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04話_パンが無ければお米を食べればいいじゃない

 「そろそろこの街を出ようかしらねぇ。」


 「ん、そうか? まぁ俺はいつでも構わないけどな。」


 星の巨人を仰ぎ見ながら過ごして10日余り、ミレイが旅の再開を提案した。元々この街に滞在していたのは素性の怪しい美術館へ作品を出展する為であったし、それ以上に留まる理由はない。

 エルアはこの街にいる間、日雇いバイトをして旅の資金を稼いでいた。元々資金に余裕はあったのだが、いつまで続くかわからない旅なので稼げる時に少しでも稼いでおこうと思っていたのだ。それもミレイが美術館への出品でかなり稼いだので心配する必要はないとは言われてはいるが、あまり頼り切りになるつもりもなかった。


 「そうと決まれば早速準備しましょうかしらね。でもその前にそこのお店で飲み物でも買って行きましょう。たまにはヴァンパイアらしくオレンジジュースでも飲もうかしら?」


 「そこはせめてトマトジュースだろ。」


 2人がジュースを買って街を歩いていると様々な制服を目にする。熱心な教徒がが多いこの街では何もしていない時でも制服を来ているのが自然である。そんな人々をミレイは冷めたような目で見つめている。


 「皆偶像崇拝御苦労様ねぇ。」


 「こんな所で滅多なこと言うんじゃねぇよ。宗教が多いとそんなこと言いたくなる気持ちもわからんでもないがな。だけど知の女神に関してはあながちそうとも言い切れねぇぞ。なんせあの6龍が存在を仄めかしているらしいからな。」


 この街で一番教徒が多いのは知の女神信仰であり、次いで多いのが星の巨人信仰である。嫌でも目に入ってくる程大きな信仰の対象があるというのに知の女神がこの街に限らず世界中で厚い信仰を集めているのは、今も生きて何処かにいるという確からしい噂が流れている為である。

 ちなみにエルアは無宗派である。


 「私としてはそんなことどうでもいいんだけれどね。神様に祈ってもご飯が落ちてくるわけじゃないし。それよりもあそこの人顔色が悪くないかしら?」


 ミレイが見た先には、確かの顔色の悪い男が歩いている。よく見ないとわからない程だが、足元がおぼつかない様子である。


 「ああ、確かにそうだな。何かを探しているようにも見えるけど、どうしたんだろう?」


 「困っていても神様は助けてくれないのねぇ。ホント、皆何を想って祈ってるのかしらね?」


 「だからここでそういう発言をするなって。あちこちに何らかの教徒がいるんだから説教食らっちまうかもしれないだろ?」


 エルアは男を再び見て、何か助けになれないかな、と思った。特に何か急ぎの用事があるわけでもないし、こういうのも旅の醍醐味なんじゃないかな、なんて考えていた。


 「あの、何かお困りですか?」


 エルアは男に声を掛けた。


 「え、えぇ。ちょっと探しものというか・・・。」


 男は力のない声で答える。


 「周りには人に説教たれるような連中が沢山いるのに誰も助けようとしないのねぇ。」


 「今はそういうこと言わなくていいから。それで、探しものとは?」


 「あの・・・ですね。パンを売ってる所を知りませんか?」


 「パン?」


 そういえば、とエルアは考える。この街に来てしばらく経つが、パンを食べた覚えはないな、と。さして気に留めていなかったから聞かれるまで気づかなかったが。


 「この街に来てからは見てませんねぇ。あまり売ってないのかな?」


 「あらあら、そんなことにも気づかなかったなんて困った子ねぇ。この街にパンを卸してた工場が最近になって魔物に襲われて操業中止に追い込まれたらしいのよ。もちろんこの街にも個人経営のパン屋さんはあるけど、売るほどの材料を仕入れるのが難しくなってるのよ。工場は材料を作ってる農家とこの街の間にあったわけだから魔物が恐いのね。結局パンを食べたければ自力でどうにかするしかないってことよ。」


