40.新たな場所へ
「おばあちゃん、宝珠見つけられなかったの……」
二人は、夕暮れ前に美浦に帰り着いた。
ナナカはヒイロと別れ、サトの家に戻って来た。
和菓子が大好きなサトのために、お土産に買った12個入りの饅頭の箱を手渡した。
「おいしそうだなあ。ありがとうな、ナナカ、後でゆっくり食べさせてもらうよ。
それにしても、お前はせっかち過ぎるなあ。
昨日は、ナミ小僧の話をし始めたら、急に飛び出して行って」
「だって、ナミ小僧を助けたのを思い出したの。
それで、会いたくなって……」
「はっはっはっ、元気が過ぎるよ。思い立ったが吉日というのも困りものだ。
日暮れ前にネコミミ島に行って、溺れかけたりなあ」
ナナカはギクッとした。
「溺れそうになったの、知ってたの?」
サトは、笑みを含んだ目を向けた。ナナカは、しょぼんとうな垂れる。
(バレてた!)
やっぱり、サトはすごい。ぜ~んぶ、承知、お見通しなのだ。
(すご過ぎる!)
ナナカは気を取り直し、顔を上げた。
こんなにすごいんだもの、宝珠のことだって!
「ねえ、おばあちゃん、他にありそうな所をどこか知らない?」
「昨日も言ったろう。何かが、風を遮っているんだ。
宝珠のありかを隠そうとしているのかもなあ」
(私も風を遮ることが出来たら、おああちゃんに溺れそうになったことや、他にも内緒にしたい事が、知られないで済むのになあ)
同じ血を引いているはずなんだけど……と思うナナカだった。
ナナカは、サトが溺れたことを家族やヒイロに黙っていてくれるように願うばかりだ。
「どんなことでも、いいのよ」
あれだけ関係のありそうな情報がいっぱいあった桃香島で、無かったのだ。他のどこにあるというのだろう。
「そうさなあ、関係あるかわからないがなあ」
サトは、言い淀んだ。言うか言わないか迷うような口ぶりだ。
ナナカは、見逃さなかった。
「小さなことでも、どんなことでもいいの。教えておばあちゃん」
「全く関係ないかもしれん」
「もうこうなったら何でもいいわ、もしかしたら関係あるかもしれないし。教えてっ」
ナナカは、ずいっと近付き懇願した。
伝海達の動きも気になる。
なぜ、桃香島にいたのかと言えば、ナナカと同じことを考え、あそこに目を付けたからだろう。
「本当に、無関係かもしれんぞ。
美浦には『タマシズメの湖』と呼ばれておる所がある」
「玉沈め? どこかに宝珠が沈んでいるってことかしら?」
「それは分からんなあ。わしに分かるのは、風が教えてくれることだけだ」
「ねえそれって、どこなのかな」
「ああ、二翠湖だ」
「二翠湖!? 二翠湖ってあの二翠湖?」
二翠湖は、美浦の山の奥にある周囲4キロの湖で、大昔に火山の爆発で出来た、火口湖だと考えられている美しい湖だった。
湖面は、磨いた鏡のようで、四季折々の美しい景色が見られ、観光客や釣り客で賑わう湖だった。
ナナカは、確か、子どもの頃、二翠湖でカイリとスワンボートに乗ったことがあった気がする。でも、それ以来、もう長い間行っていなかった。
二翠湖までは、駅からバスで30分くらいだろうか。
「おばあちゃん、ありがとう。また来るね」
ナナカは、立ち上がった。
「やれやれ、せっかちなことだ」
サトが、豪快に笑った。
「だって、毎日時間はあっという間なんだもの。立ち止まってなんて、いられないわ」
明日は、二翠湖へ行く、そう決めたナナカだった。




