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90.旅立ちのとき

 洞穴の行き止まりが見えてきた。

 行き止まりにある祭壇から、眩しい光が溢れている。

 その色は、赤から黄色、青色へと目まぐるしくきらりきらりと光り輝き、変わって行く。


 ついに!

 ついに宝珠へ辿り着いたのだ!

 ナナカは、期待に顔を輝かせた。


 そういえば、さっきまでとても気になっていた、ずるずると何かを引き摺るような音はいつのまにか消えていた。


 ナナカは、祭壇へ近付いて行った。


 祭壇には、2本の白く太い蝋燭が灯され、ぼんぼりに小さな明りが点いていた。

 でも、祭壇に祀ってあるもの(多分宝珠だが、あまりの眩しさに本体が見えない)から光が溢れ出していて、ぼんぼりの明りは飾りのようだ。


 ナナカは、祭壇までの短い距離を、一歩一歩噛みしめながら進んで行った。


 いろんな出来事が、頭をよぎった。

 三角波の海で溺れそうになったこと、桃香島で展望台に登って、あまりの高さにお腹が冷や冷やしたこと、狂ったように二翠湖で暴れ回る赤牛に睨みつけられたこと。

 そして、タカラとトモダチになったことも……。


(これで、冒険が終わる――)


 ナナカは、祭壇の光の塊にそっと手を伸ばした。

 光はやさしい温かさがあった。


 ナナカは、光の中心を手に取った。

 瞬間、大きな風が巻き起こり、ろうそくの2つの炎がかき消えた。でも、手の中の光は、指の間から、更に明るさを増して燦然と辺りを照らし出した。


 その時、ぎゃー! という、この世のものとは思えない、おぞましくもぞっとするような悲痛な叫びが聞こえたかと思うと、横穴はきれいに消え去った。





 気付くとナナカは、何もないとても広い場所に立っていた。

 そこは、岩で出来たドーム状になっていて、広さは、学校の運動場よりもまだ大きくて広かった。そしてがらんとしたドームの天井は、体育館の天井よりまだ高いくらいだ。


「あっ」

 ナナカは、思わず声をあげた。

 いくつもの白い影が、揺らめきながら天へすうっと登って行く。


「機織姫!」

 揺らめく白い影達の中で、機織姫が、鎧を着た武士と馬に乗り、宙を走っていた。右腕は武士の体に回し、左腕には布にくるまれた何かを抱いている。赤ちゃんだろうか。周辺を、1周2周と軽快に馬は駆け、次第に遠ざかって行く。


「機織姫えええ!」

 ナナカは、遠ざかって行く機織姫を追いかけようと走り出した。


 でも、追いつけなかった。

 ちらっと見えた機織姫のその顔は、満足そうにほほ笑みを浮かべていた。


 機織姫は、更に遠ざかり消えて行った。

 機織姫や、その他の、洞穴に囚われていた魂が、本来行くべき場所へ還って行く。


『ありがとう、ナナカさん……』

 また、温かなものが、心に吹きこんできた気がした。


(機織姫、よかったね。あなたは、自分の愚かさを責めて下さいって言っていた。

 でも、責めるなんてそんなことしないわ。

 愚かな過ちを犯し、失敗から多くを学ぶ――それが人ってものだもの)

開いてくださってありがとうございます!!


今日は6月最後の日。


今月の終わりにここまでupできて本当に良かったです(^◇^)

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