74.”人”使いが大変荒い
気持ちは先走って、あれこれ次々に浮かんでくるものの、目の前が回っているような感じだった。
「いざなさん、一度ここから出たら、私はもう二度と戻って来られないの?」
「そのようなことはございませんよ、笛があるでしょう。笛を吹けば、伍の一族があなたの元へ参るでしょう。
ただし、はるか上空にいる時は無理です。笛は空高くまでは聞こえませんから。地上近くにいる今の時期のみです。それと、この龍蛇穴の中にいても、音は響きません。外へ出なければ」
「うん、わかりました。
もう一度ここに連れて来てくれるか、伍の一族に聞いてみる」
ナナカは、いざなに地上まで送ってもらった。
ヒイロが帰ったなんて信じられないけれど、みんながそう言うし、探してもいないのだから、確かめに元の世界へ帰るしかないと思った。
ヒイロにタカラの事を伝え、一刻も早くここへ戻って来なくてはならない。
それに、花びらの絨毯に異変が起こっていた。
カラカラに干からびている場所が、どんどん広がっているのだ。
さっき、機織姫の居た場所から上がって来る時には、最初に枯れていた場所以外に、もう一か所小さな範囲で枯れている所があった。
それが、今では全体に広がりつつあった。
なんとなく、全部枯れてしまってはこの洞穴から抜け出せなくなりそうな予感がした。
ナナカの勘が当たっているのかいないのかはわからないけれど、得体のしれない不安が忍び寄って来ている感じがする。
地上に出ると、相変わらず芳しい香りがして、桜の花がちらちらと舞い散っていた。
ナナカは、もうそんな様子も目も入らず、笛を取り出した。
横笛など、吹いたこともなかったけれど、学校の、吹奏楽部の子が練習している姿を思い出し、見よう見真似で吹いてみることにした。
空気を吹き込む。
しかし、筒を、ふうっと風が通り抜けるだけだった。顔が真っ赤になるくらい、何度も何度も息を吹き込んだ。
でも、音は鳴らない。
「ナナカさん、その笛は、練習しなければ音が出るようにはなりません。
でも、音が出なくても、伍の一族は聞きつけた事でしょう。
もうすぐ、こちらへ参ります」
いざなが言った。
「本当ですか?」
「ええ、音にならない音を聞き、もうこちらへ向かっています」
音にならない音というのは恥ずかしかったけれど、伍の一族には伝わったようだ。
しばらくすると、目の前に花びらの竜巻が起こった。
撒き上げられた花びらの中心に、合体した伍の一族が現れた。
「ナナカ、笛も吹けねえとは、情けねえ奴だなあ」
多分、孫の胥が言っているのだろう。
「下手でごめんね、急いでるのよ、私達の世界に連れてって」
「お易い御用じゃ」
「任せとけってんだ」
「お前に任せるなんて、命がいくつあっても足りんわい」
「なんだと」
「んもう、喧嘩してる場合じゃないんだって。
あっ、そうだ、一つ聞かせて。
急いで帰ってヒイロを拾って、またここへ戻って来たいの。
お願い、もう一度ここに連れて来てくれる?」
「ああ、星祭りまでまだ間がある。おやすい御用さ」
「よかったあああ!! ありがとう」
「そう言えば、あとの2人はいないようだな」
「そうなの、2人がいないのよ。
詳しいことは帰りながら話すから、早く乗せてよ」
「やれやれ、“人”使いが荒い奴だ」
「人じゃないじゃない」
目の前にふわりと降り立った伍の一族の背に、ナナカは、ささっと登った。
「よし、オッケイ。さあ、出発するわよ」
「へいへい、何て身勝手な奴だ。あっちへ連れてけ、こっちへ帰れって」
「ごめんね。
でも今は時間がないんだ。この埋め合わせは後でするからね。
じゃ、いざなさん、ヒイロを連れてまた来るから。
タカラは必ず取り戻します」
「埋め合わせ……楽しみだのう。ほっほっ」
伍の一族は、飛び上がった。
そして、光の速さでナナカ達の世界へと向かった。
日曜に、ダ・ヴィンチ見に行ってきました!!
私もナナカのようにモナリザを見たいな(#^.^#)ナナカが羨ましい(^O^)




