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第八話 変わる日常

パラセクト襲来から三日……未だに舗装されない剥き出しの道路の上の多数の車がいつもと変わらず通過していく。人々は未だ襲来のショックがあるものの、何とか今までの生活を続けている。

そんな中でエクスレイアに乗り込み、ナイト級三匹とクイーン級一匹を倒した尚人はとあるホテルに三日間監禁されていた。


「はぁ……かれこれ三日か。防犯装置が働いたからにはあるだろうって思っていたけど……退屈だ」


起きた時は状況が把握できずに何もできなかったが、不意に天川のことを思い出すと涙が溢れた。あの時傷ついた身体で何もできなかった自分の無力感に嫌と言うほど打ちのめされ、大切な親友を失った自分を責めて泣き続けた。

半日ほど泣き続けた後、いつまでもくよくよしていられないと思い、尚人は行動を開始する。だが、部屋から出ようとしても外から鍵がかけられているし、ベランダから逃げようとも調べたらここは地上五十二階。ならば、ポータブル端末で人を呼ぼうと思ったが没収されていたし、パソコンが置いてあるからそれで連絡しようにもどうやら特殊なパソコンらしく、外部へ連絡するソフトを使用もしくはダウンロードする事は無理だった。

それを一日目にわかってから尚人はまず外の状況を知ることに徹した。幸いテレビも見れたし、ネットも連絡する以外のことなら使用可能だった。

今世間を騒がしているのはやはり長屋にパラセトラが襲撃したことだ。尚人も行方不明者の数や死傷者の数を知って愕然としたが、その中に紗夜や柿崎の名前がなかった事を知って少しだけ安堵する。だが、行方不明者リストの中に自分の名前があったことにはさすがに堪えた。

次に話題になっているのは自分が乗ったロボットだ。これに関しては政府も国連もまだなにも正式な発表がないため、様々な推測がテレビでネットで飛び交っている。尚人も所在を考えるが、思えば長屋の地下で作られているのも意味がわからないし、かといってどこの国が主導で開発していたかも検討がつかない。

しかし、あの時機体のフォルムを見た感想を言えば、今まで日本で生まれたロボットアニメの主役機体のいいところを少しずつ混ぜて格好良くした感じだ。となれば、主開発国はおそらく日本になるが……


「初めて開発する人型ロボットなのにあれほどの機動ができるって……どういう事だ?」

「それは私から説明させてもらおうか?」

「っ!?」


いきなり扉の方から声が聞こえ、慌てて振り向くとそこには白衣を着た男がこちらに歩いてきた。男はそのまま尚人が座っているソファの対面に座り、持っていた資料をぞんざいに放り投げる。


「……いきなりなんですか?」

「おおっと、自己紹介がまだだったな。私は永山剛。国連主導で開発が行われている汎用人型機動兵器開発計画の主任をしている」

「国連主導で? でもあの機体のフォルムは……」

「ああ、国連主導って言ってもパラセクト対策本部からちょっとばかりの開発費用を出してもらっているだけ。主開発国は日本、ドイツ、アメリカ、フランスの四ヶ国。その内アメリカとドイツはすでに人型兵器を実用化して実戦に投入している」

「嘘ぉっ!? そんな話一つも―」

「実際にあるんだよ。まぁ両者人型兵器を投入する際は強力なジャミングをかけて念入りに情報規制しながら投入するんだけどな」


へらへらと笑いながら永山が話していくが、ここで尚人は一つ疑問に思う。

すでに実戦投入されてながらも徹底した情報規制……これは推測になるが、ドイツもアメリカもまだ満足な結果を得られてないから公表しないのではないのか?