 ミレイの説明に男は頭を抱えた。


 「あぁぁ、そういうことなのか・・・。最近外に出てないから全然気づかなかった。僕は・・・僕は一体どうすればいいんだぁ・・・。」


 「ちょっと、大丈夫ですか!?」


 落ち込んでうずくまる男をなだめながら、エルアはとりあえずゆっくりと話せる場所に移動していった。




 「いや、取り乱してしまって申し訳ないです。」


 とある食堂の一角に座って話を聞くことにした。男はカフと言い、作家をしているのだという。

 エルアは一体どんな事情があるのか興味津々であったが、ミレイは気にした様子もなく、ナイフとフォークを指先で回しながら注文した料理を食べている。エルアはそれを見て、なんだかんだで聞いているんだろうと思い何も言わない。


 「実は先月辺りに実家から大量のお米が送られてきたんですよ。」


 「お米が?」


 「ええ、それはもう山ほど。もともとパン派の自分ではあるんですが、こんなに送られてきちゃあさっさと食べないと減らないな、と思い毎日のように食べていたんですよ。そんなわけで食べても食べても減らないお米に飽き飽きしつつそれでも食べていたんですが、やはりパンが無性に食べたくなりましてねぇ。パンを買おうとしたんですがどこにも見つからないんです・・・。どういうことかはよくわからなかったんですが、ないと思うと余計に欲しくなっちゃって・・・、ああ、パンが食べたいパンが食べたいパンが食べたい・・・」


 「お、落ち着いて!?」


 「あぁ、すみません。でも一体どうすればいいのか・・・。」


 そこにミレイが肉を骨ごとバリバリ食べながら提案する。


 「そんなに食べたければ自分で作ればいいじゃない。出来るんなら、だけどね。材料ならちょっと街を出れば手に入るしね。」


 「えぇっ!? そうなんですか? でも僕はパンの作り方なんて知らないし・・・あの、もし知っていれば教えてもらえませんか? 材料集めならそんなに難しくなさそうだし、お礼もしますからよろしければ作ってもらうなんてことも出来ませんか?」


 その時、パアアアァァァン! と弾けるような音が響いた。その音の出処が、ミレイがカフをひっぱたいた音だと気づき、エルアは驚いた。カフはミレイにひっぱたかれるような事を言ったであろうか?


 「パン作りをナメんじゃないわよ! パンってのはねぇ、毎日大勢の職人さんが血と汗を流しながら命懸けで作っているものなのよ!? それを気楽に作れるように言うもんじゃないわよ!! あ、ちなみに今のパアアアァァァンって音は『パン』と掛けたのよ。わかったかしら?」


 「最後のは言わなくていいよ!! てか命懸けって一体どういうことだ?」


 「あらあら、アンタまでそんなこと言うのね。わかったわ、私が命懸けのパン作りというものを見せてあげようじゃないの。」


 ミレイはそう言うと、2人の腕を掴んだ。


 「え?」


 「お、おいちょっと!!」


 「さぁ、行くわよ。」


 そしてそのまま2人を引っ張りながら街中を駆けて行くのであった。





 「なぁ、こんな所に一体何の用なんだ?」


 ミレイに引っ張られて着いた先は森の中。道無き道をどんどん分け入って進んでいくミレイを、諦めた男2人が大人しく付いて行っている。


 「この森って結構凶暴な魔物が住んでるって話ですよ。悪いことは言わないから帰りましょうよぉ。毎年行方不明者だって出てるんですから・・・。」


 辺りをキョロキョロと見回しながら警戒した様子でカフは提案する。もっとも、この短い間でそんな提案無駄だろうとわかったからこそ付いて来ているのだが。


 「この森にはね、パンの材料を取りに来たのよ。小麦粉と水ね。本当はもっと色々必要なんだけど後は私の魔法でどうとでもなるわ。」


 「便利なんだな、魔法って。でもさ、水は何となくわかるとして何でこんな所で小麦粉なんだよ。第一両方共街で揃えればいいじゃないか。」


 「あらあら、ダメよそんなの。私が見せるって言ったんだから妥協なんてするわけないじゃない。」


 小麦粉と水以外は魔法で補うと言ったくせにとは思ったが、なら他の材料も集めようなんて言われたらたまらないので黙っておく。しかしこんな所でどうやって揃えるのだろうと、エルアは歩きながら考える。水は、森の中に泉か何かあればいいかな、とは思うがどうやって小麦粉を調達するのだろうか?


