53.タマシズメの儀3
ナナカは返す言葉がなかった。
昼間の沈んだ表情や、悲しそうな目を思い出す。今タカラは、淡々と語っているけれど、昼に会った時には、目の奥に、湖の底のような昏さがあった。
ナナカには、はかり知ることのできない程の、大きな恐怖や不安があったに違いない。それを、今は突き抜けて覚悟を決めていた。
あの時も、学校同様、かなり素っ気ない態度だった。今も素っ気ない内には入るけど、昼間と比べると饒舌なほど、語ってくれている。
「いつも、全然しゃべってくれなかったのに、今は親切に説明してくれるのね。何でいつも愛想が悪かったの?」
「直球で言うねえ。愛想、悪かったかな? それと意識して愛想を悪くしてるつもりはないよ。
でも、そうだね、今は、二人に興味を持ってるかな」
「私達に?」
「僕をかばって赤牛に立ち向かっていこうとしただろ、あんな狂ったような暴れ牛に」
「ヒイロ、そうだったかな」
「咄嗟だったし、必死だったから、はっきり言って細かいことまであまり覚えてないよ。ただ、俺がどうにかしなきゃって考えてたけど」
「私も、怖かったけど、斎城は目を閉じていたように見えたし、言っちゃ悪いけど、ひょろっとしてて、運動も苦手そうに見えたから、守らなきゃと思ってた」
「本当にずけずけ言う人だねえ」
タカラは、おかしそうに笑った。
(あ、斎城、いい顔してる……)
初めてみる心からのタカラの笑顔だった。
昼間のような悲しそうな色はない。生き生きとして、さっぱりとした表情だった。
「変な奴らだな。自分が怪我でもしたらどうするんだよ。向う見ず過ぎると、いつか本当に大怪我をするよ。
それに、それほど運動神経が鈍いわけでもないよ」
「何言ってるの? あなたは、喰べられちゃうかもしれないんでしょう。私達の怪我の心配なんてどうでもいいのよ」
タカラは少しずれている。
でも、この周辺の人達のために、自分の身を差し出してでも助けようとする勇気がある。
ナナカ達との心の距離は、大分縮まった。
「斎城のこと、今日からタカラって名前で呼んでもいい?」
唐突なナナカの申し出に、タカラは意表を突かれたようだ。
「い、いいけど」
「決まり! 私達のことも、ナナカとヒイロって呼んでね」
「いきなりだね」
タカラは、戸惑いの表情を浮かべていた。
「今日から、トモダチよ」
ナナカは、笑顔で握手を求め、右手を伸ばした。タカラが恐る恐るそれに応じる。
「こういうの、僕、よくわかんない。今からトモダチってこと?」
ナナカは、タカラの手をぶんぶん振りながら答えた。
「今からじゃないよ、今日、もうトモダチになってたんだよ」
「ふうん」
ナナカが手を離すと、まだ納得がいかないのか、タカラは自分の右手を閉じたり開いたりした。
そんなタカラに、ヒイロも苦笑しながら握手を求めた。
「中学生日記みたいなトモダチの作り方だけど、ナナカに付き合ってやって」
ナナカは、ヒイロに馬鹿にした言い方しないでよ、と言い返そうと口を開きかけた。その時、タカラがヒイロと握手しながら、はにかんだような笑みを浮かべ、小声で言った。
「トモダチ……。そういうのも、いいかもしれないね」
中学生日記と言われ、ヒイロに反論しようとしたが、タカラの明るい声音に、ナナカは言葉を飲み込んだ。
タカラが仲間に加わった! (ドラクエ風)
今日もありがとうございました(#^.^#)
明日は、54.赤牛伝説 を投稿する予定です☆