「お察しの通り、まだ安心して使える段階じゃない。共通の問題はやはり駆動部の負荷が大きいこと。フランスも試作機まではできているんだが、別の問題で実戦投入に手間取っている。さて問題、じゃあ日本の人型兵器はいきなり実戦投入して、あれほどの戦果を上げられたのでしょうか?」

「それは……」


先ほどの疑問を言葉にされて改めて考える。永山が各国のロボット開発で手間取っている問題点を挙げてくれたことでより鮮明に疑問点が浮かんできた。

駆動部の過負荷は人型ロボットを実用化するに当たって万国共通の問題だ。最低でも四ヶ所――肘と膝に当たる駆動部はショックアブソーバーの役目も兼ねているため負荷は非常に大きい。だからこそ、人型ロボットを作る際は必ず駆動部の負荷軽減の研究から始まるのだ。しかし、昨日乗ったロボットは派手に動いたにもかかわらず全くそういう問題は起きなかった。

頭に入っている知識を総動員して答えを出そうとしている尚人に、永山は目の前に投げた資料に手を置いてヒントを示す。


「ここにヒント及び答えが載っている。お前の知りたい情報も全て載っているぞ」


示されたヒント……資料を手に取ろうとして手を伸ばすが、その分下げられてしまう。


「……これを手に取った瞬間、お前は今までの生活を捨てなければいけないぞ?」

「えっ?」

「この資料には知ってしまえば最後、一生監視されるぐらい機密レベルが高い情報がわんさか載っている。それを見れば、これからのお前の人生は暗く細い道筋を歩いていく羽目になるぞ?」

「……」


身も蓋もない脅し文句に喉を鳴らして手を引く尚人。その行動を予測していたのか、満足げにため息をつき、胸元に入れてある手帳を開く。


「早川尚人……歳は十六、生年月日は二千七年七月二十七日、身長百七十八センチ、体重七十九キロ、両親は健在だが世界的に有名なジャーナリストのため常に飛び回っている。恋人はいないがそれに近い存在として川上紗夜という人物がいる。通っている学校は私立栄高校、成績は中の上、所属部活はなし。趣味は読書、小説執筆、ゲーム。小説執筆はネットでの投稿程度であるが少数の固定ファンが付いている。ゲームは主にBS4とゲームセンターにある稼働戦士ギャンダム・戦場の共鳴とスティール・ファイターをする。戦場の共鳴とスティール・ファイターの腕は全国クラス……まぁこんな所か?」

「……俺の資料って事ですか?」

「ああ。だが、この資料を手に取れば、全てが闇に葬られる。それでもこの資料を手にする覚悟があるか?」

「……」

「そういえば、まだ感想を聞いていなかったな? エクスレイアに乗ってどうだった?」

「それは……」


あの時はただがむしゃらに敵を倒すことだけを考えていたが、今は……


「……答える気になれません。それと……一時間だけでいいので時間をください」

「ほぉ……一時間だけでいいのか? 自分の明暗を分ける選択肢なのに?」

「ええ。即決即断、それが俺の信条ですから」

「……わかった。一時間後、またこの部屋に来る。決めていても決めていなくてもだ。それでは、俺はここで失礼するよ」


再び資料を手にとって永山は部屋を出て行く。一人取り残された尚人は頭を掻き毟って独りごちる。


「くそっ! やっぱりお決まりの誘い文句かよ……洒落になんねぇぞ」


軍事系アクションの漫画などでよく見る「逃げ道に見えるようでどちらも監視付き」という選択肢が自身に迫っている。

この誘いに乗れば、おそらく俺は別の施設に移され、然るべき訓練を受けた後極秘任務に従事するこの世界に存在しない人間となるだろう。これが意味するのは今ある戸籍情報を一切消して、もしばれたとしても死んでいる人間として扱えるため、リスクが少ない。無論今回の騒ぎを利用すれば、さらにやりやすくなる。

だが、それはもう人としては生きていけない。監禁されるのは間違いないし、もしそうでなくても常に監視がつきまとう。死ぬかお役ご免になれば、口封じに殺されるのが目に見えている。

かといって誘いを蹴れば、待っているのは情報が陳腐化するまで監視が付く元の世界だ。前者に比べれば確かにマシだが、それでも一つ今までのことを口から滑らせれば消されるのは目に見えてわかる。人間用心していても言ってしまう時はある。その瞬間、殺される運命が確定する。

見えない監視にビクビク怯えて生きていく人生なんて……まっぴらご免だ。

進むも退くも地獄への入り口……だったらどうすればいいんだ!?