 「あ、やばい、やばいっすよ。」


 カフが何かに気づいたように小声で話しかけてきた。その指差す先を見ると、とても大きな熊が静かに歩いているのが見えた。


 「キングベアーですよ。あれに見つかったらひとたまりもありませんよ。今直ぐ、静かに戻りましょう。」


 普通の熊を太った運動不足のおっさんとするならば、キングベアーはボディビルダー並の貫禄がある。その巨体から繰り出される力はもとより運動能力も凄まじく、垂直跳びで30m程んで飛ぶ鳥を捕まえるなどという噂もあるほどである。もちろん、本気で攻撃されれば並の人間など為す術もない。


 「おいおいミレイ、これ以上行ったら本気で危ないぞ。お前は大丈夫かもしれないけど変に挑発することもないだろう?」


 「何言ってんのよ。これからアンタ達があれを倒すのよ。」


 その言葉に固まる2人をさておいて、ミレイは足元の石を拾いキングベアーに向かって投げつけた。


 ヒュッ


 ガツッ


 投げられた石はそれなりに痛かったのか、キングベアーが怒りの表情を向けエルア達を睨みつける。そしてその鋭い牙をむき出しにしながら、エルア達を見逃さないようにゆっくりと近づいてくる。


 「おいおいおいおいおいい!! 何やってんだよお前は!! この状況一体どうするつもり・・・っていねぇ!!?」


 エルアとカフがキングベアーの怒りの表情に視線を固定されている間にミレイはどこかへと行ってしまったようだ。


 「グルルルルルル・・・」


 キングベアーがゆっくりと近づいてくる。エルアとカフはその巨体と、むき出しと言っていいほどの力強さに押されて後ずさる。このまま何とか逃げられないかと思ったがそんな状況が長く続くはずもなく、キングベアーは2人に向かって駆け出した。


 「グルアアアァァァァァ!!!!」


 『うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』


 エルアとカフは逃げ出した。





 ズウゥゥゥ・・・ン・・・


 数分後、キングベアーは倒れ伏した。エルアの握っている剣からはキングベアーの血がポタリ、ポタリと滴り落ちている。


 「はぁ・・・はぁ・・・、な、何とかなったな。とっさにあんなことを思い浮かばなければ確実に殺されてたな・・・。」


 「ぜぇ・・・はぁ、す、凄いや。とっさにあんな機転を利かせる事ができるなんて。僕だったらどうにもならなかったよ、ホント。」


 「倒したみたいね。正直どうなるものかと思ったけどなかなかやるじゃないの。」


 ミレイがいつの間にか戻ってきてエルア達の側にいる。


 「ミレイてめぇ!! 今までどこ行ってやがった!?」


 「そ、そうだよ!! 何でこんなことしなくちゃならないんだい!?」


 2人から当然のごとく責められるが、ミレイには全く気にした様子もない。


 「今更何言ってんのよ、パンの材料を集めるために決まってるじゃない。ほら、見てみなさい。」


 ミレイがキングベアーの死体に目を移したので2人もそちらに目を移すと、キングベアーの死体から何か靄のようなものが立ち上がっているのに気がついた。


 「・・・?」


 エルアは汗か何かが蒸発でもしているのだろうかと考えたが、靄はどんどん濃さを増していき、終いには空中の一箇所に固まり始めた。


 ドサッ


 固まった靄から何かが詰まった大きな麻袋が落ちてきて、その後靄は消えてしまう。


 「な、何だこれ?」


 「開けてみてみなさいな。」


 エルアは麻袋を開けると中を覗き込む。カフも横から興味深げに一緒に覗き込んでいる。2人の覗きこんだ麻袋の中には、沢山の小麦粉が詰まっていた。


 『うそだあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』


 2人は揃って頭を抱えた。こんな方法で小麦粉が手に入るなんて聞いたことがない。


 「やぁねぇ。目の前に現物があるのに嘘だなんて。」


 「お前が何かやったんじゃねぇのか!?」


 「失礼しちゃうわねぇ、現実を見なさいな。ちゃんとキングベアーから出てきたじゃないの。」


 そう言われるとエルアには何も反論できない。一部始終どころか小麦粉が出てくる所全て見ていたのだし、ミレイがなにかやったという証明が出来ないのだから反論しようにも反論できないのだ。


