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80.枯れゆく

 あっという間に、桜塚さくらつかへと着いた。

 伝海は、美浦から桜塚までの、美しく不思議な光景に、驚きと感嘆の声を上げていた。

 しかし、ナナカは景色も目に入らないくらい、正面だけを見据えていた。


「おい、またあいつがいるぜ」

「本当だ、嫌な奴がいる」


 伍の一族がぼそっと言った。

 桜塚の先、洞穴の入り口にいざなが待っていた。


 ナナカは、伍の一族が降下すると、ひらっと飛び降りた。続いて、ナギラも軽やかに降り立った。

「ま、待て」

 伝海は、まごつきながら、どたっと下りた。


「それじゃあ、また笛で呼んでくれよお」

「ここまで運んでくれて、本当にありがとうね!」

 伍の一族は、くるりと一回転すると、みるみるうちに飛び去った。


 ナナカは、いざなに駆け寄った。

「いざなさん、ヒイロはいなかったわ」

「妙ですね、この中にはいないようですが」

 いざなが、眉を寄せた。


「ううん、ここにいると思うの。もう一度ヒイロと行った最初の場所から、連れて行って下さい」

「それは、構いませんが……」

「そうはいきませんよ」


 ナギラが、いざなとナナカの間に割り込んできた。

「宝珠を、出すのです」

 感情のない、低い声。


 ひっくり返した三日月を、二つ貼り付けたような目。

 いつも笑っているナギラの顔が、さらに気味悪く見えた。体温のない、蝋人形のようだ。

 尋常でないナギラの様子に、いざなは一歩後ずさった。


「ちょっと、ここにはないんだってば。

 機織姫はここにいるの。無くなったから探してって言われたのよ」


「いや、ここにある! 少なくとも宝珠に繋がるヒントがな」

 伝海が、だみ声を張り上げた。

「宝珠を探し出し、宿願を果たす時が来たのじゃ」

 ナナカは、伝海を振り返った。


「宿願って、一体何なの?」

「それはのう」

 伝海は、もったいぶったように話し出した。


「このナギラは、さる高貴な筋の生まれなのだが、戦後、厳しい探索があり、その一門には命に及ぶ危機的な状況が訪れた。


 そこで、血を絶やさぬよう、密かに逃がされたのがナギラの父なのじゃ」


 ナナカには言っている意味が最初よく分からなかった。

 ナギラの生い立ちが?

 高貴な血筋が?

 密かに、逃がされ……。

 唐突な話に、理解できないでいると、伝海は、馬鹿にしたような目つきでナナカを見た。


「あったま悪い奴じゃのう」


 これみよがしに、派手な溜め息までついて見せる。

「む、だって、いきなりそんなこと言われても」


「そうですよ。話しても詮無いこと。何故、そのことを明かしてしまわれるのです」

「ここまできたら、隠していても仕方ないじゃろう」


 ナギラが、氷のように冷たい眼差しをナナカに向けた。

「そうですね、後で始末したほうがいいでしょう」

 ナギラがさらりとそう言った。

「そっ、それはやり過ぎなんじゃないか」

「いいえ、この方は、いろいろと知り過ぎました。そして、この方のご友人も」

「し、しかしっ」


「和尚さまも悪いのです。そうやって、すぐに話してしまわれる。

 後の始末を付ける私の身にもなって下さい」

「う、ううむ」


 ナナカの意志を無視するように、勝手に話が進んでいく。

「ちょっと、始末って何よ」

 ナナカを、殺して口封じしてしまおうと言うのだろうか。それに、ヒイロやタカラも。

「ご安心なさい。全ては宝珠が見つかってからのことですから」

 ナギラが、ぞっとするような凄絶な笑みを浮かべた。


 その時、じっと黙っていたいざなが口を開いた。

「そんなことより、宝珠があるか、洞穴の中を実際に見てみたらいかがです?」

 いざなは、すっと右手を上げた。花びら達が、ざっと舞い上がる。


 ナギラは、何事かと、いざなからさっと離れて間合いを開けたが、いざなに殺気がないことを察すると、少し距離を詰めた。しかし、油断なく構えたまま、いざなから視線を外さない。


 花びらの絨毯が出来上がると、いざなに続き、ナナカも絨毯に移った。

 いざなが、こっそりナナカに言った。


「大丈夫ですよ、洞穴の中に入れば、このような者達など、どうとでもなりますから」

 ナナカも、気付かれないようにこくりと頷いた。


「早く乗らないと、置いてゆきますよ。こんな所に置き去りにされたら、あなた達の魂は、朽ちるまでさまよい続けることになるでしょう」


 伝海は、その言葉に、慌てて絨毯に飛び乗った。

 おっかなびっくりしている様子だ。

 ナギラも、無言のまま、いざなから視線を外さずじりじりと近付いて来て乗った。


「では、参りましょう」

 絨毯は、ふわりと浮き上った。


「おっ! これは、なんと! う、浮いたぞ」

 花びらが寄り集まって、4人も乗せて飛んでいるのだ。伝海が、驚き、うろたえるのも無理はない。


 木々の間を、右へふわり、左へふわりと避けながら、下へ下へ降りて行く。

 すぐに、太鼓や笛の音が響き始め、軒を連ねた様々な露店が見えてきた。


「ぬおおおおっ、な、何じゃ、ここは!?」

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