頭を抱えて尚人は悩む。あの時自分がしたことはこんな地獄への第一歩を踏み出す事だったのかと。


永山は部屋を出た後、大きなため息をついて自分が詰めている別室へ戻る。部屋には助手と数人の自衛官が待機していて重苦しい空気を醸し出している。


「ふぅ……」

「どうでしたか? あの子供、乗ってきます?」

「賢しいガキは嫌いだ。あの野郎、意外に自分の状況が見えてやがる」

「えっ?」

「普通あのぐらいのガキでこっち系の興味を持っているのなら尻尾を振って飛びつくだろう。逆にその興味がなければ、誘いを断るか返事を一日待ってくれと言うのが相場だ。だが、あのガキは違った。一時間待ってくれって言ったんだ」

「それがどう違うのですか?」

「一日待つって言うのは問題を先延ばしにするって事だ。一時間ぐらいは考えるだろうが、その後は深く考えなくなる。あのガキは若いながらもそれがわかってんのか、一時間だけくれって言ってきた。しかも最初の誘いで手を取らなかったのも軍の本質を知っているからだろうな。漫画やアニメの知識だろうが、あれはあれで結構リアリティがある。それを踏まえてこの答えを出したのなら、俺はあいつを賢しいガキだと評価するね」


今にも笑い出しそうなほど顔をにやつかせて語る永山を向かいの自衛官がジロリと睨む。


「そんなことよりも博士、本当にあの少年をエクスレイアのパイロットにするのか? 彼は民間人なんだぞ」

「自衛官使うよりはいいでしょ? しかもエクスレイアの操縦システムは戦場の共鳴を参考にした物と来たもんだ。全国クラスの彼ならば、一から仕込むより早くデータが取れるでしょう」

「しかし……所属とかはどうするんだ? 我々は自衛隊なんだぞ?」

「民間協力者として臨時登録すればよろしいのでは? 情報漏洩が怖いのであれば、架空の戸籍を作って自衛官待遇にするとか?」

「確かにいい手だが……」


自衛官は渋い顔をして、永山の提案を熟考する。

民間協力者として登録すれば簡単でそれで済む。しかし、もしも戦闘に参加していることがマスコミに知られれば間違いなく袋叩きに遭うのは目に見えている。自衛官待遇にするとしても、もしも出自が判明すれば同様であり、マスコミはそのアラを探すのが非常にうまい。不祥事は避けたい以上、少しでもそういったリスクは避けたい。

腕を組んだまま悩んでいる姿に焦れたのか、永山は頭を掻いて吐き捨てるように言う。


「わかりました。登用するのであれば技研の所属で、マスコミなどにバレた場合はこちらで全責任を負います。これでよろしいですか?」

「まぁ……それならば」


永山の言葉を聞いた自衛官はいかにも納得しかねる表情を浮かべているが、実際はしてやったりとでも思っているのだろう。公務員は厄介事を尽く嫌う性質があるので、基本的に厄介の種になる物を抱え込むことはない。

一つため息をついて、永山はこれからの方針を決めるべく別の資料を開ける。


「で、どうします? エクスレイアが戦闘機動できることは三日前に立証されました。パイロットを民間人にするかしないかを別にして、今後はデータ取りのために実戦に参加させるのが一番いいかと思いますが?」

「その事はすでに国連の方に打診してある。おそらくアジア周辺でパラセトラが多発している地域に投入されると思う。輸送機に関しては今使っているC-130Hからアメリカで人型兵器運搬用に調整されたC-130が提供されるようだ」

「自衛隊のC-130Hはただ単に乗せられるようスペースを確保しただけですもんね。あれでは空輸とかは無理だ」

「だがいいニュースばかりではない。エクスレイアが長屋に現れて以来、各国からの問い合わせが殺到している。特に中国と韓国は自国の脅威が増えたと思っているのか、猛烈な抗議をしている」

「……具体的な要求は?」

「深い謝罪とエクスレイアの譲渡が主な物で、後は……まぁいつものパターンですな」


そう言って自衛官はまた別の紙資料を永山に渡す。パラパラとめくってみると各国からの問い合わせと抗議が国別に箇条書きでまとめられている。その中で中国と韓国の所は他に比べて箇条書きの数が群を抜いて多い。

