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43.鏡の湖

 この地域の人達からは、何も聞き出せそうになかった。


 でも、確実に何かある!


 一体、それは、何なのか……。


 監視するような目線が、ナナカの肌にじっとりと張り付いてくるようで、気持ち悪かった。

 

「湖を一周歩いてみないか。ここにいても、じろじろ見られて気持ち悪いし」

「ええ」


 ナナカは、湖周を歩くのは初めてだった。

 護岸工事が施され、きれいな遊歩道が整備されている所もあれば、舗装されていない所もあった。舗装されていない所は、起伏も激しく、むき出しの土から、木の根も出ている。

 引っ掛からないよう、気を付けて歩かないと、うっかり躓いたり、滑ったりしそうだった。


 時々、散策中の人とすれ違った。

 観光客もいれば、近隣で散歩を日課としている人もいるようだ。


 お互いに、笑顔で「こんにちは」とあいさつを交わし合って通り過ぎた。

 みんな、汗を拭き拭き、息をはずませながら、通り過ぎていく。

 また、岸から、釣り糸を垂らしている人もいた。


 ヒイロの歩みは軽快だった。

 涼しい顔で進んでいく。

 傾斜のある木の階段を上る時、長い足でとんとんと羽のように上っていた。

 セミの声が、すぐ側でうるさかった。

 セミと言えば、伝海は、あれからどうなったのだろう?


 二人が見つけたのは、湖についての案内や、有名な歌人の歌碑だった。でも、玉が湖に沈んでいるとは、どこにも書かれていなかった。

 急なアップダウンを繰り返した先に、平らな場所が広がっていた。もみじ広場という看板が立っていた。

 ナナカの学校の教室位の広さがあって、背の高いもみじの木が、点々と立っている。10本くらいあるだろうか。


 ここまで、かなりのハイペースで歩いてきたので、ナナカは広場に入ると思わず足を止めた。

ナナカは、3メートル位あるもみじを見上げた。

「秋には真っ赤になるんだろうね」

 ナナカの声に振り返ったヒイロも立ち止まった。

「へえ、もみじか」


 ヒイロは、一番太くて背の高いもみじの側に歩み寄った。そして手をかざし、木漏れ日を遮りながら、木を見上げた。

 爽やかな風が、ヒイロとナナカの髪を揺らしていく。歩き続けて来たナナカには気持ちの良い風だった。

 ナナカもヒイロの真似をして見上げると、もみじは青々と葉を広げ、重なり合って、この広場の天井のようだった。葉ずれの音が、しゃらしゃら涼しく奏でられている。

 ナナカは、大きく伸びをして、山の清涼な空気を思いっきり吸い込んだ。


「ねえヒイロ。十二連島って書いてあったけど、小島は十二個もないよね」


 ナナカは湖の方を見て、島の数を数えてみた。先程、案内板に、小島が十二個あると書かれていたが、どう数えても、十二もあるとは見えない。角度が悪いのかと思って、湖を回りながら数えてみたけれど、やはり、足りなかった。


「うん、風化したんだろうな」

 ここまでかなりの悪路だった。

 でもヒイロは、余裕の表情だ。

「さあ、休憩終わり! もう半分以上歩いたわよね。あと一息、がんばろっ」

 ナナカは気合いを入れるため、声を張り上げた。


 再び歩き出す。


 さらに進むと、さっきボート乗り場の所から見えた、青い芝生の公園に着いた。扇形の地形で、浜辺のように、絶えず小波が打ち寄せている。


 もみじ広場の2~3倍広かった。一面に芝生が生え、ベンチがあり、憩いの場となっているようだ。木には、ブランコが1つぶら下がっている。

 大きな木の下のベンチには、4、5人で、バーベキューの準備をしている大人達がいた。

 また、別の木陰では、レジャーシートを広げて、お茶を飲んでいる赤ちゃんずれの家族もいた。

 波打ち際には、小学校低学年位の3人の男の子達もいた。側で、犬連れの大人達が休んでいるので、このグループの子どもらしい。


 さらさらと湖面を撫でるように風が吹いて、鏡の様な湖がぴかぴか輝いていた。

 水際みなぎわには、ひっきりなしに、小波が打ち寄せている。

 よく見ると、あちこちで、あめんぼがジグザグに走ったり、小魚が水面近くを泳いでいて、波紋がいくつも出来ていた。

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