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49.闇を舐める炎

 タカラは、ボートの方へ近付いて来た。

「昼間の二人? 何故、今、ここにいる」

 タカラは、ナナカ達の登場に驚いた様子もなく、表情を変えずに、淡々と言った。ナナカとヒイロは、ボートの中からタカラを見上げた。


「私達、宝珠というものを探しているの。

 この二翠湖に、それが沈んでるんじゃないかと思って、探しに来たの」

 「宝珠、それは何? ここに沈んでいるのは……ううん、まあ、それはいいや。

 それより、ここは危ない。早く戻った方がいい」

「ここで一体何が起きてるんだよ。今、お前は何をしてたんだ」


「そんなこと、あんたらに関係ないだろ。とにかく去れ、早くここから立ち去ってよ。危険なんだ」

「ねえ、どうして? 何が危険なの? 『タマシズメ』って何?」


 タカラの話し方は、常に淡々としていた。

「その言葉をどこで」

 タカラは、急に押し黙った。


「来る」


 タカラは、辺りを見回した。

 今までとは違い、表情が厳しかった。


「間に合わなかったよ。もう来る」


 ナナカも、周辺を見回した。

 さっきまで静かだったのに、また風が出てきたようだ。雲が早い。


「来るって?」

 ナナカの問いには、答えてくれない。


「しょうがない。どうなっても知らないよ。

 この島へ上がって。そしてボートをもっと上へ。

 流されないよう、陸地に上げる」

 言われるまま、ナナカとヒイロは島へ降り立った。


「僕のボートも陸へ上げるのを手伝ってくれる?」

 言われるまま、2人は力を合わせ、陸へ引っ張った。

「助かったよ。僕一人の力じゃ、難しかった」


「礼はいい。それより、何がどうなってるんだ。来るって何」

 その時、突風が吹いて、ヒイロの言葉をかき消した。湖面がざわざわと波立っている。急に涼しくなってきた。


「説明してる時間がない。さあ、行こう」

 2人は、タカラに導かれるまま、篝火の焚かれる場所へ付いて行った。


 木でできた約2メートル四方の、正方形の舞台のような所の四隅に、鉄の篝火台が置かれている。高さはナナカくらいあり、その上が籠になっていて、中で闇を舐めるように炎が踊っていた。倒れないよう、下はしっかり固定されている。


 4つの真ん中に、無造作に錫杖が置かれていた。それは、頭に金属の輪が、左右3つずつ付いていて、長さは、20センチ程ある。


 タカラは、4つの炎の真ん中に座り、胡坐をかいた。そして、そばに置いてあった錫杖を両手でにぎり、体の前に腕を伸ばした。

「2人とも、近くに座って」


 ナナカは、聞きたいことがたくさんあった。

 でも、さっきまでとはがらりと変わった有無を言わせないタカラの迫力に押され、言う事を聞いて近くに座ることにした。


 火が側にあるので、顔や腕がとても熱い。

 ヒイロは、警戒を解かず、いつでも立ち上がれる態勢だ。


 雲で、月が隠れた。


 湖の上には外灯などない。

 篝火の焚かれたこの周辺以外、真っ暗になってしまった。


 空気が、ひんやりして、いつの間にか、虫の鳴く声も、全く聞こえなくなっていた。





 何かが、始まろうとしていた。


 ナナカは、ごくりと唾を飲み込んだ。

「ナナカ、大丈夫。

 何が起こっても絶対守る」

 ヒイロの顔は、炎に照らされている。

 真剣する瞳が、ナナカを捉えた。涼しげな切れ長の目に、野生的な光が宿る。


 ナナカは、緊張で体が強張っていたことに気付いた。

 普段なら、わくわくしてくるはずなのに、ナナカの勘が危険だとシグナルを発していた。


 ナナカは、ヒイロを見つめ返した。

 ヒイロは、無言で頷き、ナナカに品のいい爽やかな笑みを向けた。それだけで、ナナカは何があっても大丈夫だと安心できた。ナナカも頷き返す。



 霧が出てきた。


 むわっとする湿気が、まとわりついてくる。

 タカラは、錫杖を睨むように見て、集中している。あいかわらず、月は隠れたままである。

読んで頂いてありがとうございます。


いよいよ、何かが始まります。

楽しんでいただけたら幸いです(*^_^*)(#^.^#)


明日も朝5時に投稿します★★★

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