五年前に起こった尖閣諸島を巡る中国不法占領問題以降、日中関係は冷戦時代の米ソと言われるほど冷え込んでいる。中国は何が何でも日本のせいにしようとあれこれ難癖付けてくるので、世界からもその姿勢に批判の声が上がっている。さらにそれに乗じて韓国もあれこれ難癖付けてくるので、たまった物ではない。

中身を見てみると今まで問題になってきたことを初めに、解決したはずの問題を穿り返していたり、環境問題などと言った自国の問題もこちらのせいにしている項目も見られる。

つまらなさそうに資料を机に投げて、自衛官に言う。


「とりあえず予定通り、アメリカ、ドイツ、フランスにはエクスレイアの基礎設計データを提供。ただし動力部に関してはブラックボックスとしましょう。後は総理が何とかしてくれます」

「それで何とかなる物なのだろうか……確かに一国の長が声明を表せば一時的に騒ぎは収まるだろうが……本当にいいのだろうか?」

「パラセトラ対策本部の方針は自己防衛……つまりどこの国がいち早く人型兵器を実用化してもそれは自分達の手柄だから好きにしてもいいって事です。だから、現時点でこの計画に参加している三ヶ国で情報を共有して、少しでも人型兵器のノウハウを構築した後、他の国でライセンス生産なり輸入するなりして技術を提供すればいいのさ」

「しかし、それでは中国や韓国は収まらんぞ。どうするつもりだ?」

「技術提供は無し。あんな奴らにこれ以上俺達が血反吐を吐いて作り上げた技術をくれてやる筋合いはないですよ」

「はぁ……その辺りは外交官になんとかしてもらうか」


今の情勢、いちいちあの二国に付き合っていたらキリがない。他の国も二国の過剰な日本いびりに呆れているのが現状だ。

それから細かい話を少し詰めながら、約束の一時間が過ぎた。永山は再びエクスレイア関連の資料を手に持って、部屋を後にしようとする。


「博士、本当にあの少年はこの話を受けますか?」

「どうですかね。ですが、俺の勘は話を引き受けると言っているので期待していてください」

「私は受けてくれない方が気が楽だがな」


部屋を出て行き、再び尚人がいる部屋に入ると手を組んでじっと待っている尚人の姿があった。その顔はどうやら覚悟を決めたように引き締まった顔をしていた。


「……で、どうするか決めたか?」

「俺は……この話を受けます」

「ほぉ、今の生活に未練はないのか?」

「ありまくりです。ですが、俺一人の犠牲で大切な人や仲間、日本、果ては世界が助かるのなら、俺は自分を殺します」


立派なことをほざいているが組んでいる手は震えており、先ほど引き締まって見えた顔はこれから待っている生活に恐怖しているようにも見えた。目を見てみると、今にもこぼれそうなほど涙を浮かべている。

永山はそれを見てにやつきそうになるが、自制して言葉を続ける。


「……本当にいいんだな。この先、もしもエクスレイアが実用化されてもお前の名前は一切挙げられることはない。そして用済みとして殺される運命が待っているかも知れない。それでも構わないんだな?」

「構いません!」

「……ぷっ、バ~ハハハハハハッ!?」


あまりに生真面目な返事に思わず吹き出してしまう。その様子にポカンと状況を把握できずに見るだけの尚人。端から見たらその顔は非常に滑稽だろう。

ひとしきり大笑いして落ち着いた後、目尻に浮かんだ涙を拭いながら永山は説明を始める。


「最初に謝っておく。さっき言った戸籍の抹消とか用済みになったら消されるとか、そういう話は一切無い」

「へっ?」

「俺達は自衛隊だぞ? 非常時じゃあるまいし、そんな非人道的な事をすると思うか? あくまで覚悟を聞いたまでだよ」

「……はぁぁぁぁぁ」


よほど緊張していたのか、盛大にため息をついて尚人はへたり込む。その様子にまた笑いがこみ上げてきそうになるがそこはグッと堪えて説明を続けていく。


「話を受けるのなら、監視付きになるが今までと同じ生活を送ってもらって構わない。ただしエクスレイアのことはあまり口にするなよ。ま、言ったところで信じてもらえないだろうけどな」

