34.夏の思い出2
洞窟の行き止まりに着いてしまった。
そこに、この洞窟には更に先があり、ずっと奥で富士山と繋がっているという伝説がある、と書かれていた。
ナナカもヒイロも言葉が出なかった。
でも、まだ第二岩屋の方がある。
係の人にロウソクを返し、そちらの方へ行ってみた。
第二岩屋へは、一度外へ出て、橋を渡って行くようだ。橋の上で、何人もの観光客が海風に吹かれながら、景色を撮影していた。
第二岩屋は、第一岩屋と違い、すぐに奥へ着いてしまった。そして、その奥にいたのは。
「こういうことなの~?」
ナナカはますますがっかりした。
奥には、ライトアップされた雑な龍の模型が飾られていた。
ヒイロも、苦く笑っている。
「ここには、なさそうだな」
何とも安っぽい感じだった。
再び第一岩屋へと続く橋の上に出た。
外は眩しい。
岩屋内は、とても涼しかっただけに、外はやたらと暑かった。
ナナカは、深呼吸した。ここで宝珠を絶対見つけ出さなくてはと意気込み過ぎて硬くなっていたらしい。潮風に当たり、深呼吸するのは気持ち良かった。
「ナナカ、あそこ見て」
ヒイロが何かを指差した。足元の波間の方向だ。そこに、観光客もデジカメを向けている。そういえばさっきも、そのポイントでみんな写真を撮っていた。
「何?」
「あそこ、何に見える?」
岩に波がざぶんと当たっている。その、岩の形は。
「ああっ、カメだ!」
自然の造形とは不思議なものだ。その岩は、海を泳いでいるカメが顔を出しているように見えた。
「おっもしろ~い」
ナナカは、急に気持ちが軽くなった。
宝珠に気を取られて、視野が狭くなっていた。夏休みに、せっかくこんな遠くまで来たのだ。周りの人達も、観光を楽しんでいる。まだ正午だった。カイリから、お小遣いももらっている。
「ヒイロ、どこかでおいしいもの食べたいね」
土産物屋や、食事処が島内にはひしめいていた。海鮮物の幟も多数あった。
「ああ」
ヒイロの声も明るく弾み出した。
悩みに悩んでナナカ達が入ったのは、海に面した広い食堂だった。
店内は広く、中央部は座敷になっていて、外にテラスがあり、海を見ながらの食事も出来る所だった。
「席は、海側がよろしいですか?」
店員のふくよかな女性が笑顔で言った。
「はい!」
案内された席は、下が海だった。崖になっていて、高さがある。海上に、2台の水上バイクが走っている。
また、餌を狙うトンビも飛んでいた。
「とんびって、風に乗って同じ場所を飛んでいられるんだね」
ナナカは、海鮮丼、ヒイロは生シラス丼を注文した。ナナカは、カイリに見せるために、写メを撮った。ヒイロの生シラス丼も撮らせてもらった。
「わあ、おっいしいねえ」
新鮮で、脂が乗っていて、口の中でとろけてゆく。
「宝珠はなかったけど、来て良かったな。お昼もカイ兄のおごりだし」
「ヒイロ、今日はありがとうね」
「ああ! せっかくだから、いろいろ見て周ろうぜ」
生シラス丼から目を離し、ヒイロが爽やかで屈託のない笑顔でナナカを見た。
食べ終わった二人は、島の頂上の展望台を目指した。
展望台までの庭園に、明治時代の温室跡のレンガの遺構があり、花が植えられている。きれいなその場所も、写メに撮った。
「やっぱり、ここもかあ」
展望台は、30分待ちとの看板が出ていた。人がずらりと並んでいる。
展望台付近は広場になっていた。
今日は、ハワイアンのフェスティバルが開催されている。ここまで来る途中も、ハワイアンミュージックが聞こえてきていた。
舞台上では、きれいなお姉さん達がフラダンスを披露していた。そして、展望台の順番待ちをしている客の列の側では、ハワイアン雑貨や、食べ物、飲み物が売られていた。




