76.探す……2
ナナカは、くっつきそうになるまぶたをこすった。
(強力な磁石みたい)
今、眠るわけにはいかない。
着替えて朝食をかきこみ、庭で笛を吹いてみた。
しかし、伍の一族は現れない。
場所が悪いのかと思い、移動してもう一度吹いてみた。が、やはり伍の一族は現れなかった。
星祭りまでは「いる」と言っていたけど、もしかして、気が変わって上空へと飛び立ってしまったのだろうか。いや、そうではないはず。
あの海じゃないから悪いんだ。
ナナカは、不安を打ち消し、三角波の磯へと向かった。
磯へ着くと、眠気を振り払い笛を吹いてみた。
相変わらず、音にならない。
何度かふうふう吹いてみたが、伍の一族は、現れる気配がなかった。でも、他に、龍蛇穴へ戻る方法はなかった。
焦りと不安が押し寄せてくる。
ナナカは、口が痛くなるくらい、何度も何度も笛を吹いた。
「昼間じゃ伍の一族は現れないよ」
笛に集中していて、近付く気配に全く気が付かなかった。誰もいないと思っていたのに、急に話しかけられたのでナナカはぎょっとした。
「あれっ、ナミ小僧だ!」
笛を吹きながら、空ばかり見上げていたので、ナナカは全く気が付かなかったけれど、ナミ小僧はすぐ目の前にいた。
「伍の一族は、暑いのが苦手なんだよ。
今頃、どこかで寝てて、日が沈んでまた涼しくなッたら駆け回り出すんだ」
「え~っ、そうなの?」
それは、初耳だった。
あれだけのおしゃべり好きなのに、肝心なことを話し忘れるなんて。
ナナカは、がっくりと項垂れた。
急激に、眠気が一層強くなってきた。
「お姉ちゃん、龍蛇穴はどうだッた?」
ナミ小僧は、話を聞きたくて目をらんらんと輝かせている。
「あのね……」
ナナカは、口を開こうとして、止まってしまった。
いろんな思いが交錯して、今しゃべり出したら、涙がとめどなく溢れ出しそうだった。
ナナカは、泣くのをこらえ、ぐっと奥歯を噛みしめた。
さっきも、カイリに本当の事を話したら、自分が崩れてしまいそうだった。
でも今、気持ちを途切れさせるわけにはいかない。本当は、大声をあげて、わんわん泣きたかったけれど、強がって我慢した。
今は、気を抜くわけにはいかない。
2人を救い出すために、前だけを見据えていく!
「あのね、私は今、大冒険の最中なの。
冒険っていうのはね、最後はめでたし、めでたし。で終わるものなのよ」
サトが語る、様々な冒険譚を思い浮かべた。
ナナカは、心の中で頷いた。
(そうよ、そうなの)
ナナカは、力を得たように、勢いづいた。
「だから、今はまだ話せないの。
この続きは、絶対、ハッピーエンドなんだもの」
ナミ小僧は、意味がわからないよ、と言いたげな顔をしていた。
ナナカは、すっくと立ち上がった。
「ねえ、ナミ小僧。
明日は10日、花火大会だね。
ヒイロと、タカラと、おばあちゃんと、そして、伍の一族とかとみんなでね、花火、見に行こうよ。
そして、花火を見ながらね、私の冒険を語って聞かせるから、その時を楽しみにしててよね」
「わあ、みんなで聞かせてくれるんだね」
「そうよ。
ハラハラ、ドッキドキ、それにワックワクの大冒険なんだから!」
ナミ小僧は、目を輝かせた。
「おいら、楽しみにしてるよ。
でも、明日の花火大会は、人が大勢集まるし、あんまり近くだと、おいら火が怖いんだ。だから、その後の星祭りがいいや」
「そっか、花火大会の次の日からが、一番本格的なのよね」
「うん、もう降り始めてるけど、明後日が、もッのすごいんだよ。
今年は、特によく見えるみたいだから。
きッと、空中に、ぽろん、ぽろん、しゃららららあッて、いッぱい降ッて来るんだ」
ナミ小僧は、また、手や体を使って、空から星が降ってくる様子をやって見せた。
ナミ小僧の、ウキウキとした様子を見ていると、絶対みんなで星祭りを見たい、そして、宝珠も見つけ出したい、そう思った。
ナナカがんばっています★ハッピーエンドになるといいね!!
今日も読んでくださってありがとうございました★




