32.よく、わからないこと
カイリは、どうして急に心が動いて、2人のために調べてみようと思ったのか、自分でもこの気持ちをうまく言い表せなかった。
けしてナナカの話を信じた訳では、ない。
なのに。
友達には、約束の時間を、夜に変えてもらってまで調べていた。昔から、ナナカに弱いカイリではあった。でも、今回はそれだけではなかった。
2人は、過ぎるくらいにまっすぐだった。
朝、話した時には、短い間にこちらまで清々しい気持いに包まれたような気がした。でも、すぐに息苦しさも感じた。
2人は『お綺麗』過ぎて、自分とは心のありようが違う。
羨望?
嫉妬?
懐古……。
ヒイロは、いざとなったら冷静な対処が出来る奴なので、大丈夫だと思うけれど、ナナカは。
変なことに首を突っ込んで、痛い目に合うんじゃないかと心配もある(と、自分で自分を肯定するための言い訳か?)。
2人には、このままでいて欲しい、という願望か(いつの間にか、自分が擦れ(す)れてしまったように感じるから)。
妹に、失望されたくない、いつまでも頼りになる兄だと思われていたい(これは、事実として)。
活き活きしている二人を、傷つけてしまいたい(キレイ過ぎて壊してやりたいという暗い衝動に突き動かされる……)
……。
……。
いろんな感情で自分が混沌としていて、よく、分からなかった。
新しい生活を始め、カイリの価値観は大きく変わった。
無味乾燥の大都会で、慌ただしく先を急ぐ疲れた人達とすれ違う毎日は、空々しく、息苦しかった。
大学へ進学したら『行って何をするか』考えていたつもりだったけれど、実際、苦しかった受験勉強から解放されてみると、何をどうしたらいいか、よく、分からなかった。
ここに何かを置き忘れて来てしまったのかもしれない。そう思って美浦に帰ってきた。もちろん、自分の帰りを待つ、家族や仲間達もいるからだけれど。
でも。
実際に、美浦へ帰ってきて。
この数カ月の間に、自分は異質なモノに変わっていた。
ナナカ達とは、いつの間にか、道が、岐れていた。
(う~ん、たくさんあり過ぎて、決めらんないよ)
何でも願いが叶うと思うと、次から次へとポンポン思い浮かんでくる。
大好きなケーキ屋『たりも』のレモンパイを、ホールのまんま食べてみたい、とか、モデルさんみたいにスタイルが良くなりたい、とか、宝くじの1等に当たりたい……とか。きりなく浮かんでくる。
ナナカはふと進路の調査票のことを思い出した。
思いきって、一番いい進路に進ませて下さいって、願ってみたらどうだろう。
(一番いい進路っていうのが何なのか、具体的にわかんないけどね)
そんなすごい宝物なら、絶対見つけ出したい!
それに宝珠を売ったらすっごいリッチになれるのかしら。
「ねえねえカイちゃん、だからきっと伝海達も探してるんだよね」
伝海だけでなく、誰だって欲しいに決まっている。
(機織姫は大切な物だって言ってた。なんで無くなっちゃったのかしら)
ナナカは電車の時刻を調べたら、桃香島のことも調べたくなった。そのままカイリのパソコンで検索させてもらったら、ブログやレストランのサイトなど様々な記事がヒットした。
その中にあった島全体の観光マップに、ナナカの目は止まった。
そこには、ナナカ達が向かおうとしている桃香島の岩屋について掲載されていた。
「鎌倉幕府を開いた源頼朝が、奥州の藤原秀衝征伐を祈願した場所、だって。
何か関係ありそう」
更に、別名、『龍穴』ともいうらしい。
(『龍穴』? ここに行けば何かわかるはず!)
「あっ、ロウソクが配られるんだって。探検だよ、カイちゃん、すごいね」
ナナカが振り返ると、後ろに立って覗きこんでいたカイリは、何か考え事をしていたようだった。
「カイちゃん?」
「え? あ、ごめんな。ナナカ、小遣いをやるから、旨いもの食って来いよ。ほらここに生シラス丼が有名だって書いてある」
カイリは、小さく笑った。
ナナカの頭をぽんぽん、と軽く叩く。それは、ナナカが小さい頃、カイリがよくやったことだった。
「んもう、小学生じゃないんだから」
「大きな小学生みたいなもんだろう」
「そんなこと、ないもの。もう、高校生なのよ」
「いや、ヒイロもきっとそう言うね」




