47.夜の湖は別の顔1
「ちょっと、ナミ小僧ってばあ」
ナミ小僧が、海の中から頭だけちょこんとのぞかせた。
「おいら、口固いも~ん。えへへッ」
そう言って、水掻きのついた手を一度振って、海へ潜り、そのまま消えてしまった。
(もう。ナミ小僧ったら)
ナミ小僧の消えた辺りでは、相変わらず波と波がぶつかり合って交錯している。もう、上がって来てはくれないようだった。
ナナカは仕方なく今日の所は諦めることにした。
どうしたら、教えてくれるだろう。
『タマシズメ』……。夜のイベント……。『ゴのイチゾク』……。また、知らないキーワードが現れ、難しい顔になってしまうナナカだった。
その時、ヒイロから携帯がかかってきた。
「どうしたの?」
携帯から、ヒイロが早口で話しかけて来た。
「近所に、二翠湖ホテルでバイトしてる人がいて。
聞いたんだ。
そしたら、今日は休業で泊まり客はいないらしい。二翠湖にいた観光客の話だと、どこも満室だって言ってたよな。
おかしくないか? 夏休みっていったら、一番お客が入る時なのに……。満室どころか休業なんて」
これはもう、直接二翠湖に行って、自分達の目で夜のイベントを見るしかない。そう思うナナカだった。
すっかり遅い時間になってしまった。
一度家に帰ったら、夜から出掛けるなんて、となかなか許してもらえず、家族の目を盗んでやっと出て来たナナカだった。
夜の二翠湖でバスを降りたのは、ナナカとヒイロだけだった。
街灯に、虫が集まっている。
空を見上げると、雲がすごい速さで動いているのが見えた。
風が出てきている。
夜には雨が降ると予報が出ていたけれど、まだ雨の気配はなかった。
それどころか、今日は、月が明るい。時々、雲が隠してしまうけれど、スピードが速いので、すぐに皓々と冴え渡る月が現れる。
静かだった。
静かが過ぎた……。
昼間見たおしゃれなホテルやペンションは、完全に真っ暗だ。
見渡す限り、どこの建物も、電気が消え、物音一つしない。そんな中、街灯の無機質な白い光だけが、道路を照らしていた。
とても、異様な光景だった。
「誰もいないのか?」
ヒイロが呟いた。
ナナカはぞくぞくした。
桃香島の展望台の時とは違ったぞくぞくだった。
無人の山奥に、ヒイロと2人。
誰もいない所へ取り残されてしまったようで、恐怖が押し寄せてきた。
……のかと思ったら、そうではなくて、『怖いもの見たさ』が募り、俄然やる気が出てきた!
「ねえねえ、これから何が起こるのかしらね」
「呆れるほどこの状況を楽しんでるな。
普通じゃないぞ、誰もいないなんて」
「きっとこの辺りの人が、総出で真夏の一大イベントをやってるんだわ。
どこかしら♪
かき氷とか、私達も食べられるのかな」
「そういう心配か。気楽だなあ」
ヒイロの声の調子には気にも留めず、ナナカは陽気に笑っている。
「楽しい夏祭りをやってるなら、音が聞こえてきてもよさそうだけどな」
耳を澄ませてみても、何も聞こえてこなかった。
時々、車がバス通りを走って行く。びゅんびゅんと飛ばしている他県ナンバーが多かった。真っ暗な通りに対して、特に何も思わないのだろうか。
「湖の方へ行ってみるか」
「うん」
湖の方への下り坂にも、街灯はちゃんと設置されていて、明るかった。
一応、ナナカは懐中電灯をカバンの中に入れているが、今のところは必要なさそうだ。ヒイロは、父に厳しく稽古をつけられているので、夜でも獣のように辺りが見渡せた。
「足元、気を付けてな」
「うん」
左側のみやげ物屋も、食堂もその他の建物も、全て、明りという明りが消えていた。
目の前には、月光を反射して輝く、二翠湖が広がっている。
「本当に、静か。虫の鳴き声はするけど」
「祭りをやってそうな感じは、全くないな」
強い風が吹き、輝いていた湖面が細かく波立った。
左のボート乗り場の方で、湖面に浮いているスワンボート同士がぶつかったらしく、かつんかつんと音がした。
ナナカは、その音につられて、ボート乗り場の方を見た。何か黒い影が、動いている。目を凝らすと、かろうじて人だと分かった。
「ヒイロ、あそこ誰かいる」
また、思わせぶりな区切り方をしてしまってごめんなさい。。。
続きは明日の朝5時に(^O^)
今日も読んでくださってありがとうございます。
楽しいなと思って頂けるように、一生懸命書いていきます(*^_^*)




