2部より 第4幕「島の見える風景」
僕は、僅かに目を覚ました。とてもくらい部屋でどこかは、わからない。体が、異様に重い。前に学校でひたすら長い距離を走らされたよりも重いし痛い。僕は、その疲れのせいでまた眠ってしまった。
「うっ!」
それからどれくらいの時間が経ったのかわからない。ただペンダントがやけに重くてまた目が覚めた。
「いっつつ、夢を見た」
体を起こすと全身に痛みが、走る。ペンダントが、薄暗く赤く光るので体に何らかの異常だ。
「魔法を使いすぎた」
昔どこかの魔術士が強力な魔法の使い、体中が「痛い痛い」と叫びながら死んだそうだ。ここが、死後の世界かもしれない。
「いや僕は、大丈夫」
声が、虚しくこだまする。体に痛みがあることは、まだ生きている。しかし、暗過ぎる。目の前にあるであろう自分の手すら見えない。指を顔に付けるが、別に眼帯や包帯をつけていない。
「ここは、どこだ?」
魔石を使って辺りを照らそうかと思ったが、今の自分の体力を考えるとやめた。腕にしてある時計をいじってみた。時計が、明るく光った。
「5時57分・・・早っ!」
目が覚めたらもう次の日だ。
さっきから息苦しい。それ以前に少し痛い。筋肉痛とは、別の痛さだ。時計の光で辺りが、照らされる。辺り一面金属で出来ている。港には、木の船しかなかったから別の船だろう。
「そうだとしても暗過ぎる」
天井も見えなければ、壁も見えない。いつまで移動できない。こんなに暗いところにいたら気がおかしくなりそうだ。目をつむったが、人の声など聞こえない。手探りで壁を目指し、壁のところに耳を付けて耳をすました。サーッ、水の流れる音がする。
「我に道しるべとなるべく光をともせ」
疲れている体にむちを打つ形だが仕方がない。
「腕時計のあとは、携帯ライトが必要なのかも知れないな」
お金と愛・・・物欲は、いくらあっても足りない。そんなことをお兄さんが、言っていたことを思い出した。確かにそうだ、ほしいものは、たくさんありすぎる。だけど本当に必要かは、また別だ。辺りは、白い部屋だ。前の夢で見た病院に近い。机が、ありそこに包帯やら消毒液が、かなりの埃を被ってある。
僕は、もとは足のあったベッドに寝かされたようだ。だももう足はなく普通の布団のようだ。立ち上がり布団をたたむと辺りが、白く視界が悪くなった。思わず窓を開けようとしたが窓がない。僕は、咳込みながら部屋を後にした。目の前に階段がある。下を除くとそこは、一面海水で近づくことも出来ない。
僕は、辺りを周り散策した。ほとんどの部屋は、明かりがない。外の光を入れる窓もない。ここは、どこなんだ?全くわからない謎だ。
「どうなってんだー」
思わずつぶやくが、僕の声が辺りに反響した。何の反応もない。誰もいない。
ほとんどの部屋にしっかり鍵がかけられていて入れないし、人一人いない。時計も午前7時を指しているにも関わらず真っ暗だ。まだ太陽が出ていないわけではない。
僕は、自力ではなく誰かにここに連れて来れた。なぜなら溺れてからここまで気絶していたのだからわからない。だが誰なんだ。魔物に連れられたのか?ならもう食われてる。
非常食か??
