69.龍蛇穴のにぎわい1
花びらの絨毯は、すうっと降下していった。
天へ向かって伸びる木々を右へふわり、左へふわりと避けながら、下へ下へと向かって行く。
次第に、光も届かなくなり、辺りは暗闇に覆われた、と思ったら。
笛の音が聞こえて来て、急に周りがぱっと明るくなった。
「わああ、すごい!」
ナナカは、もう、何が起きても驚かないと思っていたが……。
洞窟の中はとても広かった。渦巻状に、下の方まで何層にもなっていて、各階に縁日が立ち並んでいる。
太鼓や笛の音がどこからともなく聞こえ、着物の人や洋服を着た人が入り乱れ、あちらもこちらも賑わっている。
どの顔も楽しげで、手には綿菓子や、金魚掬いで取った金魚の袋やヨーヨーなどがかけられていた。
しょうゆを焦がしたような匂いもしている。
ナミ小僧の言っていた通りだ。
「本当に、お祭りみたいね」
「この穴の中に、一体どれだけの店があるんだ」
いざなは、やさしい笑顔を向けた。
「ここは、年中こうなのです、ずっと、昔から……」
ナナカは、あちこち首を回しその光景を眺めた。
洞窟を、ぐるりと取り囲むように屋台が立ち並び、ナナカ達の乗る桜の絨毯は、吹き抜けになっているその中央をゆっくりと降下していた。
りんごあめ、風鈴、カキ氷、ガラス細工、そして、縁日とは思えない、時計や花まで置いてある店もあった。
「行って見ますか?」
静かに問ういざなに、2人は思いきり力強く言った。
「うん!」
すると、じゅうたんは降下をやめ、横へ、すいと動いた。
そして、船が接岸するようにある階層の通路に着いた。
「さあ、お降りになって下さい」
いざなは、ほほ笑みを浮かべている。
ナナカは、ナミ小僧の言葉を思い出した。『ざくろを食べると、永遠に出られなくなッて彷徨わなければならないとか何とか……』
いくら楽しい雰囲気とは言え、一生ここに閉じ込められるというのはごめんだ。
(気を付けなきゃ)
ナナカは、気持ちを引き締めた。ヒイロにもその事を伝えた。ヒイロも固い表情で頷いている。
ナナカとヒイロは、どちらともなく頷きあって、ちょこんと通路へ降り立った。
「我は、好きにさせてもらうぞ」
『主』は、さっさとどこかへ行ってしまった。
目の前では、イカ焼きの店がありぷーんといい匂いが漂っている。
ナナカは、そこへ駆け寄った。鉄板がじゅうじゅう音をたてている。
「お嬢ちゃん、1つどうだい?」
頭にタオルを巻いた、若い男が愛想よく声をかけた。
こんがりとした卵の黄身がナナカの食欲をそそる。
ナナカは、受け取るか迷った。
「いざなさん、『ざくろ』はダメって聞いたけど、イカ焼きは食べてもいいのかしら?」
いざなは、まだ花びらの絨毯の上だった。そこから、笑みを浮かべ頷いている。
「よかった。それじゃ、1つ下さい」
「あいよっ」
威勢のいい男から、ナナカはイカ焼きを受け取った。
「ありがとう! お金は?」
「ここでは、何でもタダだぜいっ!」
「本当?」
ナナカは、目を見開いた。
「ああ、そうさ。思いっきり楽しんでいきな!」
「うん!」
それから、隣の店に目をやった。
そこではなんと、絵画が売られていた。
モネ、シャガール、レンブラント、フェルメール、ゴッホなどなど……。壁のように3メートル位上の天井ぎりぎりまで、きれいに並んで浮いていた。
世界中の有名な絵画を、一堂に集めた展覧会のようだった。
「いらっしゃいませ。お気に召しましたならば、お取り致しますので、なんなりとおっしゃって下さいませ」
浮いている絵に囲まれるようにして、いすに座る、長い黒髪が美しい、上品な女店主が微笑んだ。
絵のことは全然分からないナナカでも、見たことのある絵ばかりだった。
「モナリザ!」
ナナカは、あっと思い、そのあまりにも有名すぎる絵画を指差した。
「ご覧になりますか?」
女店主が、にっこりと微笑む。
思わずつられて、ナナカも引きつった笑みを返した。
「あの、いえ、私……絵の事全然分かんないんですケド」
そんなつもりじゃない、ただ知ってる絵があったから声を上げてしまっただけ、と言う間もなく、モナリザの絵画はすっと女店主の目の前に降りて来た。
そして、浮いている。
やっと来ましたぁ(*^^)v
ナナカが思っていたのは、レトロ100%だったので、ちょっぴり雰囲気が違ってるみたいです☆
モナリザと言えば、渋谷のダ・ヴィンチ展が10日まで。。。。。。
実は、明日の最終日に行きたいと思っています。
用事が入らないことを願うのみです!
でも、最終日、きっと混んでるんだろうなあ。。。。。。




