#8 クイズ!証拠品を嗅ぎまSHOW!
麗美と蘭子は吸血鬼の姉妹である。
生活の保障と引き換えに国家への協力を要求された2人は、社会に紛れて人を喰らう無法の吸血鬼たちと長年戦ってきた。
その結果、吸血鬼による犯罪は激減し、姉妹の仕事はもっぱら自宅警備と宅配受取になった。
この物語は、そんな哀れな吸血鬼姉妹の少女とも淑女とも感じられる色っぽい匂いがする姉、麗美と、
少女特有の柔らかい匂いがする妹、蘭子と、
ちょっと加齢臭っぽい臭いがぷんぷんする対吸血鬼班の刑事であるジローの壮絶な戦いを記した短篇集である。
麗美とジローは、警視庁にある証拠品保管庫のひとつにいた。彼らの前にあるダンボールのいくつかには、丸印で囲われた「吸」という文字がマジックで書かれている。
そのマークは通称「マルキュー」と呼ばれ、吸血鬼の関与が疑われる事件の証拠品を示す記号である。別に頭が悪いこととは関係がない。
ジローはダンボールのひとつを開け、麗美を手招く。
「これは?」
事件の凶器であるナイフを指さして、ジローが言った。麗美はビニール袋に入った証拠品を手に取り、袋の口を開けて臭いを嗅ぐ。
「あぁ、これは違うわね。人間の臭いしかしないわ」
吸血鬼である麗美には、吸血鬼の匂いが分かる。吸血鬼が関わった事件であれば、彼女はその証拠品に付着した吸血鬼特有の匂いを確りと捉えることが出来るのだ。
「じゃあ、これは関係無しだな」
ダンボールに書かれたマルキュー印に×を付けるジロー。
「そんじゃ、次のダンボール」
開ける。麗美が嗅ぐ。
「違うわ」
×を書く。開ける。麗美が嗅ぐ。
「これも違うわね」
そのような調子で、マルキュー印が書かれた6箱のダンボール全てをチェックした2人。
所要時間、15分。
「これで終わりだ。おつかれしたー」
「おつかれさま」
事件に吸血鬼が関与しているかどうか。それを調べるのも、麗美に与えられた重要な仕事であった。
「……」
「どうしたの、ジロー?」
「今月のお前の仕事、これだけだったな……」
「えぇ、それが何か?」
「…………これで月給18万は税金ドロボウだろ」
時給換算、72万円である。
「蘭子と合わせると30万だけど」
「うるせぇバカッ!! 死ねっ!!!!」
時給、120万の仕事であった。