ザッアヒタ、なんか音がした。水からなにかでてきた音だ。僕は、音のするほうへ向かった。ヒタヒタ、なんかはいずる音が聞こえる。ピッ、急に辺りが、明るくなった。通路の蛍光灯が、光出した。僕は、てっきり電気が、なくつかないと思って操作してなかった。
カチャガタンッ、扉が開いて閉じる音がする。僕は、そのはいずる音が何なのかわからないので出来るだけ音を立たないようにした。その通路の階段を下りたところからだ。
「どこ−?リュウキ−」
女性の声がした。名前を呼んでいるのだが、リュウキは僕の名前ではない。リュウキは、僕のお父さんの名前だ。
「リュウキ−隠れないで出て来てよ−」
僕は、その女性が、気になり階段を降りて扉を少しあけて覗こうとした。扉を開けよとしたらいきよいよく開いた。中からも開けようとしたらしい。
「あっリュウキ−もう起きてたんだ」
そこには、僕より腰ぐらいの女性がいた。なぜかTシャツを着ている。
「あ、足が」
その女性には、人のような足はなかった。だけど魚いや、イルカのような尾ビレが、あった。
「会いたかったよ。リュウキ−もう会えないと思ったよ−」
その女性は、急に抱き着いた。
「に、人魚」
僕は、腰が抜けた。その時、この前に助けてくれたことに御礼をいいそこねた。
「あっええと」
どうやらあの祠からここまで連れてこられたらしい。だが何故この人魚が、僕の顔を見るなりお父さんの名前を読んだのかわからない。
「今とって来たから食べよう。火がないから刺身だけど大丈夫だよね」
人魚の手には、3匹の魚が跳ねている。まさに今そこでとって来た感じだ。
「刺身か・・・」
「そう刺身、じゃ軽く鱗を取ってくるね」
そういうと体をばたつかせながら別の部屋に入った。
「出来れば御飯もほしいな」とつぶやいた。が、もう聞こえない。
人魚は、見るからに魔物に見える。だけど僕を食べる気ではないようなので一安心だ。
さて、どうやって僕が、リュウキではないと誤解をとくかだ。
「出来たよ−」
古いさらにほぼ骨しか残っていない、さっきの魚の残骸が出て来た。
「・・・・・・」
「リュウキは、骨嫌いだから小さい骨を全部取ってあげたよ」
ここまで来るとなんか怨みがあるとしか思えない。
「いただきます」
「召し上がれ」
明らかに量が、少ない。これだけならあと10匹近くほしい。もしくは、自分でさばいたほうがたくさん食べれたかもしれない。
「昨日助けてくれてありがとうございます」
昨日のことを御礼をいうのを忘れていた。
「なによ急にかしこまっちゃて、まぁあのまま私が、戻らなければリュウキは、どざえもんね」
「どざえもん?」
「溺れてて死んだ死体のことよ」
人魚は、笑いながら答えた。
「昨日あそこで何してたの?」
「地中ドーム?」
「うん」
「月見てた」
「月?」
そういえば、あのドームから見えた月は綺麗だった。
「あそこの月は、一番綺麗だよ。そしたら剣に指された魔物が来て、そのあとたくさんの魔物とあなたが来たから驚いて逃げちゃたよ」
あの魚人が魔物ならおまえは、何だ。と思った。
「そのあと大きな揺れがあって戻ってみたら光る石が、見えて消えたと思ったらあなたがいたから私の家に連れて帰ったのよ」
「ありがとうございます。ところでここは?」
「昔の潜水艦という船かれこれ300年以上前に廃られたみたい。でも動力が動いているから現役よ」
「・・・・300年」
「私は、あまり地上にいられないからこの船の設備は、あまり使ってないけどね」
「そうなんだ」
「ところでリュウキは、ここに何しにきたの?」
「あっえと」
僕は、どこから話そうか迷った。
「僕は、リュウキじゃないよ」
「うそよ。剣も同じのものだし顔だって見間違いないよ。あっもしかして記憶を失った?」
僕は、前の村みたいに名前を忘れてない。
「リュウキは、僕の父さんの名前です。そして、村を出ていくとき父さんからこのナイフをもらいました」
「じゃもしかしてリュウキの子?」
「あなたの言うリュウキと父が同一人物かわかりませんけど」
「まぁ30年近くたっているからそりゃ年取って顔ぐらい変わるよね・・・・・」
「30年」
この人魚は、今何歳か気になったが一様女性なのでいうのをやめた。
「あの野郎、すぐ戻るっていつまで私を待たせやがる」
人魚が暴走した。
「多分いつか戻ってくると思いますよ」
僕は、人魚を取り押さえたが人魚の握力で中に飛んだ。I can fly