「でも極秘事項なんですよね?」

「そうだ。だが、たった一人の人間があのロボットに乗ったって言ったところで誰が信じる? 行き着く先は錯綜する情報の一つとして数えられるだけだ」


よく考えてみればそうだ。たかが一人極秘事項を大勢の前やネットにぶちまけたところで百人中信じるのは一人いていい方だろう。細かくすればもっと確率は下がる。真実にたどり着けるのは天才的に読みが効く奴だけだ。

だから、建前上監視を付けて睨みを効かすのだと尚人は自然と悟る。


「まぁこれはどうでもいい。話を受ける以上、聞いておきたいことがやまほどある。まずは……先ほども聞いたがエクスレイアに乗ってどうだった?」

「……今思うと、すごかったの一言です。でも、どこかで乗ったことがあるような違和感がありました」

「それはそうだろう。エクスレイアのコックピットは稼働戦士ギャンダム戦場の絆の筐体を参考にしているからな」

「えぇ!?」

「既存のお遊びレベルの物であれだけは実用に耐えられるだけの設計余裕と発展性があったからな。ゲーム会社の開発者はまさかこんな風に筐体が利用されるなんて夢にも思うまい」

「だから最初乗り込んだ時に乗ったことがあるような既視感を感じたんだ……」

「他には? 搭載AIについてとか無いか?」

「そう言えば……内部メカに損傷が出たのに警告してこなかったですね」

「やっぱAIはまだまだ発展途上だな。開発担当の奴に言っておくか」


他にも色々細かいことを聞かれたり、紙に書かされたりした。使っていた武装の感想や機動性に関する事、モニター越しに見たパラセトラについてなど様々のことを聞き出される。

しばらくそうしていると永山がおもむろにテレビを付けた。


「どうしたんですか?」

「いや、そろそろ総理が声明発表するのさ。エクスレイアの所有表明と人型兵器開発に成功したことをな」


テレビに映っているのは、どこかの会見会場のようだ。しばらくすると現内閣総理大臣である垣内辰哉が出てきた。


「……国民の皆様こんにちは。世界は今、パラセトラという種族不明の生命体に我々の平和が脅かされています。三日前にも我が国の長屋でパラセトラが出現し、我々の生活に大きな打撃を受けました。しかし、安心してください。我が国はパラセトラに対抗するため、ついに世界初の大型人型ロボットを開発することに成功しました。皆さんもご存じでしょう……先日の長屋襲撃で大活躍したあのロボットが我が国で開発した物なのです」


そこから色々なことを話していく総理の後ろにあるスクリーンには三日前の襲撃でパラセトラを斬り倒しているエクスレイアの写真が映し出される。その瞬間、凄まじい数のフラッシュが映像を取ろうと炊かれる。


「パラセトラに脅かされる国は私達の隣人と私は考えています。我々は同胞に協力を惜しみません。もしこの人型ロボットを作りたいと考えるのなら、一緒に手を取り、共に人類の未来を切り開きましょう。以上で私の話は終わります」


総理が退席すると記者が様々な質問を総理に投げかけるが、一切取り合わずに壇上から降りていく。代わりに防衛大臣が壇上に上がって記者の質問に答えていく。そこでテレビの電源が落とされて、尚人は再び永山の方に向き直った。


「まぁこういう感じだ。技術提供すると言っているが提供する国は選ぶし、兵器開発は日本の憲法に違反していると批判されるのは避けられない。だが、それでも我々は世界と対等に渡り合うために批判されることを覚悟でこの計画に参加したんだ」

「……」

「君はその計画に巻き込まれた形で参加することになる。もう一度聞く……本当にエクスレイアに乗るんだな」

「さっき覚悟を決めました。今更この覚悟を取り下げるなんてできません」


その言葉を聞いて若いと思いながらも永山はこの少年をパイロットにすることを決意した。


「わかった。今からお前はエクスレイアのテストパイロットだ。エクスレイアのマニュアルを渡しておく」


机の上に置かれていた資料を尚人に渡し、正真正銘エクスレイアのパイロットに選んだことを証明する。


「それで今後の予定なのだが、基本的にいつもの生活をしてもらって構わない。だが、できるなら守山駐屯地に顔を出して欲しい。シュミレータもあるし、実機にも触れるからな」

