30.新しい情報3
「龍はね、目には見えない位のスピードなんだって。
あと、将軍の源頼家が、美浦の奥地で狩りをした時に、近くに深い洞穴があったんだって。その洞穴に、大きな蛇が住み付いて、人を脅して悪さばかりしてたって!」
ナナカは興奮して、身を乗り出して早口にしゃべった。
「そうだったな」
「それとね! 桃香島にも五つの頭を持つ龍がいてね! 龍があっちでもこっちでも出て来るの!!
カイちゃん、ちょっと待って、ええと頭がこんがらがっちゃわないように整理しないと」
「五つの頭を持つ龍? それは知らないな」
朝はナナカも知らなかったのだ。カイリも初耳だった。
「そうよね、それじゃえっとお、五つの頭を持つ龍は置いといて。
まず、美浦の岬の『龍蛇穴』っていうのは、『ネコミミ島』の『龍穴』のこと? あそこに龍がいるの?」
ナナカは、カイリからの新たな情報に、鼓動の高鳴りを感じた。
カイリは、身を乗り出して力説するナナカを、おかしそうに笑った。日焼けした肌に、白い歯が目立つ。
「落ち着けって。
ナナカは、焦るとすぐに早口になって、それで、舌を噛みそうになるんだよな。もともと舌足らずなんだから、焦ってしゃべると、口が回らないだろう。
焦らなくても説明するから」
ナナカは、いつの間にか、カイリに噛みつきそうな勢いで、座っていたベッドから身を乗り出していた。カイリはその肩を抑え、ナナカの体を戻した。
「う、うん」
すうはあと、ナナカは大きく深呼吸した。
「よし」
カイリは頷いてから、椅子をくるっと回して机の方を振り返り、起動したパソコンの画面を見た。
「これらが、何を表しているのか、だ。でもそれは、俺にはわからない。
龍っていうのが何のことなのか、龍は想像上の伝説の生き物だろ。
実際に龍なんている訳ないんだから、何か他の事――例えば、昔の人の間では、雷は龍だと考えられていた。
そして、龍が雨を降らせているともされていた。
そういう風に、何かの自然現象や人工物が転じて、龍を思わせる『伝承』になっているんじゃないかな」
「そうかな、本当にいると思うよ」
ナナカは、勢い込んで言った。そしてポケットの櫛に触れてみた。
「朝話したけど、和田平太だって、実際には、洞窟で玉を見つけたせいで死んだ訳ではないんだよ。
洞窟同士が繋がってるっていうのも、龍が光の速さで通り抜けてるっていうのも、そういう『伝承』があるということで、本当は何のことを言ってるのかだ」
カイリは、パソコンから視線を離し、椅子の背にもたれた。
「それはわからないんだけどね」
カイリは、目が疲れたようで、一度ギュッと強く閉じた。それからまた、体を起こし、パソコンの画面に顔を近付けた。
パソコンの横には、古い本や、プリントアウトした紙が何枚も置いてある。カイリは、ナナカが出掛けてから、ずっと調べ続けていてくれたのかもしれない。
実家で過ごせる貴重な時間を、ナナカのために使ってくれたのだ。
ナナカは、心がつうんとした。
カイリの気持ちに心が温かくなった。
朝、カイリを冷たくなったと思った。
何てひどいことを思ってしまったんだろう! 全然ナナカの話を信じてくれてないかもしれないけれど、ナナカに付き合って調べてくれたのだ。
やはり、カイリはカイリ。
ナナカが信頼する兄だった。
サトのことだって、話せば分かってくれるかもしれない。
ナナカは、心の中で手を合わせ、ごめんなさいと謝った。
「ナナカ、どうかした?」
カイリは、いつの間にかナナカの方を向いていた。覗き込むように、ナナカを見ている。
「やっぱり、昨日熱を出したのが、まだ響いてるんじゃないか?
朝から出掛けて、疲れただろ。
夜は外に行かないで、早めに休んだ方がいいと思うぞ」
カイリが、ナナカの額に手を当てた。カイリの手は、気持ち良かった。
「ううん、何でもない。へーきよ、ちょっと龍のことを考えてたの」