「ぐわっ」
「あっ大丈夫?」
ようやく落ち着いた。そのリュウキも人魚から逃げた理由がわかった。
その頃、コクハは、昨日の崩れたドームの上で村人による救助活動を見守った。自分は、なにも出来ないで見ているだけだが、村人達は、自分達の重みで崩れて潰したのでいくらか責任は、あるようだ。
「カー」
やっと1割程度除去できたようだ。でも作業はまだまだだ。みんな生きてなくてもせめて、骨だけでも助けようと思っている気持ちだ。
コクハは、内心生きているとは思えない。だけど自分がみんなを僕を生き埋めにした。後悔で謝れるなら謝りたい。死んでも死に切れない。後悔で一杯だ。
「カー」
もはやため息しかでない。
「どうか生きて帰ってくれカー」
それでもどうしても生きていることを願ってしまう。
「カー」
コクハは、一度ホテルに戻ることにした。問題は、まだある、旅費だ。こんなにのばすのだからそろそろ宿泊費を払わないとまずい。だけどコクハの提案で有り金は、自分に持つようにいってしまった。つまりお金がない。
「早く戻ってくるカー」
コクハは、借りているベッドで寝た。
その頃、僕は、コクハの心配をよそに人魚と世間話をしていた。というよりリュウキと人魚の旅の話、武勇伝に近いものだ。巨人を倒したとか、食料不足の村に漁を教えて、救ったとかだ。そして、いくつかお父さんが、話したことに類似するものがあった。
だからといってお父さん=リュウキと断定できない。それ以前にリュウキが、結婚したというと暴走して殺されるかもしれない。
−これからどうしよう−
それが今の本音だ。
「あの−」
「どうしたの?」
「実は、町に仲間が待ってるので多分心配しているからそろそろ町に帰りたくて」
「帰るのは、自由だけどここ島まで結構離れてるわよ」
「どれくらい?」
「5、6キロかな多分」
「・・・・・・」
全く泳げないわけではないが、1キロ以上泳いだことがない。水着なら出来るかもしれないけど服を来て装備がある。
「あとここ水深40Mくらいあるから簡単には、無理かもね」
「潜水道具とかありませんか?」
「ないね。ここの昔いた船員が脱出するときに全部使ったみたい」
使ったことがない人が使える分けないけどと付け加えた。
「僕は、ここにどうやって来たの?」
「私が、酸素を口渡しで調整しながらね」
普通ならおいしい話かもしれないが、相手が魔物なのであまり喜べない。
「じゃここに来た要領で僕を」
「嫌だ。あなたをここに運ぶのにどれだけ大変だったかわかる?」
「いや助けてくれて感謝しているのですがいつまでもここに」
「じゃ感謝の気持ちを見せてほしいな」
「何かしろと」
「そういうこと」
人魚は、笑顔を見せた。御礼を言いに来るんじゃなかったと後悔した。すぐにでもここの村を出るべきだったのか・・・・・
「何をすればいいのですか?」
「よく聞いてくれた。さすがにあなたも私の旅話もあきたでしょ」
「いやそんなつもりではないんですが・・・」
「うそ顔に出てる。リュウキそっくり嘘が下手」
「・・・・・」
正直、旅話は、参考になるのもあるが会話のほとんどがリュウキとののろけ話で飽きて来た。
「簡単な話よ。私と一緒に鬼ヶ島へ鬼退治をしてほしいの」
「鬼ですか・・・」
なんか前で見た夢ににている。
「鬼といっても実は、蟻なんだけどね」
「蟻?」
「そうだけどサイズが大きい上に泳げて、大きくても60cmくらいかな」
人魚は、手で大きさを見せた。あきらかに1Mを越えているが・・・・
「なんなんですか?蟻に近い新種ですか?」
「蟻と人の配合種だけど知能が低く幼児ぐらいしかない。だけど本能に近い動きをするの」
「強いのですか?」
「強いという定義が、わからないから一概には言えないけど昨日あなたが倒した人の出来損ないより弱いかもしれないね」
「魚人が人の出来損ないなら、人魚のおまえは、なんだ。」と言いたくなったがいうのをやめた。
「だけど適応力と繁殖力が高いね。もし陸に出たらあっという間に島は、蟻の国になるかもね」
「そんな魔物が、いたなんて」
「でも大丈夫よ。私がクラーケンにねこそぎ食べるように仕向けてるもん」
「じゃ僕が、一昨日に会ったのは・・・」
「あーあんたが釣りをしていた底に蟻の巣があるのよ」
「知らなかった」
「当然よ。私が、根絶やしにしているからね」
つまりあの村が、平和なのはこの人魚のおかげかな?
