73.後ろ向きな姫
「ナナカさん……」
振りかえると、機織姫が心配そうな顔でナナカを見ていた。
その後ろには、いざなも立っている。
「機織姫、どうしたらいいの?」
ナナカは機織姫に縋りついた。しかし、機織姫は力なく首を振った。
「ごめんなさい。わたくしには、どうすることも……。
ここは見た目以上に広く、複雑になっているのです。横穴がたくさんあって、迷路のように枝分かれしていて……」
機織姫は、あの晩、ナナカに全てを託し、掛けようと思っていた。でも、やはり……。
「そんな」
助けを求めるように、後ろのいざなを見たが、いざなも首を振った。
「……」
とにかく、ヒイロに早く伝えよう。
「いざなさん、ヒイロの所に戻ります。連れてって」
いざなが、ええ、と頷いた。
ナナカは、急ぎ花びらの絨毯の所まで戻ろうとした。が、
「あっ、そうだ」
機織姫を振り返った。
すたすたと近付いてゆき、冷たい手を握った。
「これ」
その手に、預かっていた機の櫛を手渡した。
「これのおかげで夢じゃなかったと思えたの。ありがとう。
絶対宝珠は探し出すわ。そして、タカラも連れ帰る」
力強くナナカは言った。
「それは……。難しいと思います。
先程のモノは、相当な力を秘めています。とても太刀打ちできません」
ナナカとは対照的に、機織姫は諦めにも似た表情だった。機織姫は、会った時からずっとこんな夢も希望もない顔をしていた。
「どうしてそんなに後ろ向きなの? そんなに陰気で辛気臭い顔してたら、せっかく美女なのに台無しだわ。
タカラは絶対探し出す。
私のせいで撒きこんじゃったんだから。
それに、諦めなかったから、こうやって機織姫に会えたんだもの。
ここに、宝珠があると思ってたから、また別の所を探し出さなきゃだけど、見つかるまで探すつもりよ。
私はタカラも宝珠もあきらめない」
ナナカは自分に出来る精一杯の気持ちを込めて、一生懸命に語った。そんなナナカを、機織姫は憐れむように見ている。
(どうして、悪い方にしか考えられないの?)
「タカラは絶対探し出す!」
ナナカは強く言った。
言って決める事で、自分が前に進むために。
でも機織姫は、黒目がちな瞳で、寂しそうにナナカを見つめるだけだった。
「機織姫……」
全てを諦めきっている、そんな機織姫の悲しげな表情だった。
ナナカは、花びらの絨毯に乗り、急いで道場の場所まで戻った。
道場では、あいかわらず「やああ」「とう!」といった掛け声も激しく、稽古が繰り返されていた。
しかし。
「ヒイロが!?」
なんと、ヒイロがいないというのだ。
「帰ったってどういう事」
ナナカは、茫然とした。
頼りのヒイロは、ここにいないばかりか、一人で美浦に帰ってしまったという。
そう言われても、ナナカには信じられなかった。
ナナカは、笛を取り出した。
「だって、笛はここにあるんだから、伍の一族をヒイロが呼べるわけないし」
だいたい、ナナカ達を置いて、ヒイロが一人で帰ってしまうなんて、全く考えられないことだった。
「こことあなた達の世界を行き来できるのは、伍の一族だけではないんですよ。
他のモノに送ってもらったのでしょう」
いざなが、心配するナナカを気遣うように言った。
「だからって、何の断りもなく、一人で帰っちゃうなんて」
こんな風に、ヒイロに置き去りにされたことは初めてだった。
「いろいろと楽しそうな所があるから、どっかまだその辺にいるのよ」
ナナカは、いざなに絨毯へ乗せてもらい、らせん状になっている露店の階層を隈なく探した。
しかし、ヒイロはどこにもいなかった。
そして、タカラも……。
祭囃子の音色が虚しく響いている。
さっきまでとは違い、行き交う人々の賑わいも、味気なく感じられた。
一刻も早く、タカラを助けなくてはならない。『主』に自分の中へ閉じ込められて、出たがっているに違いない。
でも、ヒイロは帰ってしまったという。
どうしよう。どうしたら……?
焦燥感が募る。
開いてくださって本当にありがとうございます!!
姫、ちょっぴり暗~いです。。。。。。
そして、ヒイロはどうなっちゃっているのか、ナナカ不安です!!




