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41.二翠湖

 8月7日は、また、快晴だった。


 琉河を出る時、既に気温はどんどん上昇していた。

 ただ、夜には少し雨が降るかもしれないとの天気予報が出ていた。雨が降れば、明日はもう少し涼しくなってくれるだろう。


 ナナカとヒイロは二翠湖へ向うために、バスへ乗り込んだ。

 桃香島へ行く前には、ヒイロへの連絡をうっかり忘れてしまったけれど、昨日の内に、二翠湖へ行きたいと、ばっちり連絡しておいた。

 バスは、夏休み中の旅行者でいっぱいだった。車内は、旅行を楽しむ人々の、明るく楽しげな雰囲気で、活気に満ちている。





 バスに揺られ、30分……。


 ついに「次は二翠湖」のアナウンスが流れ、ナナカは降車ボタンを押した。

「着いたね」

 肩からショルダーバッグを提げたヒイロもやさしく笑みを浮かべ頷く。

「だな」


 バス停で降りると、外の暑さは多少和らいで感じられた。

 山の上は、海辺の荒来や、琉河と比べると、まだ過ごしやすかった。

 濃い緑の木々が、うっそうと茂っている。

 バス停付近には、おしゃれなホテルやペンションが数軒並んでいた。バス通り沿いに進行方向へいけば、その先に、白い近代的な美術館もある。


 ナナカとヒイロは、バス停から湖の方へ伸びる坂を下った。歩くと、ヒイロの鈴が風に乗って小さくりりんと鳴っている。


 坂を下って行くと、眼下に碧い(あお)湖が広がっていた。

 陽光を浴び輝く湖は、心がしんみりするほど美しかった。が。

「あっ、かき氷!」

 下り坂左側の、土産物屋の軒下で、氷の文字がはためいていた。


 ナナカには、風光明媚な景色より、氷の旗の方が目を引いたのだった……。

 そのままお店を覗きこもうとしたが、肩を抑えられ、後にしてくれとヒイロに止められてしまった。

(ちぇっ、ちぇっ、ちええだ)


 坂を下りきると、視界が大きく開けた。湖は、広々として、陽の光を反射しきらきら光っている。


 湖面を、風が凪いでゆくと。


 さあっと、波紋が幾重にも広がり、輝き、それがずっと続いてゆく……。


 湖には、数艘のボートが出ていた。

 ボートの多くは、釣りを楽しむ客のようだ。

 さらにスワンボートも、湖面に尾を引いて、すうっと走って行く。ナナカから見て左側の岸の先の方には、続く陸地に青々とした芝生の公園も遠望できた。

「あの公園、行きたいね。木にブランコがある」

 木から紐が垂れ下がり、ブランコになっていた。


 湖は、ひょうたんが曲がったような形をしていた。

 昔、近くの火山が噴火して、ひょうたんのくびれの片側が出来た。もう片方のくびれは、山崩れでできたものらしい。

 今、ナナカ達の立つ所から見て左側のくびれが、火山の噴火で出来たもので、右側より大きくせり出しているので、湖の左奥の方は、隠れて見えなかった。


 二人の立っている所から岸に沿って左側には食堂があり、さらにその奥にはログハウスのペンションが建っている。それらの建物の前は湖に面していて、ボート乗り場になっていた。


「スワンボートだぁ」


 カイリと乗ったことが懐かしかった。

 小学校の低学年位だっただろうか。おぼろげながら思い浮かべると、あの時は、一生懸命漕いだら、太ももが疲れ、痛くてだるくてたまらなくなってしまった。そしてカイリにうんとがんばってもらったような気がした。


「……乗りたいなんて言い出さないだろうね」

 ヒイロが、ナナカの声音から何かを感じ、機先を制した。

「えっ。ううん」

 ヒイロの言い方と、目力に、無言の圧力を感じたナナカだった。ちょっぴり乗りたいな、と思っていたけれど、探す事の方が先だものねとナナカは自分に言い聞かせた。


「土産物屋も、食べ物屋も、ペンションも、同じグループが経営してたんだな」

 ヒイロは、ふうんと感心した。

「そうなの?」

 ナナカも知らなかった。

 そういえば確かに、看板には赤い色で、牛をかたどったマークが入っていた。右手のバンガローにも、釣り具屋や他の建物にも、湖沿いの建物には、看板の店名に全て同じマークが入っている。

 前に来たのは小さな頃だったので、同じ系列だったのは知らなかった。


「ここに住んでる人なら、『タマシズメ』について何か知ってるかもしれないわよね、私、聞いてみるっ」

「え、おい、ナナカ!」

ヒイロが焦って止める間もなく、ナナカは勢いよく行動を開始した。

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