67.出迎えたのは……
伍の一族は、そのままぐんぐん加速し、周りの星々は、やがて、横に伸びる線となり、形をなさなくなった。
強風に、目を開けているのもやっとの三人だったが、風のわりには寒さを感じなかった。
たくさんの好奇心と、ちょっぴりの不安とが、ナナカの心の中に渦巻いていたが、隣に感じるヒイロのぬくもりと、後ろのタカラの存在が心強く、ナナカに勇気を与えてくれた。
しばらくすると、ナナカは風をあまり感じなくなってきた。
周りは見たことのない景色だった。明るい。そして、様々な色だけが見える。
まるで、パレットに広げられた鮮やかな絵の具達!
混ざり気のない、極彩色のモチーフ。色の氾濫。
他に何も見えない世界で、銀龍の背に乗る自分達だけがいる。
目が、ちかちかした。
トンネルの様なそんな中を龍が進んでいくと、次には白く柔らかな光が見えて来た。
龍は白い光に猛スピードで近付いてゆく。
そしてあっという間に龍は、衝突するように光の中に入った。その先には。
ぱああああああ……と効果音が聞こえてきそうだった。
急に世界は拓け、明るくなった。
目の前に広がるのは、清らかに桜の花が咲き乱れる、夢の国のような場所だった。
そこは、丘になっていて、見渡す限りナナカの視界に入るのは、全て、桜、桜、桜。ちらちらと花びらが舞っている。
「着いたぞ、『桜塚』だ」
ずっと無言だった銀の龍が、スピードを緩めた。
「さくらつか?」
ヒイロが言う。
「ここの地名みたいなもんさ、この先に『龍蛇穴』がある」
「龍蛇穴!」
ナナカは、叫び声を上げた。
ついに、ついにやって来たのだ。
伍の一族は、降下しながらゆっくりと進んで行く。
紅色、薄紅色、桃色などの花びらが、ひらりひらりと舞い散り続けていて、地面には、一面それらの花びらが降り積もり、花々からのよい香りが周辺に充満していた。
更に龍が進んで行くと、遠くに白い着物の人物が見えて来た。
(もしかして)
そして、その人の隣には、周りの桜咲き乱れる風景とは不自然な程そぐわない、黒々とした大きな穴がぽっかりと開いている。
その大穴めがけ、龍はゆっくりと進み、そっと地に降り立った。
3人は、何時間ぶりかで、ふわりと地に足を着けた。
「ようこそ、『龍蛇穴』へ。私の名は『いざな』」
男といえば、男にも見えるし、女といえば女にも見える人だった。
(違った)
ナナカは、がっかりした。
遠くから見た時、いざなの白い着物から、もしや機織姫かと思ったけれどあの儚げな美しい姫ではなかった。
「いざな、さん。
俺達がくること、分かってたんですか?」
ヒイロが言った。
タカラは、きょろきょろと辺りを見回していた。
「ええ、ようこそお越し下さいましたね」
静かにそう言ういざなの声は、しっとりしていてやはり男性なのか女性なのか分からない。でも、ナナカは、機織姫にどことなく似ている気がした。
いざなは、龍を見た。
「お前達、この方々を連れて来てくれたこと、感謝します」
そして、穏やかに笑いかけた。
「あんたが出て来るなんてな。ナナカ、帰る時には、この笛を鳴らして呼んでくれ」
伍の一族はいざなの事が苦手なようだ。
話すのも汚らわしいという態度で、あっという間に空へと舞い上がり消えて行った。
「行ってしまった! お礼も言ってないのに」
ナナカが残念そうに、空を見上げた。
その場には、ぽとんと何かが落とされた。ナナカはそれを拾い上げた。木の笛だった。年季の入った深い味わいのある横笛だった。
ナナカは笛を口にあてた。
「それ鳴らすと、伍の一族が来ちゃうんじゃないか」
「そっか、それじゃ、どんな音色かは帰りのお楽しみだね」
「伍の一族は、この辺りを飛んでいるでしょうから、呼べばすぐに戻って来ます。
……あなたがたは『龍蛇穴』へ来たかったのでしょう、ご案内致します」
いざなは、そう言うと、ぽっかりと口を開いた大穴の方へ近付いた。
今日も読んでくださって、本当にありがとうございます。
ついに、というか、いよいよナナカもここまでやってきましたぁ(*^^)v
一体どんな所なのか、ナナカはワクワクでいっぱいのようです♪




