71.意外な出会い
ヒイロは、道場に立っていた。
道着を貸してもらい、この場に立つと、気持ちが凛と引き締まる。着替えたのは、真新しいぱりっとした空手着だった。柔道着はごわごわしているので、ヒイロは空手着の方が好きだった。
道場生の構えから、六道流という事がわかった。ヒイロ自身は戦った事のない流派だけれど、立ち合いを見たことがあった。
手を合わせた事のないヒイロにとっては、またとない相手だった。
(誰にも、負けたくない……)
ヒイロの瞳が野生的に光る。
「始め!」
相手は大柄で、筋肉質。30歳位だった。
開始と同時に次々と技を繰り出して来た。一歩間違えたら、相手の力技をくらいかねない中で、手の内を見極めようとヒイロは冷静に受け流し、かわしていく。
寸前でかわすヒイロに、相手がいらついてきた。どうやら気が短いらしい。相手の短気を逆手に取ろう。
ヒイロは、相手を挑発するように大袈裟に技をかわし、時々軽く横蹴りを入れたり、相手の勢いを利用して、ちょんと突いたりした。
相手は、癇癪持ちのようで、段々怒り出して来た。
(気が短い……伝海みたいだ)
ヒイロは、心の中で嗤った。
相手は、何としてもヒイロに一撃を加えようと、段々得意な技ばかりを出すようになってきた。同じパターン。ヒイロは見切った。
(次は、フェイントから腕を取りに来る!)
ヒイロは、相手が右腕を取りに来た瞬間、さっと腰を落とし、下段に入った。そのまま、タックルのように相手の足に取り着き、倒し、関節をきめる。
相手は体格に差があるヒイロを引きはがそうと、力任せに返しにかかってきた。でもヒイロもそうはさせない。
相手が逃げようとする。でも逃がさない! 取り逃がさないよう、関節を更に決める。
ばんばんばん!
相手が、強く畳を叩いた。
「そこまで!」
(よし、次は誰だ!!)
ヒイロの目は、らんらんと野生的な強い光を放っていた。
ナナカといざなの乗った花びらの絨毯は、ずんずん降下して行った。
穴の内部は、かなり深く、いくら下っても終点は見えない。
次第に露店はぽつりぽつりと少なくなっていき、所々に灯された松明の炎だけがぼんやり揺れていた。
もう、祭囃子も聞こえない。
静かで、薄暗く、じめじめとし出して来た。
ナナカは、心細くなってきた。
やはり、ヒイロと離れるのではなかった……。
「ええっと、どこまで降りるんですか?」
不安でいっぱいのナナカは、いざなに尋ねた。
「もう、着きますよ」
いざなの声は、とてもやさしい。
しかし、さっきから、何か気になっていた。
この声を知っているような気がするのだ。
どこで?
……思い出せない。
花びらの絨毯は、横穴の前でスッと止まった。
「さあ、こちらです」
いざなが、先に立って歩き出した。
ナナカが逡巡している間に、いざなは吸い込まれるように穴の中に消えて行った。
いざなが行ってしまったら、ナナカは一人ぼっちになってしまう。
「待ってよお」
ナナカは、いざなの白い背中を追いかけて行った。
横穴の中には、灯りがなかった。
しかし、すぐに目が慣れてきた。
岩からうっすらと、わずかな光が染みだしているようだ。
いや、岩自身が、ぼうっと発光していた。
明りはなく、ごつごつとした茶色の岩壁で出来ている……。
「って、ここは!」
間違えるはずもない、登校日の前夜に見た夢の中で、ナナカが機織姫に会った所ではないか!!
ナナカは、いざなを追い抜いて駆け出した。
この、奥には!
薄明るい穴の奥からは、規則正しくとんからり……と音がする。
もう、間違いない!
機織機が見えてきた。
その前に座る白い着物の女の人は。
腰まである長く艶やかな黒髪。人目を惹く美しさ。
「機織姫!」
はっとしたように、手を止め、機織姫は立ち上がった。
「ナナカさん……」
驚きに、目を大きく見開いている。
やはり、機織姫との出会いは、夢などではなかった。
ナナカは、百年来の友と再開出来たかのように、感動していた。
「機織姫、本当に、機織姫なのね」
ついに念願の機織姫との出会い(^O^)
このタイミングで登場です!
今日も開いてくださって本当にありがとうございました。




