48.夜の湖は別の顔2
ナナカは相手に気付かれないよう、小声で伝えた。
ヒイロは既に気付いていたらしく、無言で頷いた。
2人は、音をたてないように気を付けながらそっと近付き、物陰からこっそり覗きこんだ。
誰かが、ボートに乗り込み、夜の湖に漕ぎだそうとしていた。
月明かりに照らされたその横顔は、なんと、昼間会った斎城寶だった。
なぜ、こんな夜にボートに?
ボートは悠々と湖面を滑り、左手の、湖がくびれて奥が見えない方へ進んでいく。
タカラがオールを漕ぐと、すーっとさざ波が広がり、鏡の様な水面が、銀色に光る。
タカラは、静かに左奥へ行ってしまった。
ナナカ達は、潜んでいた建物の陰から出た。
「ヒイロ、どういうことだと思う?」
「今の、昼に会ったあいつだよな。夜のイベントと関係があるのは間違いないよ。どんな奴なんだ」
いつも、一人でいる人だった。
後ろの席なので、1学期は毎朝あいさつしていたけれど、あまりちゃんと返してもらったことがなかった。
それでも、朝のあいさつは大切だと思っているナナカなので、めげずにがんばり続けていたけれど。
昼間の感じでは、ナナカの顔も知らないようだった。
クラスメートが思い思いに騒いでいても、1人静かに景色を見ているタカラ……。
あの時、何を考えていたのだろう。
そして、今日も、湖を眺めながら、何を思っていたのだろうか。
「よし、俺達も、行ってみるか」
「やっぱ、そうよね!」
「夜だから、かなり危ないと思うけど」
「2人とも、いざとなったら得意の泳ぎがあるじゃない」
ナナカは全然心配していなかった。
ヒイロがいれば、どうにかなるという安心感があった。
「これだけ明るいし、あいつが漕いで行ったルートをたどれば、浅瀬に乗り上げることもないだろう。ただ、目立つのはどうしようもない」
誰かに見咎められるかもしれない。
「そん時は、そん時よ」
「って、言うと」
「逃げるってこと」
ヒイロは、はいはいと言って、ボート置き場の方へ近付いた。
「ナナカも手伝ってくれる?」
立てかけてあったボートを、二人で持ち上げて、湖に浮かべた。ヒイロには、重い物を楽々持てるだけの、筋力もあるのだ。
二人が飛び乗っても、あまりボートは揺れなかった。二人でオールをセットする。
「行こうか」
ヒイロがそう言ってオールを漕ぎ出した。
ボートはすいーっと動き出した。
ちゃぷんちゃぷんと水がぶつかる音がする。水の中は黒く、何も見えない。
ヒイロはゆっくりと漕いでいるのに、スピードは、さっきのタカラよりずっと早い。筋力の差だろう。
ヒイロがオールを漕ぐたび、水に映る月が歪んだ。いくつも波が出来、広がっていく。眠ったような静 けさの中で、2人の乗る船は進んでいった。
左手の方へ折れると、岸にいる時は見えなかった小島が見えてきた。
十二連島の1つで、夜の中で篝火が、勢いよく燃え盛っている。
小島の辺りだけ、炎でとても明るかった。
4つの炎が蛇の舌のようにちろちろと燃え、湖面を赤黒く染めていた。ナナカ達のいる所へも、パチパチと薪の爆ぜる音が聞こえてきた。
なぜ、火が焚かれているのだろう。
「ナナカ、あそこ。ボートがある」
タカラは、この島へ上陸したのか。
木で全貌は見えないけれど、4つの篝火に囲まれた真ん中は、舞台のようになっていて、誰かが座っているのが分かった。
他に人は見当たらない。
あそこで、何をやっているんだろう。
「あいつがいる。一人だ」
目のいいヒイロが、確信をこめて言った。
「ここで何してるのかな。近付いてみる?」
「ああ、行ってみよう」
ヒイロは、すいっと島へボートを寄せた。半分陸へ上げられている、タカラのボートの側へ向かう。
近付いて来るボートへ気付いたらしく、タカラが立ち上がった。
「何をやってる」
予想通りでしたか? タカラでした★
そしてまた、間の悪い所で明日へ続くパターンで(;一_一)
ごめんなさ~い!!
明日は、49.闇を舐める炎 5時に投稿します♪