 「大体ね、こんなこと珍しくもないわよ。武器やら防具やら薬やら果ては宝石まで、魔物を倒すと今みたいに色んな物が手に入るのよ。」


 「そんなこと聞いたことねぇよ!! あぁもう、何がどうなってるんだ!!」


 エルアが何か反論できる論理はないかと頭を働かせているが、何も思い浮かばない。


 「考えすぎるのは真面目で良い事だけど、もうちょっと柔軟な発想を持ちなさいな。」


 エルアは混乱しようとしている頭を何とか必死になって抑えようとする。


 「そうか・・・、パン屋さんっていつもこんな大変なことをやっていたんだね・・・。」


 「カフさん!? 毒されちゃあ駄目ですよ!!」


 「さぁさ、考えるのは後にしてさっさと次に行きましょう。この森には凶暴な魔物が出るって話じゃないの。」


 確かにこのまま立ち止まっているよりはマシかもしれないと、2人は思い直し再び森の奥へと進んでいくのだった。





 それからの道中は何事も無く、3人は魔物の巣窟の奥へ奥へと足を踏み入れていた。麻袋はミレイが軽々と持っているからそこまで辛いこともなかったが、エルアとカフはもう街に戻りたくなっていた。しかしそんなことミレイが許すはずもなく、多少重い足取りで先程から無言で進んでいる。

 それでも進めば場所は変わるもので、3人は森の中の湖にたどり着いた。


 「今度は水だったか。なんだ、ここの水でも使うのか?」


 「確かにここはあまり人が立ち入らないから水も綺麗みたいだけど、別に井戸水使っても同じなんじゃないのかい?」


 2人の言葉にミレイはため息を付いた。


 「やぁねぇ、こんな水使うわけないじゃないの。生水なんてよっぽどの所じゃなきゃあそのまんま使うのは自殺行為よ。これじゃなくてほら、あれよ。」


 ミレイが指差した先を見ると、1匹の巨大な亀が昼寝をしていた。


 「ちょっ、あれってギガントタートルですよね!?」


 カフが思わずミレイに聞いた。ギガントタートルとは一般的な魔物の中では最強に近い種であり、そのワニガメのような口は大木をいともたやすく噛みちぎり、ゴツゴツとした分厚そうな甲羅は大砲をもってしても傷つけることは出来ない。甲羅以外の部分の皮膚もとても分厚く柔軟性があり、人の力で傷つけることはとても難しい。


 「ヤバイ、アイツは本気でヤバイぞ。ある意味キングベアーよりもヤバイ。今は寝ているみたいだし、気づかれないうちにさっさと戻ろうぜ。」


 エルアの言葉にミレイは耳を傾けることはなく、むしろギガントタートルにどんどん向かってく。


 「おいおい、まさか・・・。」


 とうとうギガントタートルの横に立ったミレイを見て、エルアとカフは嫌な予感を抑えきれずにいた。寝ているだけでもミレイの2倍の高さはあろうギガントタートルは何も気づかずに寝ているが、


 「起きなさい。」


 ゲシッ


 ミレイの一蹴りでその巨体を大きく揺らし、目を覚ます。そしてその目でエルアとカフを捕え、御馳走だと言わんばかりに走りだす。


 『うわああぁぁぁぁぁ!!!!』


 エルアとカフは逃げ出した。





 ズズウウゥゥゥゥン


 数分後、ギガントタートルは倒れ伏した。


 「はぁ・・・はぁ・・・ぜぇ、や、やばかった。もう助からないかと思った・・・。」


 「ぜぇ・・・ひぃ・・・はぁ・・・、ほ、ホントだよ。まさかあんな事が起こって助かるなんて思わなかったよ。」


 「あぁ。あれが起こるなんて夢にも思わなかったな。まぁ、おかげで助かったんだけど。」


 エルアとカフはへたり込み安堵の表情を浮かべる。そして今自分の目の前で起こった奇跡に対して感謝するように空を仰ぐ。


 「あらあら、まさかあんな事が起こるなんてねぇ。長生きしてみるもんだわ。」


 再びどこからともなく現れたミレイにエルアは文句を言ってやりたかったが、その気力すら沸かない。どうせ言っても無駄であろうし、短い間に命懸けの逃走を2回行ったのだから当然ではある。

