66.星降る祭の前々夜
言うが早いか、3匹は飛び上がり、また、ぽん、と音がして1匹のふわふわとした長毛の銀の龍になった。
「さあ背に乗れ。振り落とされるでないぞ」
龍はそう言うと、ナナカ達が乗りやすいようにゆっくりと目の前に降下して来た。
「頭の所まで、上がって来るんじゃ」
まずヒイロが、器用に頭の近くまで行き、身軽なナナカも続いた。タカラもひょいと上に乗って来た。
「どこでも、掴まりやすい所に掴まっているんだぞい。
毛を引っ張っても痛くはない」
「落ちたら、帰れなくなるかもしれないから、絶対に落ちるんじゃねえぞ」
龍の頭の所で、ナナカはぎゅっと銀の長い毛にしがみついた。銀の毛は、思った通りふわふわで、とても気持ちがいい。
「みんな、気を付けて。
伍の一族は、乱暴に飛ぶからね。そうそう、上手に機嫌をとれば、変な飛び方しないからね」
ナミ小僧が、下から大きな声で言った。
「何、変な飛び方だって?」
「そんなの、するわけないぞ」
「したこと、ねえぞ」
「はいはい、分かッたから、そいじゃ、行ッてらッしゃい」
ナミ小僧が岩場で、ナナカ達に向かって両手を大きくぶんぶん振ってくれた。ぴょんぴょんと、左右に飛び跳ねている。
「行ってきます。ナミ小僧、ありがとう」
ナナカは、浜のナミ小僧へ大きく右手を振った。すると安定の悪い龍の上で、バランスを崩しかけて、体がぐらっとした。
「ナナカ、落ちるぞ、手を離すな」
ヒイロが、咄嗟に腕を伸ばしナナカを支えた。
「やれやれ、ただでさえ、暑い日に、お熱いこっで!」
「全くで!」
「ふう、やれやれだぜ! で!」
タカラも、全くだぜ、とナナカとヒイロの後ろで肩をすくめた。
そうしている内に、
「それでは、出発じゃぞい!」
お爺さんの号令の元、ゆっくりと上昇し始めた。
「ようし、飛ばすぜええ」
そう言うと、伍の一族は、空に舞い上がった。
ナナカは、既に小さくなったナミ小僧を見た。それから、正面を見た。
空を飛んでいる!!
暗い空に、自分は浮かんでいる、その事実が、夢のようだった。
風に、龍の体をまとう白い毛が、さらさらとなびいている。風は、気持ちよかった。
「すっげ……」
隣で、ヒイロのつぶやきが聞こえた。
ナナカも、何度も頷いた。
「すごい、すごいよ!」
タカラも、素晴らしい光景に目を丸くしている。言葉が出ないようだ。
銀の砂を撒いたような星空の中、空を飛ぶ龍の背には、興奮で顔を輝かせた3人の姿があった。
世界は、広い。こんなに、すばらしいことが起こるなんて。
これから向かう龍蛇穴で、一体どんなことが起こるのだろうか、期待に胸が高鳴った。
「美浦の海には『龍蛇穴』への門があるんじゃ」
「そこを通り抜ければ近いぞい」
「あっ、お父さん! 星が降り始めたぞ」
見ると、ぽろろん、と流れ星が前方を走った。
「始まったな、でもまだまだこれからだ。明日、明後日と、更に増えるだろうぜ、くっくっくっ」
「さあ、星と共に、参ろうぜい」
真ん中のお父さんか、下の孫か、それとも上のお爺さんか、誰が言ったのか分からなかったが、その言葉と共に、龍は動き始めた。
「よし、お前達、振り落とされるんじゃねえぞ」
3人とも、しっかり龍につかまり直した。
龍は、急にびゅんとスピードを上げた。ナナカ達は、必死でしがみついていた。
「すごい早さ。気を抜いたら落ちちゃうよ」
ナナカは、悲鳴のような声を上げた。
「そうさ、わしらは早いのさ。人は、わしらを光の速さで移動する龍だと言っている」
ああ、サトやカイリの話に出てきたのは、伍の一族のことだったのだ。
星が、ほろほろと、あちらでもこちらでも、流れていた。
長い距離を、さあっと流れるもの、短くひゅん、と流れるもの……まるで夜空全体が、音楽を奏でているようだ。
その中を、ナナカは、夢見心地で、風のように走り過ぎて行った。
ここまで読んでくださってありがとうございます☆☆☆
伍の一族、いかがでしょうか。
わいわいと短気な彼らを、ナナカはなんて不思議なんだろう!と思っていることでしょう(#^.^#)
たくさん活躍してほしいです。




