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94.お待たせ!

「お待たせ!!」

「おっそいなあ、もう始まっちゃったじゃないか」

 タカラは、腕を組み、ふくれていた。


 もう暗くなっているので、はっきり見えにくい分、タカラは、わざとナナカに見えるように大袈裟な態度をとっているようだ。

 「タカラは、ナナカが迷ってて間に合わなかったら可哀想だって言って、ハラハラしながら待ってたんだ」

 ヒイロが、おかしそうに笑った。

「余計なこと言うなよ、ヒイロ」


 その時、大玉の花火が、ぼん! と夜空に炸裂した。

「うわーお、おっきいねえ」

「ほら、ナナカは途中からだって全然残念がってないだろ」

 タカラは、つーんと聞こえないふりをして、空を見上げていた。


「違うの、おばあちゃんに先に会いに行ってたの、ごめんね」

 ナナカは手を合わせて2人に詫び、それからタカラの背をばしんと叩いた。

「い、痛っ、何すんだ」

 タカラが、叩かれた所をさすろうとしたが、体が硬くて届かないようだった。


「そうそう、伝海がいたよ」

「伝海が?」

 ヒイロが眉を顰めているようだ。

「うん、でもね、ナギラがいなくなっちゃったみたいで、元気がなくて、おばあちゃんと話してたの」


「それは、意外な組み合わせだな」

 ヒイロが首を傾げた。

 タカラは、花火を一つでも見逃すまいと、忙しなく、あっちを見たり、こっちを見たり忙しい。美浦の花火大会は、第一堤防・第二堤防など、数か所から打ち上げられる。いろんな所から花火が上がるのだ。


 ナナカは、伝海が語った内容を、2人に伝えた。

「そっか、俺の家からは近いから、これからは宝専寺に行くようにしようかな。祈ったりはしないけど、稽古には良い広さがあるし」

 ヒイロは、一人で納得し、頷いた。

「ヒイロが会いに行ってくれれば、寂しくないね。

 でも、あんまり怒らせないで上げてね」

「そうだな、あんまり怒らせてばかりいたら、血圧が上がりそう」

 連発の花火が打ち上げられ、空が明るくなった。


「タカラ、そう言えば、『主』はあれからどうなったの?」

「さっき、ヒイロにも話したんだけど、なんか、機織姫が『主』の凶悪な部分を一緒に連れて行ってくれたみたいなんだ」

 タカラが、花火の行方を追いながら、さらりとそう言った。

 ヒイロも花火を追いかけ始めた。

 ナナカは、どういうことか理解できない。


「僕の中に、今も『主』はいるよ。でも、ウソみたいに大人しく、あっさりしてるんだ。拍子抜けする位」

 タカラは、夜空を見上げている。

 花火が上がるたびに映し出されるその横顔は、すっきりと、清々しかった。

 以前の、何かを背負っているような、重苦しさはない。

「それじゃあ、命の心配は?」

「わからないけど、もうない気がする」

 タカラの表情が、また、映し出された。輝いていた。


「タカラは『主』が体を乗っ取ってた間、どうなってたの」

「それが、ぼんやりしててはっきりと思い出せないんだよ。龍蛇穴は『主』の力を相当増幅させたんだと思うよ」

(それなら、良かったと思った)

『主』が話していたことを、タカラは知らない方がいい。

「ねえ、ヒイロ。ヒイロは、どうしていなくなったの?」

 ナナカには今も、突然ヒイロが消えた理由が分からなかった。


「あの時、一人目に勝って、二人、三人と続けて戦ってたんだ。

 俺は、感覚が冴えわたり、誰にも負ける気がしなかった。いつまでも戦い続けていられる気分になったんだ。

 俺は、無敵だ、そんな気分になってた」

今日も読んでくださってありがとうございました!!


明日は最終話です。

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