「わかりました。時間が空いたら、行くようにします」

「後日パスカードを渡すからそれで通ってくれ。後、アメリカの方からエクスレイア用の輸送機が届くまでは国内に出現したパラセトラを相手にテストをしていくが、輸送機が来たらアジア圏内を中心に動いていくことになる。そこの所は覚悟しておいてくれ」

「はい」

「じゃあ、とりあえず釈放と言うことで……下まで見送りさせてもらう」


とりあえず伝えたいことを伝えたので、永山は尚人を釈放することにした。普通なら有り得ないことなのだが、事が事なので手続き無しで解放するしかない。廊下を通る際、永山が待機していた自衛官にその事を伝えると渋面を作られながらも許可を貰えた。

エレベーターで下に降りる際、眼前に広がる長屋の街を尚人は愕然とする。

崩れた建物は多く、道路も補修されないまま剥き出しになっている。中でも二年前に再建設された大中日ビルは半分以上崩れ落ちていた。あそこは確かクイーン級がいた所……

他にも昨日倒したパラセトラの死骸に撤去しようと作業員と重機が群がっている。わずか一日で長屋はここまでのダメージを受けたのだ。

無意識に脱力して膝を付く尚人であるが、永山は街に視線を向けたまま尚人に話しかける。


「これが今の長屋だ。ナイト級に建物が破壊され、ポーン級に喰われた死体の撤去も進んでいない。だが、それでも長屋に住む人は力強く生きている」


確かに駅周辺の道には、いつもと変わらず人が溢れて活気づいている。こんな事があった後でもみんな自分の生活を維持しようと努力している。

それなのに街を守った自分が落ち込んでいたら意味がない。それを理解した尚人は再び立ち上がって、長屋の街を見下ろす。

エレベーターはようやく一階に着き、ロビーで待機している自衛官の多さに驚きながらも外に出ることができた。


「じゃあ、近い内にまた会う事になるだろうが……またな」

「お世話になりました。まさかマリオットアソシアホテルのスイートにいるなんて思ってもいませんでした」

「なに……長屋を救った英雄をビジネスホテルで拘束なんて出来ねぇよ。パスカードは郵送するから受け取りだけはしっかりな」

「わかりました。それでは失礼します」


一礼をして去る尚人の背中を見送り、永山は再びホテルの中に戻って自衛官達が待つ部屋に入る。待っていた自衛官はどこかに連絡を取っているみたいでしかもその話の内容は芳しくない物なのか、先ほどと変わらず渋面を作っている。


「……ああ、そうだ。よろしく頼む。さっき言った民間人の監視を開始してくれ。頼むぞ」

「とりあえずあの子は引き受けてくれました。後で守山駐屯地へのパスカードと認識票の発行をお願いします」

「はぁ……民間人に頼らなければならない我々の力不足が情けないよ」

「仕方がないですよ。ハードの方は一からですけど、操縦に関してはすでにある程度できている物を流用したんですから、そちらの方はノウハウを持っている奴にに頼った方が効率的ですよ」

「それはわかる。だがな……」

「賽は投げられました。なら、どんな目が出たとしても我々はそれを受け入れるだけです」


先ほども尚人に言ったが、これから日本が世界と渡り合うためには技術の集大成が必要となって来る。それが人型ロボットであり、エクスレイアなのだ。

主開発国であるドイツ、アメリカ、フランスには絶対に負けられない。常に一歩先を行き、先手を取り続けなければならない。

もはや昔のように自動車や家電製品で世界と渡り合うには、あまりにも規模が大きくなりすぎた。だからこそ、現内閣はこの計画に参加し、日本ではまだ未開拓の市場である兵器で勝負していかなければならない。幸いにも今はパラセトラという人類共通の敵がいるため、平時ならマスコミなどに叩かれてもおかしくないが今回はそれほど騒がれていないし、世論もあまり反論してこない。

永山は自衛官と細かいことを話しながら、そう決意するのであった。

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