「でもね。奴らの女王蟻は、地下奥でなかなか近づけないのよね」
「蟻の巣ごと壊せないんですか?」
「少しづつは、壊してるけど案外頑丈でね。巣を一カ所に出来たけどどんどん地下深く掘るもんだからなかなかね」
「どれくらい続けてるんですか?」
「そうねかれこれ30年と半年ぐらいかな。リュウキと別れてからだし」
「さ、30年、リュウキと一緒に倒さなかったんですか?」
さっきの会話にもリュウキが、いくつかの蟻の巣を壊したと聞いた。
「生き別れの姉がこの近くにいるかもしれないから探すって、すぐに戻るからて言い残してね」
「それからリュウキは、」
人魚の目付きが、変わった。
「あの野郎、自分の姉だから私から離れることを許したがいつになったら帰るんだ−−」
人魚は、また暴れ僕は、空を飛び地面につくと一面に花畑が広がった。
コクハは、悩んでいた。いくら、ホテルの人が気を使い。旅人が見つかるまで宿泊費を後にしていいといわれたが、もし見つかってもお金が足りるか不安になった。財布は、原型を留めているのか・・・
いや、それ以前に僕を探すことのほうが優先だ。何となく僕が、生きている気配は感じるのだが口ではあまり説明できない。だが漁師達が、いつまでも探してもらうわけにはいかない。それになにか御礼が、必要だ。御礼をするには、お金が必要だ。僕の両親を呼ぶのが早いがかなり心配をさせるだろう。僕のお母さんに話したら倒れて寝込むかもしれない。
「よし、しかたない。行くか」
コクハは、森へ飛び立った。
「起きて−−」
僕は、人魚に力加減せずに殴られながら目を覚ました。目を覚ましたほうが、体力が低いことが多い気がした。
「痛い」
「よかった」
普通照れるが、限度を考えないで抱き着かれたので苦しく、まるでプロレスの技だ。
「くっ苦しい」
そのあと、顔がひどく熱い。かなり熱を持っている。鏡を見て自分だとわかるだろうか不安になった。
とりあえずこの人魚の前でこれ以上リュウキのことを言わないほうが無難だ。さもないとこの人魚に殺されるかもしれない。
「さぁ君も起きたみたいだし、行きますか鬼ヶ島」
「はい」
これ以上ここにいたくないと切実に思った。そういえば人魚の名前を聞いてないことに気がついた。
「名前なんていうのですか?」
「人食い蟻」
「いえあなたの」
「私の?」
僕は、首を縦に降った。
「コード、F−3、人魚形雌プロトタイプ、昔はね。今名前は、桜。よろしくね」
桜、そういえばどこかで聞いたことがあるような・・・
「桜・・・いい名前ですね」
「そう思う。リュウキが付けてくれたんだよ。桜が舞うところで」
どうでもいい話だが、リュウキと人魚の桜は、春にあったらしい。
「僕の名前は」
「いいよ。言わなくて君名前を覚える気さらさらないから」
「えっ」
「私もね。もう250年くらい生きてるけどいろいろ覚えんのめんどくさいから。だから言わなくていいよ」
少しショックだが、250年も生きているなら仕方がないかなと思えた。
「わかった」
「じゃ行くわよ」
そういうと人魚船底の穴から出ていった。僕は、海深く泳いだことがないから追うか迷った。
「僕は・・・」
すぐに桜は、戻って来た。
「すぐに行くわよ」
桜は、僕の手を掴むなり外に連れられた。物凄い水圧の中を連れられた。本来ならダイバーでさえ呼吸を調節しながら泳ぐといわれるが、桜は、僕にそんなことをお構いなしで泳いだ。当然、僕は、息が続かなく気絶した。あまりからだに良くないことはわかる。だけどこれを拒否する権利もない。奴隷扱いだ。そんなことを考えながら僕は、蟻の巣に連れられた。
「ゴヘッゴヘッ」
席をしながら目が覚めた。正確には、飲んだ海水を桜によって強制的はかされた。辺りは、くらいだけど僅かに壁が光って辺りが見える。辺りに鉄のニオイが鼻をつく。
「やっと起きた。海水を飲んだら意識を失うのわからない?」
「ゴヘッゴヘッ、息が続かないんでゴヘッもう少しゆっくり来れないんですか?」
話すことが辛い状態だ。だけど桜が泳ぐ速度は、かなり早く水圧に負けて飲み込んだ。
「呆れるわ。もしゆっくり泳いだらまだあんたは、海の中よ」
気を使ったみたいが僕にとってどちらもあまりからだに良くない。
