46.あやしいナミ小僧
「じゃあ、どうすればいいの?」
「そうね、例えば、浜辺をきれいにするわ。
汚すのは気が引けるって、みんなに思ってもらえるように。
それに、看板を立ててPRしたり、美浦の海の環境保護について、大々的にキャンペーンをやったり。
知り合いの多いおばあちゃんや、カイちゃんが協力してくれたら、大きな流れが作れると思うの。
高校の友達と、ボランティアのグループを作るっていうのもいいかもしれないわよね」
ナナカは、荒来のダイバーから、近年の荒来周辺の海底の環境について聞いたことがあった。
魚が少なくなってきているし、最近は、汚くなってきているらしい。
ナナカは、海の側で育ってきた自分に、環境を守るため出来ることはないかと、日々考えていた。
ナナカにできることなんて、ちっぽけなことかもしれない。
でも、美浦が大好きで、自分をここまで育んでくれた美浦に、ほんのちょっぴりでも恩返ししたいのだ。
「そうなッたら、すごいや! 楽しみ!!
姉ちゃん、おいら間違ッてたかもしれない。
水着は、後で目につきやすい所に戻しておくよ」
「ナミ小僧偉いね。
そうよ。出来ることからやっていこう。いきなり大きなことはできないけど、やらないよりは、やったほうが一歩も二歩も前に進めるもの」
ナミ小僧は両手を握りしめて、力いっぱい笑顔で頷いた。
「うん!」
「ところで……ねえ、ナミ小僧。
宝珠のこと、何か知ってるんじゃない?」
ナナカはさらりとそう言った。
とたんに、ナミ小僧は不自然に目を泳がせた。
「なななな何?」
さっき、目が泳いでいたのを、見逃すナナカではない。態度が怪しい。
ナナカは、ナミ小僧の顔を覗き込んだ。
ナミ小僧は、ナナカの視線を避けるように、顔を右に反らせた。ナナカがにじり寄って顔を近付けると、今度は、白々しく口笛を吹きながら、左上を向いた。
「おいら、宝珠なんて知らないし、『伍の一族』なんて、見たことも聞いたこともないや」
適当な口笛をぴゅーぴゅー吹き、ナナカの視線から逃れるように、右斜め上を見たり、左斜め上を見たりしている。
何て嘘をつくのが下手なんだろう。
それに、初めて聞いた『ゴのイチゾク』。
絶対しゃべらないぞと思い過ぎて、うっかりしゃべってしまう所がかわいかった。
ナミ小僧は、ぽろっとしゃべってしまったことに気付いてないようだった。まだ口笛を吹きながら、目を泳がせてそわそわしている。
「ねえ、ナミ小僧」
ナナカは、一生懸命語りかけた。
「宝珠のこと、知りたいの。何か知ってたら教えて。お願いよ」
ナミ小僧は、頭の後ろに両手を組んで、空を見ている。
「今日も、暑い日になりそうだなッと」
もう夕方なのに、そんな事を言った。そしてナナカに背を向け、また、口笛を吹いた。聞こえないふりをして、やり過ごそうとしている。
ナナカは、ナミ小僧の前に回り込んで、かがんだ。
「お願い」
ナミ小僧は口笛を吹くのをやめた。ちらっと、ナナカを見た。でも、ナナカの真っ直ぐな目を見て、慌てて視線をそらした。
「知らないよ」
消え入るような小さな声だった。ナミ小僧は下を向いてしまった。
ナナカは、ぷうっとふくれた。
「もう~、それじゃ、二翠湖のことで、何か知らない?」
「二翠湖? おッかないおばちゃんがいる所だね。おいら、怖いから、あんまり会いたくないよ」
ナミ小僧は、首を振った。
(働いている人のことを言ってるんだ。本当に、感じ悪かったもん)
「あのね、『タマシズメ』って言うのは何?」
「知~らない」
『タマシズメ』という言葉は、本当に知らないようだ。
「じゃあ、『ゴのイチゾク』って?」
ナミ小僧は、ぎくっとした。
「何でナナカ姉ちゃんが『伍の一族』を知ッてるの?」
「私は知らないから聞いてるのよ。今、ナミ小僧が言ってたじゃない」
「えッ」
ナミ小僧は、両手でぱっと口を覆った。
「おいら何にも言ッてないもん。知らないもん」
口を隠したまま、もごもごしゃべり続けている。そして、そろそろと後ずさり、ぱっと海の方を向いた。
「おいら、知~らない!」
言うが早いか、ぴょんぴょん跳ねながら、そのまま海へ入ってしまった。
読んで頂いてありがとうございます!!
ナミ小僧、嘘が下手ですね。




