表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/95

44.クラスメート

 絶えず穏やかな風を受け、いろんな波が生まれ続けている。

 きらきらと、際限なく形を変えていく波光は、見ていようと思えば、いつまででも飽きずに見ていられそうだった。

 物静かに見えた湖は、生き物や風が作る波紋で、大変に賑やかだった。あちらでもこちらでも、何かが動いたり、跳ねたり、泡が出たりで忙しい。


 ヒイロは、肩から提げているナイキのショルダーバッグから、グリーンのタオルを取り出して、首筋を流れる汗を拭った。

 

「日陰に入って、パンを食べないか?」

「うん」


 もう、お昼だった。

 二人は、バスに乗る前にコンビニで菓子パンを購入していた。

 他の人達とは離れた、静かな木陰があったので、2人はそこに座りこんだ。

 ナナカも、持ってきたピンクの花柄のビニールバッグから、ハンドタオルとアクエリアスのペットボトルを取り出した。口をつけると、もう、ぬるくなっていたけれど、渇いたのどは十分に潤った。

 ヒイロも、お茶のペットボトルを取り出して、ごくごくとおいしそうに喉を鳴らしている。


「タマシズメについて、な~んにも書いてなかったね」

 ナナカのパンは、焼きそばパンだった。

 美しい湖を眺めながらの昼食は格別おいしかった。

 賑やかな湖に、目を奪われたままだった。刻々と姿を変える湖は、いくら見ていても飽きることがなかった。


 浅瀬になっているこちらには来られないようだけれど、遠くの方にはぽつりぽつりとボートが浮かんでいた。のんびり、ゆったりとした空気が、芝生の公園には流れていた。

「何を隠そうとしてるのかな」

 口をついて出るのは、やはり疑問の言葉だった。『タマシズメ』とは? そして、今晩のイベントとは??

「帰って調べるしかないかもしれないな」


「あのさ、ナミ小僧に聞いてみようかな。

 ナミ小僧は不思議な存在だから、何か知ってるかも知れないなと……あれ」


 何気なく、辺りを見渡したナナカの視界に入ってきたのは、ベンチに座って憂鬱そうに湖を見つめる、知った顔だった。

 女の子のようにきれいな顔立ちの彼は、学校では周りとの関わりを拒み、人を寄せ付けない何かがあった。


「私の席の後ろの男子なの。なんでここにいるんだろう」

 彼がいるのは、日なたのベンチだった。

 釣りの途中で休憩、というわけでもなさそうだ。道具が見当たらない。

 学校でも、ちょっぴり変わった所があったが、何で、かんかんに陽が照った暑い中で、たった一人湖を見ているのだろう。


 何か、気になった……。


 ナナカは、立ち上がった。

「ちょっと、話しかけてくる」

「え、いきなり?」

 ヒイロも、またか、と体を起こした。

 気になることは、解決しないと、もぞもぞしてくるナナカだった。


「こんにちは」

 その男子は、目だけちらっとナナカに向け、また湖の方を向いてしまった。

 ナナカがクラスメートだと気付いていないようだ。


「何か、用?」

 いつものことだけれど、随分と愛想が悪い。

斎城いつきだよね」

「そうだけど?」

 彼は、名字を呼ばれ、いぶかしげにナナカを見上げた。


「私、前の席の蒼田菜々花だよ」

「……そうだっけ? ふうん」

 ぼーっとしているような、興味のないような話し方だった。


「隣、座ってもいい?」

「いいけど」

 彼は、また湖へ目線を戻した。


「友達と一緒なの。その人もいい?」

「好きにすれば」

 ナナカは、こちらをちらちら見ているヒイロを呼んだ。


 彼の名前は、斎城いつきたから

 タカラは、教室ではいつも頬杖をついて、窓の外をぼんやり眺めていた。沈んだ表情で、学校のクラスメートに関心がなさそうに見えた。


「こんなに陽の当たる所に、よく座っていられるね。暑くない?」

「別に。気にならないよ」


 確かに、タカラは、この暑さを何とも思ってないようだ。

 昏い目でじっと湖を見ている。ナナカやヒイロには、興味がないらしい。その表情は、いつものように沈んでいる。

「邪魔してごめん。ナナカ、もう行かないか」

 ヒイロは、遮るもののないこの場所が、たまらなく暑いらしかった。ヒイロが立ち上がっても、ナナカは動かなかった。タカラをじっと見た。


 よく見ると、なんて悲しそうな目をしているのだろうか。

 この湖の、深い底の底まで、落ちていってしまいそうな、沈んだ眼だった。最近、こんな目をした人に会ったばかりの気がする。この目。


 ……誰だっけ。


(そうだ、機織姫だ)


 姿すがたかたちは全然違うけれど、目の奥がくらく、寂しそうな所が似ていた。


読んでくださってありがとうございます。


やっとタカラ登場まできましたあ!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