−逃げたい−
「それにしてもここの周りの鉄みたいなニオイはなんですか?」
「蟻の血よ」
「へっ・・・光よ我を導け」
辺りを照らすと赤で染めている。
「へぇあなたは、魔法を使えるのね。リュウキと大違い」
「リュウキは、使えないのですか?」
「あなたは、リュウキを呼び捨てしてはいけない。ちゃんと『さん』を使わないと」
「・・はい」
僕は、小声で答えた。
「南の人だから魔法は、使えない。だけど格闘が得くてだけどあなたと同じ刀を腰にさしていたよ」
「そうですか」
「そう。で、この辺りは、門兵の蟻を倒したからあなたは、奥にいる女王蟻をさっさと倒して来て」
「はい」
僕に拒否件はない。
「私は、外で暴れるから出来るだけ子蟻を集めるね」
「桜さんは、私と来ないのですか?」
「私は、あなたと違って尾ビレよ。もし行くことが、出来たらあなたに頼まないで自分で行くは」
「・・・・・」
僕が、見える範囲まで蟻の死骸が続く。はいずりながら追い掛けて殺したに違いない。つまり一人でも十分に倒せるようだ。だけど怖くて言える訳無い。
「あと魔法は、禁止ね」
「えっ!」
「ここは、壁に生えている光苔が光を出して、足元や蟻に寄生している植物が酸素を作ってるの細かいことは、学校で習ったでしょ」
足元に草が生えていた。
「えェ習いました」
「それであなたが、火を使ったりしたら光が、消えて草々が光合成出来なくなって窒息するから気をつけてね」
「わかりました。行ってきます」
逝ってきます。の間違いかもしれないと思った。
「GO!GO!レッツゴ−負けるな!! GO!GO!レッツゴ−負けるな!! GO!GO!レッツゴ−負けるな!!」
桜の応援を受けながら僕は、奥に進む。途中水になにか飛び込む音がして振り返るともうそこに桜の姿はもうない。どうやってここから抜け出すか考える必要がありそうだ。
多分ここの洞窟は、この町にある中で一番歩きやすいかもしれない。今までは、暗く自分で明かりを点ける必要があるが、周りの光ゴケのおかげでそんな心配ない。思わずその光ゴケを手に取った。ちぎるとたちまち引き抜いた辺りが暗くなり出した。
「死んだのか?」
5、6Mぐらいの光ゴケが消えた。よく見ると一斉に枯れている。桜の気をつけて戦えという意味が要約理解できた。
「つまりあまり壁に傷つけないように戦えか・・・言われて初めてそれが難しいことに気がつく」
誰かが、そんなことを言っていたかな?
カサカサ、カサカサ、足音だ。恐らく桜の言う最強の蟻、とりあえず女王を倒せばすぐに終わる。
「その前に女王は、どこにいるんだか?」
遠ざかろうとしていた蟻の足音が、急に近づき出した。どうやら蟻の耳は、かなりいいらしい。
「私語は、慎んでか」
小声で自分に言い聞かせながら出合い頭に目の前の蟻に向かってナイフを下ろした。ナイフは、蟻の頭と胴体の間にはいりたやすく切れた。
「ギャ」
古く錆びた歯車を久々に動かしたような泣き声を出した。
「ッ!」
カサカサ、カサカサ、カサカサ、道のあちらこちらから一斉に蟻の足音がした。どうやら仲間を呼ばれたらしい。僕は、恐らくすべてを相手に出来ないのでその場から足音を立てないように離れた。
その頃、人魚の桜は、ひたすら岩を巣に向かって投げていた。拾っては、投げて拾っては投げてその繰り返しで、稀に巣の周りが、落盤する。そうすると蟻達が、怒って一斉に出てくる。ちなみに後ろには、お腹を空かせた蟻好きのクラーケンが待ち構えている。今まで毎日繰り返して来た。何もしないよりは、かなり成果を残したが、浅く広く巣を作る彼等に取って隣の小さな巣が壊れただけに過ぎない。
あとさっきの旅人とは、離れているところで、巣を壊しているから旅人を生き埋めにする心配はない。
「さて、中は、どうかしら?」
ただ問題は、お互いに何をしているか全くわからないことである。
ガザザザッ、巣の一部が、壊されて蟻達が一斉にでてきた。毎日しているはずなのに知能が低く学習力ナシ、つまり彼等は本能が思うがままの行為だ。
「さぁ、行きなさい。大きなイカさん」
桜の合図より先にクラーケンは、蟻を食べ始めた。クラーケンは、岩が崩れるなり食料が、出てくるのがわかるので我先に食べ始める。