 ギガントタートルの方を見てみると、キングベアーの時と同じく靄が集まり、樽に入った水が現れた。


 「も、・・・いいや。」


 こういうこともあるもんだと、エルアは納得することにした。どうせいくら考えてもわからない事なのだろうから。


 「いいわね、思考を柔軟にしてきたじゃない。さて、材料も集まったし戻りましょう。」


 ミレイは水をエルアに、小麦粉をカフに向かって放り投げた。


 「ぐはっ!!」


 「ぎゃふっ!!」


 エルアとカフはその押しつぶされた。


 「いつまでもそんな重い物美少女に持たせてんじゃないわよ。」


 「てめぇ今放り投げただろうが!! 片手で!!」


 「ぐふぅ・・・、ミレイさんって確かに可愛いけど、何か色々と違うような感じがするんだよなぁ・・・。」


 「ほらほら、文句言ってないで、戻るわよ。」


 ミレイは言うなり進みだしてしまう。

 一体どっちに行けばいいかわからないエルアとカフは、それぞれの荷物を必死に担いでその後を追うのであった。






 3人はカフの家へとたどり着いた。ミレイは特に疲れた様子を見せていないが、必死に逃げ回った挙句重い荷物をそれなりの距離運んだエルアとカフは既に満身創痍といった様子で倒れ伏している。


 「大の男が2人して情けないわねぇ。まぁいいわ、後はアンタ達がいても変わらないしね、さっさとやることやっちゃいましょう。」


 エルアは倒れ伏しながら、そう言えばパンを作るためにこんな目にあったんだと考えた。このままミレイ1人に任せるのは途方もなく不安だが、今は起き上がる力さえ出すのが難しい。我ながらよくこんな限界まで力を出し切ったものだと思う。

 自分達が必死になって運んできた小麦粉と水を軽々と運ぶミレイの様子を横目で見ていたエルアは、その疲労から急激に眠りに落ちていった。




 一体どの位眠っていたのだろうか。エルアは鼻をくすぐる良い匂いに起こされる。見るとカフも目を覚ましているようだ。

 体を起こし、伸ばす。不思議と疲労はなく、頭もスッキリしているが何ともお腹が空いている。


 「おはようございます、エルアさん。いやぁ、大変な目にあいましたねぇ。」


 「まったくですね。けどまぁそれはさておき、この匂いって・・・。」


 匂いの出処は先程ミレイが進んだ方向、つまり台所の方だ。エルアは嫌な予感がしたが、それを口にする前にミレイが現れた。どこでいつの間に調達したのかはわからないが、何やら可愛らしいエプロンを身に着けている。


 「あら、起きたのね。こっちもちょうど出来たところよ。」


 ミレイは満面の笑みを浮かべ、2人の前にあるものを差し出した。


 「さぁさ、お米が美味しく炊けたわよ。」


 『パンじゃねぇのかよ!!?』


 これにはさすがにカフも突っ込んだ。しかしそんなことをまるで気にしないミレイはちっとも悪びれた風もない。


 「やると思ったよ!! なんか変なことやると思ったけど実際にやる奴があるか!!」


 「いいから食べてみなさいな、美味しいわよ。カフの田舎も捨てたもんじゃないわね。」


 「おまえなぁ・・・俺達一体何のために動き回っていたんだ・・・。」


 「うぅ・・・おいしぃ・・・、おいしいけど絶対に色々と間違ってる・・・。」


 なんだかんだ言いつつもお腹の空いていた2人は、炊けたお米で食事を摂ることにしたのだった。

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