63.ざくろに注意!
ナミ小僧は、『龍蛇穴』の事を思い出しながら話した。
「いろんな物が売ッててね、おめんとか、ガラス細工とか、焼鳥とか……。
おいらの仲間達は、人間の食べ物は、本当はほんのちょッぴりしか食べないんだけど、人間の真似をして、お祭りをやッて楽しんでるんだよ。
おいら達、お祭り大好きなんだ。もうすぐ、美浦も、花火大会でしょ。おいらも楽しみなんだ!」
「本当に、お祭りの縁日みたいなのね」
「龍蛇穴では、ずううッとお祭りをやッてるんだよ」
「何で?」
「あそこは、お祭りの楽しい雰囲気が、気に入ッてるんだろうね。ずッと終わらないお祭りをやッてるのさ」
ナナカは、和田平太が入って行った洞穴を思い浮かべていた。ナナカが想像していたのとは、洞穴の内部の様子は違っているようだ。
『龍蛇穴』は、思っていたより、ずっと楽しい場所なのかもしれない。それとも……?
「あとね、一つ、絶対に忘れちゃいけないことを言うよ」
「何?」
ナナカはごくりと唾を飲み込んだ
「いい? 『ざくろ』だけは、何があッても食べちゃダメだよ」
「ざくろ?」
ナナカは首をかしげた。
「そう! 穴から出られなくなッちゃうんだ」
「そうなの?」
「うん、だから、絶対に食べちゃダメだよ。気をつけてね」
ナナカは、ヒイロ達と顔を見合せ、頷き合った。
ざくろは、絶対に! 食べないこと!!
深く心に刻みつけた。
「伍一族には、どうしたら会えるの?」
「真夜中になッたらこの辺りでくるくる回ッて風を起こすと思うよ。
その時に話しかければいいんだよ。
伍一族はすッごく早いんだ。
龍蛇穴まであッという間に着いちゃうよ。
みんなでいつもけんかばッかりしてるんだ。全く困ッちゃうよ。
僕ね、すッごい仲良しなんだ。家族みたいにね」
ナナカには、ナミ小僧の話だけでは、伍一族が一体どんなふうなのか、想像つかなかった。
風のように早く飛ぶ、鳥の様な感じなのだろうか。
河童の様なナミ小僧や、二翠湖の『主』の赤牛を見た後では、伍一族がどんなに変わっていても、もう驚くことはないと思った。
「家族みたいに仲良しなの?」
「うん」
ナミ小僧が大きく頷いた。
空を早く飛んで、喧嘩ばかりしていて、一族で、ナミ小僧と家族にみたいで……。伍の一族とは、本当にどんな存在なのだろう。
「ま、いっか。会えばわかるもんね。それまでのお楽しみにとっておこうっと。
じゃあ、またここに来ればいいんだよね」
「うん、ここに来て。おいらもまた来るよ」
「それまで、タカラは俺んちに来いよ」
「何で?」
タカラは、きょとんとした。
「だって、タカラは遠いから、戻ってたらここまで出て来るのはかなり大変だろ」
「そうかな」
「ああ。夜中は、バスもないし、またタクシーを使ったらお金すごく高いよ」
……こういう時にどうしたいいのか分からない。もじもじしてしまうタカラだった。トモダチに、家へ招かれるのは初めてのことなのだ。
「僕、迷惑じゃないかな」
「迷惑なもんか。うちの姉達がタカラを見たら、珍しいおもちゃを見つけたように喜ぶと思うよ」
「へえ」
「てゆうか、むしろ是非来て、相手をして欲しいくらいだ」
「ふうん」
タカラは、同じ学校なのに、あの有名な双子の先輩を知らないらしい。それはそれで、先入観のない方が、双子の本当の姿を知っても受けるショックがなくていいかもしれない。
「それじゃ、また後でここに集合ね!」
「ああ」
「うん」
「おいらも!」
ナナカは、窓にこつんと石の当たる音で目が覚めた。
寝起きでまだぼおっとしている。
(あれ、おばあちゃんちの2階の部屋だ。私何で寝てるんだっけ)
再び、窓に石がこつんと当たった。
しまった!!
ナナカは、がばっと飛び起きた。
連日、いろんなことがあって、あっちへ行ったりこっちへ行ったりと激しく動き回っているので、いつの間にか深く眠ってしまったようだ。約束の時間は過ぎていた。
急いで、静かに窓を開けた。庭には、ヒイロとタカラが立っている。
慌てて窓を閉め、物音をたてないように、そうっと階段を下りて外へ出た。
2人も、玄関の方へ回り込んでいた。
「何か、寝ちゃってたみたい……」
「全く、信じらんないよ。どういう神経してるんだか」
タカラは腕を組んで、むすっとしていた。
「この所、バタバタだから、ナナカも疲れが溜まってるんだろ、な」
ヒイロは、とりなすようにそう言って、やさしくナナカを見た。
「ちっちっ、甘いな、ヒイロは」
タカラがつーんとそう言った。
ナナカは、頭をかいた。
「ごめ~ん……」
3人は、海へ向かった。




