4.足取りは早まる
自然と、祖母サトの元へ向かう足取りも早まった。
暑い中でも、ばてることはない。
ナナカは運動が大得意で、体力にも自信があった。
(宝珠ってなんだろう。
竹取物語で、なんとか大納言が、かぐや姫から龍の玉を探して来るように言われたわよね。
あの話はおばあちゃんから聞いた昔話だっけ?)
いろんな想像が、思い浮かんだ。
全てはサトに会ってからだ。
(おばあちゃんに聞けば、きっと何か手掛かりが見つかる!)
ナナカが子どもの頃、サトが、
「今日は、大漁だよ」
と言うと、不思議と地元の漁船には大漁旗がはためいて、漁協は活気に溢れた。最近は、不漁が多いので、そういうことも少なくなってしまったが。
母方の祖母に当たるサトは、生まれも育ちも、漁師町の荒来だった。
昔から、サトの言うことは必ず的中するので、地元の人達もナナカも強い畏敬の念を抱いている。
近所の人はみんな、困ったことがあれば、サトのもとへ相談に押しかけて来るのだった。地元のことで、知らないことは何もないというくらい、サトは大変な物知りだ。
いろんな言い伝えや昔話にも詳しく、子どもの頃は、ナナカ達がわくわくするような話や、怖~い話もよく話して聞かせてくれた。
その中で、一番ナナカの心に残っているのは『ナミ小僧』の話だった。
荒来を過ぎ、磯沿いに南下した辺りに、海の波と波とが互いにぶつかりあって、交錯している場所がある。本来の三角波とは違うらしいが、地元では、三角波で通っていた。
その一体の海の色は、輝くエメラルドグリーンで、左からも右からも波が起こり、交差し合って磯に到達していた。とても美しい光景なのだけれど、見た目とは裏腹に、大変に危険なポイントだった。
潮の流れが複雑で、昔から何人もの人が溺れているし、死者も出ていた。
子どもの頃、サトに聞いた話では、遥か昔から『ナミ小僧』という少年が住みついていて、たった独りで三角波の海にいる寂しさと、人間への憎しみから、人を海に引きずり込むらしかった。
幼馴染みの、双子の桜子達や、その弟ヒイロ、ナナカの兄カイリ、また、この近所のナナカのトモダチはみんな『ナミ小僧』の話を聞いた日の夜は、まだ小さかったこともあり、怖くて眠れない思いをした。
ナナカもその夜『ナミ小僧』のことを想像した。
白い顔をして、口が裂け、恨みがましい細い目をしたおどろおどろしい少年が、びしょびしょに濡れた姿で、ずるずると海から這い上がって来る。
そして、人間を憎んでいて、海の中に引き摺りこむ……。
恐怖で心臓のどきどきが止まらなかった。
でも、そのお陰で、三角波の起こる磯には、子どもは怖がって近づかなくなった。
そんな物知りのサトの周りは、大人から子どもまで、人が大勢集まっていて、いつも賑やかだ。何より、サト自身人と話すのが大好きだった。
機織姫の話は、他の誰も信じてくれないかもしれない。
でも、サトなら信じてくれる、そう思いたい。
それに。
(今日、会えるといいけど)
久しぶりに、荒来に住むあの幼馴染にも会っていくかな、という気持ちになっていた。
3月31日タイトルを変えました☆