「みなさん飢えていること」
蟻達が、いつものように巣が壊されてパニックに陥る中、僕も慌てていた。蟻達に包囲される寸前に大きな揺れが起きた。恐らく地核変動が起きたようだ(桜が起こしているとは、思うわけがない)。すぐさま蟻達は、地核変動がするほうへ向かい辺りが静まりかえった。あの蟻達を相手にしなくてもすむ。
「助かった」
それから僕は、初めて来て法則も何もないただ編み目に作られた巣を延々と女王のいるところを探した。
気がついたらどこから来たのかわからなくなった。今までひたすらに歩いて来てすべての道が同じ作りで・・・つまり僕は、道を迷ったようだ。どの辺に女王がいるかでもわかればそこに向かうのだが・・・
ガサッガサッ、なにか作業がしている音がする。そっと覗くと崩れた道を蟻達がせっせっと直している。恐らくさっき崩れて埋まっている場所を直しているみたいだ。
僕は、見つからないように壁に寄り添って覗いた。だが壁に触れると光が急に消えた。触れたところが、次々に死んでいる。次第に暗くなり蟻達がこちらを見た。だが、壁から離れて蟻に見つかった。
「ギィ・ギィ」
?、蟻達は、すぐに近づかないでなにか音をだし始めた。
「ギィギィ・ギィ」
僅かに辺りが、揺れ出した。それと、カサカサと蟻の足音も
「仲間を呼ぶきか」
僕は、来た道を走って引き換えした。音を出している蟻達は、追い掛けないがまわりから足音が一斉に近づいている。
だが、それは、桜が巣を壊し少なくなった兵士の蟻の増援が、たまたま音で集まっていることは、その時の僕は知らなかった。
目の前に蟻だ。僕は、腰にあるナイフに手を延ばした。だが、後ろからぞろぞろ見えたので戦いたくないから来た道を引き返した。
それから蟻の足音に気を取られて結局さっき巣を直している蟻のところまで戻ったとこれで囲まれた。
流石にナイフを抜いて、バサッバサッと倒していく自信がない。蟻達もすぐには、襲ってこない。もし、僕が、この前見た夢に出てくるリュウキなら魔法で辺りいちめんを火と血の海に変えたかかもしれないが・・・
なんて考えている場合では、ない。通路を前後を見たことがない。巨大な蟻に囲まれて少しでも油断すれば一斉に襲われるだろう。それに、桜から魔法を使うなといわれたばかりだ。
ドンッ・・・・・ドンッ・・・・・・ドンッ、静寂を断ち切るかのように等間隔で揺れた。もちろんこの揺れの原因は、桜が、脆い地盤目掛けて岩を投げて巣を壊しているのだが、どうせ一人巣の中でのんびりしているのに違いない。と思い込んでいる僕は、そう思わない。きっと、がたいのでかい蟻が、近づいているんのかと考えていた。
謝って命だけでも助けられないのか考え出した。だが、いろいろ考えてまともな案が、浮かばない。出来るのなら僕の周りだけ巣が壊れて助からないのか・・・だけどその後どうしよう・・・ガンッ
「えっ!」
巣の壊れたところから僕に向かって一本のヒビが走った。ガンッ、
「うわっ!」
足場が、壊れた。僕は、下に落ちそれと同時に天井も崩れた。
「あっ・・・」
巣が崩れて一番驚いたのは、桜のほうだった。てっきりまた一部が崩れるかと思ったが辺り一面に亀裂が入り、あっという間に砂煙で前が見えなくなってしまった。桜は、エラ呼吸をするのだが、流石に砂の中では出来ない。海面まで浮かび顔を出した。
「あーあ、こりゃひどい」
いつもなら海底まで見えるのだが、巣の一斉陥没で茶色く濁って全く見えない。いずれは、巣を壊すことを繰り返していれば今みたいに起きることは、わかっていた。何せあちらこちら壊していて今回がその中心に当たるとここだからだ。だが
「大丈夫かしらあの旅人さん」
だがそれと、クラーケンも心配した。
「恐らく一斉に蟻が出るからどちらもいてほしんだけどね」
空は、青いが海は、黒かった。そして、視界には、島が見える。
次回「僕のたび」
ただ僕は、生きるために蟻を殺し、
ただ桜は、リュウキとの約束のために蟻を殺し、
そして、僕はついに蟻の女王に対峙する。
時同じくして、コクハは、宿にいた・・・
第5幕「太陽のない世界」
それではまた




