞ。
「哲太は私が経験済みだと嫌だって思ってくれたってこと?」
感極まったのかどこから出たのか分からない水分を飛ばしながら哲太が勢いよく首を縦に振った。
「あ、当たり前だったから……考えたことなかったんだ……ヒック……す、スズメちゃんがそばにいること……。ずっと、一緒だって……当たり前だって……。でも……他の人とやれって……ヒック……うああああん。」
「……だから、「やってこい」なんて、一言も言ってない……。」
「うあああああん。」
泣きながら抱き付いてきた哲太の頭を抱えてよしよし、してやる。勘違いしたのは私のせいじゃないんだが。まあ、可愛いから許す。しかも、嫉妬してなんて。……なんかお腹の辺りが湿ってきたのも……まあ……いいだろう。
「私はさ。哲太のことが好きだよ。」
意を決してこの可愛い生き物に思いを告げてみる。ついでに頭のてっぺんにもキスしてやるさ。
「ほ、ほんと?」
心配そうに顔を上げた哲太に安心させるようににっこりと笑ってやる。
「僕もスズメちゃんが好き……大好き。」
破壊力ある攻撃にめまいがしそうな幸福感が襲う。いっそ、このまま、襲ってやろうか。……いかんいかん。哲太が流石に引くに違いない。でも……。
んちゅ。
これくらいは役得ないと。と哲太の唇に自分のを重ねてみる。目の赤い哲太が色っぽくとろんとしていて、私の理性の限界を試しているようだ。
「スズメちゃん……。」
「哲太……。」
そっと舌を忍ばせると哲太の肩がビクリと跳ねた。覗うように私を見る哲太だが、恐る恐る私の舌に舌で触れてきた。嬉しくなって口づけを深くする。ああ、なんか、思ってたより幸せすぎるし、気持ちいいし。荒い息遣いと唾液の水音が耳に届いてなんか、もう、すごいエッチだ。
「哲太、このまま、しちゃう?」
哲太の体が私の言葉に跳ねた。
「ダメ!赤ちゃん出来ちゃう!」
「……。」
アワアワしながら哲太の体が私から離れていった。チッ。惜しかった。どのみちこのまま合体でもしたら明日、哲太はパニックだろうしな。
「今日は我慢するけど、準備したらするよ?」
真っ赤な顔の哲太が涙を浮かべながら恥ずかしそうに私を見る。反則に可愛い。
「哲太が好きだから。したい。」
畳掛けると哲太がうつむいたまま何度も頷いた。
可愛い哲太。
このままコンビニにナニを買いに行こうかと不埒な思いを抱いた私に哲太がそっとしがみついてきて……。
幸せだからまあ、いっか。とその日は自分を抑えた私だった。
……
……
結局、20で結婚するまでお預けされたけどな!!
おわり。